必要なのは現代日本の常識を疑うこと――予算180万円で家を建てる「超低コスト住宅」プロジェクト
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必要なのは現代日本の常識を疑うこと――予算180万円で家を建てる「超低コスト住宅」プロジェクト

(文=モリジュンヤ/ライター)

地方は人を呼びこもうとする動きを強めている。地方創生の動きが各地で活発になり、田舎で暮らしたいという人たちが 実際に地方へと移住する人も少なくない。だが、地方に移住するというのは、課題も多い。そのひとつが、「物件の確保」だ。

地方には空き家や空きビル等が多く、安く借りることができるという話をよく耳にする。その中で、”すぐに住める状態”の物件数は、それほど多くない。そうなるとどうなるか。

ある地域からの情報発信や誘致のための施策がはまり、移住希望者が殺到したとしよう。だが、住める物件には限りがある。人を受け入れたくとも、受け入れられない状態が続いてしまう。

――地方に空き物件がないのであれば、自分たちで安く建てられないか。そう考えた一人の男がいる。ナリワイの伊藤洋志氏だ。

自分の手で生活と仕事を作る

伊藤洋志氏(ナリワイ)

ナリワイとは、個人で元手が少なく多少の訓練ではじめられて、やればやるほど健康になり、技が身につき、仲間が増える仕事のことを指す。伊藤氏は、生活から乖離してしまった仕事を、個人の手の届く範囲に近づけようと、様々な活動を行っている。

モンゴルやタイで現地の生活技術を身につけるワークショップを行ったり、木造校舎を舞台に作家を中心に制作するウェディングを手がけたり、お店を校舎にして行う生活の仕方も合わせて学ぶ短期集中スクール「ナリワイ寺小屋」を開催したり、床張りを請け負う床張りセミプロ集団「全国床張り協会」の主宰をしたりと、その活動は多岐に渡る。

そんな伊藤氏が遠野の土地で取り組むのは、「超低コスト住宅」のプロジェクトだ。

超低コスト住宅を自分で建てられないか

「移住において、物件の確保は大きな課題です。空き家があってもボロかったり、改修している間に大家の気が変わってしまったり、ちょっと地域が盛り上がると空き家がなくなってしまったり。なかなか物件を確保することができません。これは、もう建てたほうがいいのではないか、そう考えたのがプロジェクトの始まりです」(伊藤氏)

家が空くのを待っている間に、移住の熱は冷めてしまう。モチベーションが高まっている間に、人が移住できるよう、伊藤氏は自分たちで家を建てられるようにできないか、と考えた。

目標とする予算はなんと180万円。自分たちで建てられても、コストが高くては意味がない。「超低コスト住宅」プロジェクトでは、移住希望者が負担できそうな予算で、まともに住める空き家に引っ越すまでの数年間住むことができる家を、自分の手で作る方法を模索する。

海外では自分で家を建てるケースも多い

「海外を見ていると、デンマークの田舎では基本的に家は自分で建てていますし、タイの山岳民族は村人で協力して竹で家を建てています。遠野でも、地域にある資源を使って、自分たちで家を建てるための方法をいろいろと試していきたい」(伊藤氏)

超低コストを実現するためには、物資のコストも下げていかなくてはならない。無料でもらえるものを使い、どうやって家を作るかを発想する必要がある。

「無料でもらえる不揃いな資材を使って制作するのは、舞台美術の人とかが得意なんです。プロジェクトに関わる人を建築畑ではない人たちにすることも重要になると思っています」(伊藤氏)

地域の間伐材や必要のなくなった木材を用いる他にも、産業用の大きな水道管を用いて住宅にしたり、使い捨てだと言われているプレハブ住宅を改装して家にすることもこれまで試みられてきた。これら過去の事例を検証しアップデートすることも重要なテーマだ。

「超低コスト住宅」プロジェクトでは、こうした資源を活用しながら家を建てる手法を調査し、遠野で実際に色んなパターンの超低コスト住宅を建てて、住んでみることになる。

家をめぐる様々な条件を見直していく

色んなパターンを試す理由には、遠野の自然条件に合わせていくという目的もある。遠野の土地は、夏は暑く、冬は寒い。また湿気も高いなど、厳しい自然条件の土地だ。そのため、それぞれの条件に対応する住宅を試していかなければならない。

