恋のペネトレート episode 23

ピッィィ!!
巨躯がコートに倒れ、ガーデンにホイッスルの音が響いた
痛みに顔が歪み、その数秒後に観客からため息が漏れる

試合終盤にビッグマンにハックをしかけることはこの世界では当たり前に行われる戦術だ
自分がそのターゲットとされることはこれまでも多く、別に驚きはなかった

足首の痛みとともにゆっくり起き上がり、フリースローラインに向かいながら彼はつぶやく
「Mom、見てるかい」

彼には恩師がいる
高校で指導を受け、その後も親密な関係を築いている恩師だ

その恩師には妻がいた
彼女は、会うといつも自分のプレイを褒めてくれた

「すごいじゃない、あなた以上に高く跳べる人なんていないわ」
「コートをDominate(支配)するところ、また観せてね」

彼はペイント内の守護神として年々成長を続けていたが、故障も多く、長期の欠場が決まるたびに彼女のもとを訪れていた

「私知ってるわよ。あなたは何でもできる。クロスオーバーでも何でも、ね。」
「でもチームのために役割に徹してるのよね。えらいわ。」
「シュートだけはちょっと苦手だけど、それはButchのせいだから気にしないで。」
「リングとボールが小さ過ぎるのよ、きっと。」

本当はスリーも打てるんだけどな、と、この時彼は思ったが、横にいた恩師に平手打ちを食らいそうだったので口をつぐんだ

レフェリーとオフィシャルの確認が終わり、彼はフリースローラインに立った
シュート前のルーティーンを始めた時、足首に痛みが走った

彼は度重なる、時には不運な、邪悪にも思える接触によって多くのケガを負っていた
Momに比べたら全然大したことじゃないよ、と彼は心のなかで彼女に向かって言った

そこで、彼女が亡くなる前に笑いながら言っていたことを反芻した

「もし私が空の上に行ったら、シュートの時上から必ず見てるからね。」
「なるべく私に近いところまでボールを投げてね。私がちょっとイタズラして、リングに通してあげるから。」

ふうっ、と息を吐いて彼はボールを放つ
ボールはいつものように綺麗に回転しながら、いつもとは違って高い弧を描きリングに向かう

次の瞬間、床が抜けそうなくらい大きな歓声がガーデンに響き渡った

彼は天井に、その先の空に視線を送り、口元で小さくThank youとつぶやいた

「さぁ、もう1本!」

彼は笑みを浮かべながら、レフェリーからボールを受け取った

[完]

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