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「Local Tech Lab」は、地域データをビジュアライズすることで地域の活動を加速させる

(文=モリジュンヤ/ライター)

今、世界はデータの時代へと大きく舵を切ろうとしている

これまでデータ化できなかったものをデータにするためのセンシング技術の進化、センサーで読み取った数字を送信・管理するためのクラウド技術の発展、収集した膨大なデータを解析するための技術の進歩により、あらゆるものがデータ化されようとしている。

データ化が進むことによって起こるのは、経験則や非合理性の排除だ。行った施策の効果はデータによって評価され、数値を元にアクションを考えるようになっていく。これが大きな流れではあるのだが、こと地域での活動においては、この流れの進みが遅い。

Next Commons Labが取り組むのは、こうした課題を解決するための”地域の可視化”だ。

地域に眠るデータを可視化する

2009年に東京で「自由大学」を立ち上げ、2011年に高知県土佐山地域にて「土佐山アカデミー」を創業、2015年には地方への多様な関わり方を生みだすコミュニティ「東北オープンアカデミー」を開始した林篤志氏は、今回Next Commons Lab事務局として、地域ならではの物事の進め方を変えられるのではないか、と考えている。

「地域では、ご意見伺いをしたり、経験則が重視されたりするケースが数多く存在します。地域に「ロジック「と「データ」をインストールすることができれば、客観的に何がいいのかの議論が可能になり、どの方向に進むべきなのかを示せるのではないか、と考えています」(林氏)

地域には、美しい風景、ねむっている資源や、人材、受け継がれてきた知恵や文化など、データとして昇華され発信するべき魅力が多く残されている。この場合、データはデジタル化することで共有しやすくなるものと数値化によって客観性を帯びるものと2パターン存在すると考えられる。地域には、そのどちらともが不足している。

地域に存在するデータをビジュアライズする。これがNext Commons LabとGoogle イノベーション東北が支援するプロジェクト「Local Tech Lab」が行うことだ。

可視化したデータからビジネスを生む

もちろん、データは蓄積され、可視化されることだけが目的ではない。データをオープン化、集積、分析、可視化し、様々な人と共有していくことで、これまでとは異なる社会が登場するのではないか、というのが描いているビジョンだ。

「データを可視化し、そのデータを使うためのツールも合わせて開発することで、社会はもっと面白くなるはずです。行政や企業が持つデータまで含めて、活用できるようにしていくことで、僕たちは自分たちがほしい未来に最短距離で行けるのではないか、全く新しい next commons(=次世代の共通認識・価値観)を生み出していくことができるのではないかと考えています。」(林氏)

Next Commons Labは、遠野の地で、様々なデータを、様々な方法でビジュアライズしていくことで、世の中の前向きなアクションを後押ししたり、社会課題のソリューションを提供する専門会社を立ち上げる予定だ。

求めているのは、創業者としてこのプロジェクトを牽引していく「エンジニア」だ。

地域をフィールドワークするエンジニア

このプロジェクトは、データをどう可視化するか、可視化したデータをどう活用するかという2つの課題がある。地域に存在している資源や行われていることは、ほとんど可視化されていない。現場に行かないとわからないこと、伝わらない魅力が無数に存在する。

「地域は現場にいないとわからないことが数多く存在します。データビジュアライゼーションを行っていくために技術力が必要なのはもちろん、地域をフィールドワークする行動力やアイデアをプロトタイプしていく瞬発力、様々なサービスとマッシュアップさせていく発想力が重要になってきます」(林氏)

どんなデータを、どう収集するか。集めたデータをどう活用するか。これは観察と試行錯誤の繰り返しが必要な作業になる。技術力、行動力、発想力、これらをバランスよく兼ね備えたエンジニアが来てくれることが望ましい。

地域に求められるサービスアイデア

では、実際にどんなツールを生み出していくことが、地域で必要とされるのだろうか。

たとえば山間地域であれば、「獣害対策」のためのツール。「Google Maps」を用いながら、獣害被害が出たところをマッピングして、被害状況を確認したり、「センサー」を設置して獣が近づいたらアラートを飛ばすなど、獣害対策をサポートするツールなどがあり得る。

漁業の資源管理にもテクノロジーは有用だ。自然には回復力があり、一定数魚の数が減ると回復して、結果的に漁獲量が増えるそうだ。そのため漁師は漁獲量をコントロールしているのだが、漁獲量をデータ化し、コントロールしやすくするツールがあれば、漁師が漁を進めやすくなる。

地域でお金が循環しているかどうかを把握するためにもテクノロジーは活躍する。遠野に存在するお店の売上データを集計し、買ったお客さんは地域内なのか、地域外なのかがわかれば、お金が内部に回っているのか、外部にお金が回っているのかがわかる。

「Yelp」や「Tripadviser」といった海外ユーザーの数が多いレビューサービスのデータを活用することで、訪日客に合わせたマーケティング施策がやりやすくなる可能性もある。

これらはほんの一例だが、地域に眠るデータの吸い上げとデータを活用するためのツールには、様々なアイデアがある。

遠野を実証実験の場にする

「Local Tech Lab」は、3年間の中でプロジェクトを進めていく。他にも様々な人材が集う遠野の土地を実証モデルとし、他の地域でも転用可能なツールの開発に取り組む。

「遠野には、この先いろんな起業家が集まります。課題意識を持っている起業家たちを、テクノロジーの側面からサポートしていけるのでは、と考えています。ここは、良い実証実験の場になるはず。ここで実験しながら、他の地域にスケールアウトしていくようなツールを生み出すことができたらと思います」(林氏)

地域の課題は共通していることが多い。転用可能なツールであれば、パッケージ化し、販売することもできるだろうし、データの可視化や使い方をコンサルティングすることもできる。

「NY Times」のような海外メディアは、データビジュアライゼーションを紙面づくりに採り入れている。この先、地方紙等の地方メディアもデータビジュアライゼーションの技術を必要とするのではないか、 と林さんは地域の未来を見据えている。

地域の活動をより民主化していくために

これまでデータは不可視なもので、複雑なものだった。そのため、市民は社会の現状を理解することが困難であり、一部の情報を知っている限られた人々の間だけで議論が進んできた。

地域に眠るデータを一部の人だけが持つのではなく、オープンに、わかりやすく可視化していく。そうすることで、より多くの市民がそれぞれの立場で地域の未来を作っていくことに参画できるようになる。

みんなが同じ土台に立てるようにし、社会全体を巻き込んで未来を作っていくためには、 データビジュアライゼーションが必要なのだ。この課題への取り組みをまずは遠野の地からはじめようとしている。そしてその中核を担う人材が求められているのだ。

Text:モリジュンヤ

Local Tech Labについて

【Next Commons Lab 説明会】

第四回 6/17(金)19:00〜

会場: sharebase.InC

(愛知県名古屋市中区錦1-15-8 アミティエ錦第一ビル6F)

<お申込みはコチラ>


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