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岡口基一判事弾劾裁判 第3回公判(2023/2/8) 傍聴記

 幸運にも岡口判事の弾劾裁判の公判傍聴に当たり、傍聴してきました。
 関心をお持ちの方のために、公判の様子及びそれを踏まえた所感を以下の通りメモします。
 なお、この弾劾裁判については、過去の弾劾裁判と異なり刑事犯罪に至らない行為が訴追事由として挙げられていること、及び訴追期間を経過したものを含む13個の行為が一体性を有する一個の行為として審理対象とされていること、といった問題点が挙げられており、それについては既に複数の論考がなされているところです。ここではそのような論点にかかる考察はひとまず措き、あくまで当公判の内容と、それを踏まえた所感を述べることとします。

1. 法廷に入るまで

(1) 集合時間

 集合時間である12:45に弾劾裁判法廷がある参議院第二別館東門に行くと、既に数名の傍聴人の方が並んでおられました。
 法廷では早く来た順に傍聴席の前から座れるので、最前列に座りたい方は早めに(指定された集合時間よりも前に)到着されるとよいでしょう。

(2) セキュリティチェック

 建物入口の手前では1人ずつセキュリティチェックを受けます。空港にあるようなゲート型の金属探知機ではなく、警備員さんがハンディ型の金属探知機で身体と荷物をスキャンしてゆくやり方なので、1人あたり数分かかっていました。
 このようなセキュリティチェックは弾劾裁判公判の際にのみ行われるのかもしれませんが、寒いなか傍聴人が屋外で待たされることを考えると、動線を工夫するなどしてより効率的に行って頂きたいと思いました。

(3) 手荷物の持ち込み

 第二別館9階では「貴重品以外の手荷物は係員に預けてください」と言われますが、私は申し出てノートと六法を持ち込みました。(他にも何名かノートを持ち込まれている傍聴人の方がおられました。)

2. 公判

(1) 公判手続の更新

 予定通り14:00に開廷し、まず裁判員が交代になったという理由で、公判手続の更新が行われました。(実際に裁判員の交代があったのか、どの裁判員が交代したのかは不明。)

(2) 弁護人からの求釈明

 続いて弁護人から、1月30日付けで提出された求釈明書についての説明がありました。
 具体的には、訴追委員会が、冒頭陳述のなかで訴追事由書第1の4記載の事実に関し「事実ではないことを発言」と述べ、また同第1の6記載の事実に関し「事実と異なる発言」と述べたことにつき、それぞれ事実とは何か、岡口判事の発言がどのように事実と異なるのかを求釈明するものでした。
 これに対して、新藤義孝委員長からは次回公判において釈明する旨の発言がありました。

(3) 弁護人の証拠意見に対する訴追委員会の意見、それに対する弁護人の反論、証拠採否

 前回公判で弁護人が行った、訴追委員会請求証拠に対する不同意または異議ありとの証拠意見に対し、訴追委員会からの意見が述べられました。これに対して弁護人からの反論があり、弁護人が証拠採用を認めた戒告書の写し(甲27号証及び甲41号証)が採用されたことを除いて証拠採否は留保されました。

(4) 証人尋問(N弁護士)

 最後に、女子高生殺害事件の遺族(以下「遺族」)側代理人であるN弁護士(訴追委員会請求の人証)の証人尋問が行われました。
 約70分の主尋問(尋問者は前半が古川俊治委員、後半は柴山昌彦委員で、いずれも弁護士)は、訴追事由第1記載の事実を時系列で証人に確認することにより、岡口判事がSNSやブログへの投稿、雑誌のインタビュー記事により重ねて遺族の心情を害したことを裁判員に印象づける狙いがあるものと見受けられました。
 主尋問の最中、1回だけ弁護人から「伝聞供述を求めるものである」等として異議が出され、松山政司委員長がまず異議を「却下」としたのちに「棄却」と言い直す一幕がありました。
 弁護人の反対尋問(約10分)は、主に女子高生殺害事件の遺族が岡口判事に対して提起した民事訴訟の東京地裁判決(本年1月27日)の内容を確認するものでした。当該訴訟において原告側はいわゆる「刑事事件投稿」、「因縁投稿」、「洗脳投稿」の3つについて不法行為の成立を主張していたのに対し、地裁判決は「洗脳投稿」についてのみ不法行為の成立を認めたことを確認していました。
 再主尋問においては、同判決で「刑事事件投稿」が不法行為にはあたらないものの裁判官としての品位を辱める行状であり、公法上の義務に違反するとの評価がされたことが確認されていました。

(5) 次回期日

 次回期日は本年3月15日(水) 14:00が指定されました。証人尋問が引き続き行われるとのことです。
 なお、今回公判の証拠にかかる訴追委員会と弁護人の意見陳述によれば、少なくとも遺族夫妻それぞれ、及び「東京高裁事務局長」(吉崎佳弥裁判官のことでしょうか)の証人尋問が訴追委員会から請求されているようです。