一つの住宅で様々な自然条件に対応しようとすれば、その住宅を建てるためのコストが上がることは必然だ。発想を柔軟にすれば、夏用の住宅と冬用の住宅を作り、時期によって住み分ければ四季を通して快適に暮らすことも不可能ではない。なにせ、土地はある。

「住宅は完璧を求められすぎている」と伊藤氏は語る。些細な傷など、ごく細かいところまで発注者のチェックが入るため、建築会社も細かな点に対応するために人件費が高騰し、また販売するための広告宣伝費もかかるなど、住宅の金額には様々なコストが積み上がっている。

土地が高いことも問題だ。土地を巡る手続きが増えると、行政書士に依頼する必要が生じるなど、コストがかさむ。こうした複雑な条件を見直していくことも、「超低コスト住宅」プロジェクトには必要となるだろう。

「たとえば、土地を売り買いせずに定期借地権で借りることで初期投資を抑えたり、先祖代々の土地の所有権を動かす精神的負担を減らすなど、土地所有についても工夫を考えたい。ロンドンは土地の所有権は移動しておらず、ずっと貴族が所有していて、それをみんな借りているんです。土地の所有権を移動させるという手続きが発生していないため、比較的ローコスト。」(伊藤氏)

「家を建てる」のは地域のエンターテイメントになる

土地の管理の仕方を見直すことも必要だが、地域に土地を確保するためには、解体業も合わせて行う必要がある。伊藤氏曰く、「平屋ならプロの指導のもと素人でも壊せる」とのことで、家を解体するところから、DIYで取り組んでいこうとしている。

伊藤氏は、これまでアマチュアの人たちが週末に集まって床貼りを行う活動をしてきたことで、ある程度の道具があれば、素人でもDIYで家の一部を作ることが可能だという手応えがある。

床貼りの活動に参加する人たちは、週末の時間に有志としてボランティアで集っているそうだ。このことから、地域で超低コスト住宅を建てる際にも、人々が集まって人的リソースを提供し、それが人々にとってのエンターテイメントとしての役割も持つのではないか、と伊藤氏は考えている。

解体に関してもグループで対応するなど、手間はかかりつつも、素人でもできることは素人で対応し、それを娯楽にしていく。集落自体のDIY力が高まっていけば、お互いの家を立て合うことすら可能になる。沖縄のとある島に暮らす人々は、自分たちでコンクリが打てるというのだから、不可能な話ではない。

「超低コスト住宅」の事業化イメージ

「超低コスト住宅」プロジェクトでは、1年目は、「遠野廃材センター」の立ち上げと低コスト住宅の実例調査と研究会の立ち上げを行う。そのなかで、仮設住宅や廃プレハブが見つかればただちに再利用するためのリノベーションを行う。

2年目は、1年目の調査研究で最有力のプランを実際に建設あるいは開発する。ここで、新規に開発するのは必ずしも建築物ではなくキャンピングカーである可能性もある。

3年目は、2年目から続いて2棟目を建設しつつ、それまでに得られた知見を設計図や書籍、またはワークショップなど教育事業の形で公開できるようにしていく。

さらに、超低コスト住宅ビルダーを養成したり、建てた家で民泊を行うなどのアプローチで事業化を図る。

遠野の地で実証実験を行い、事例づくりと同時に、事業化に取り組むのが、このプロジェクトの目指すところだ。

伊藤氏とともにこのプロジェクトに取り組む人材に求められるのは、常識を疑う力、柔軟な発想力、地域で住宅を建てられる土地を借りる行動力、そして何より体力が求められる。

遠野で、現代社会の暮らし方を根本から見直したい人は、応募してみてはいかがだろうか。

Texit:モリジュンヤ(ライター)

超低コスト住宅プロジェクトについて

【Next Commons Lab 説明会】

第四回 6/17(金)19:00〜

会場: sharebase.InC

(愛知県名古屋市中区錦1-15-8 アミティエ錦第一ビル6F)

<お申込みはコチラ>


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