3. 所感

 私は本件弾劾裁判の傍聴を行うのは今回が初めてでしたが、第2回公判にかかるネット上の情報をみるかぎり、それよりはスムーズに公判が進行したように見受けられました。(もっとも、証人尋問の主尋問における1回だけの異議と、反対尋問以下を除けばいずれかの当事者の事前準備通りに進行したので当然かもしれません。)
 それでも傍聴をするなかでいろいろと思うところはありました。以下列挙します。

(1) 公判に立ち会った訴追委員はほとんど(全員?)が自民党議員であったこと

 今回の公判に立ち会った訴追委員は5人いましたが、そのうち4人は新藤委員長、柴山委員、古川委員、佐藤委員という自民党議員でした(残る1人はお名前が分かりませんでしたが、この方も自民党議員かもしれません)。
 岡口判事について訴追がされた2021年6月16日時点の裁判官訴追委員会を構成する委員20名のうち自民党議員は11名であるところ、罷免の訴追を議決した委員会には20名全員が出席したとのことであり、また当該議決には出席議員の2/3 以上の多数が必要である(裁判官弾劾法第10条第2項)ことからすれば、少なくとも自民党以外の訴追委員たる議員3名が訴追に賛成したはずです。
 にも拘わらず公判に立ち会う訴追委員の所属政党が自民党に大きく偏っているのは、裁判官の独立(憲法第76条第2項)の重要な例外である弾劾裁判が慎重に審理されるべきという建前に照らして疑問に思いました。

(2) 裁判員の訴訟進行が、刑事訴訟法の理解に疑問を抱かせるものであったこと

 弾劾裁判の法廷における審理については刑事訴訟に関する法令の規定を準用する(裁判員弾劾法第30条)ものとされているところ、主尋問に対する弁護人の異議を裁判長が「却下」するなどはたとえ単なる言い間違いであったとしても裁判所における裁判ではまず起こりえず、裁判員の刑事訴訟法の理解に疑問を抱かせるものでした。(さらに言えば、異議に対して松山裁判長が他の裁判員と合議することなく決定を行った(ように見えた)ことにも違和感を覚えました。)
 弁護人が不同意または異議ありとした訴追委員会請求証拠にかかる証拠採否は留保されたままですが、弁護人が不同意または異議の理由とした伝聞証拠や関連性なしといった概念について裁判員が正しく理解されるのか、かりに証拠として採用するとしても本件弾劾裁判における証明力を見極めることができるのか、不安を感じました。
 弾劾裁判は国会議員により行うものとされています(憲法第64条第1項)が、刑事訴訟法や実務に精通していない国会議員だけで適正な裁判を行うことは難しいように思います。例えば刑事裁判官やその出身者が裁判員を補佐する制度を作るなど、弾劾裁判に対する国民の信頼を確保する方策が必要と考えます。

(3) 裁判員と訴追委員会委員の関係についても疑問に思われたこと

 公判終了後、傍聴人は裁判当事者や報道関係者が退出するまで傍聴席で待たされたのですが、裁判員の1人が訴追委員会委員に向かって「お疲れさま」というような身振りをとりながら退出していったことについても違和感がありました。(裁判所の公判終了時に裁判官が検察官に対してそのような態度をとることはまずあり得ません。)
 弾劾裁判において裁判員と訴追委員会委員は異なる立場であり、裁判員は訴追委員会と弁護人双方の言い分を踏まえて公正な判断を下す必要があります。他方で両者は同じ国会議員であり、常に「なれ合い」の危険が伴います。本来であれば訴追委員会委員を国会議員以外の者が担う(例えば検察官やその出身者を臨時の国会職員として委員職を担わせる等)べきと思いますが、少なくともなれ合いの疑念を国民に抱かせるような態度は慎むべきです。

(4) 法廷内のルールについても疑問があったこと

 本公判の傍聴人は、私が数えた限りでは16名でした。傍聴人は他の傍聴人とは間に1席ずつ空けて座ることになっていたのですが、他方で報道関係者は詰めて座るよう指定されており、必ずしもコロナ対策という理由でそのような取扱いになっているわけでもないようです。さらに報道関係者用の席と傍聴人用の席の間には多数の空席がありました。弾劾裁判は憲法に基づき裁判官の法曹資格を剥奪する重要な裁判であることからすれば、もっと国民に公開されるべきであり、傍聴人の人数を増やすべきと思います。
 また、上記の通り傍聴人が法廷に入る際には貴重品以外の手荷物を預けるように言われますが、レペタ訴訟最高裁判決(H元.3.8)を持ち出すまでもなく、法廷で傍聴人がメモをとることは裁判所においても広く認められており、また裁判官弾劾裁判所傍聴規則においてもメモを取ること自体を制限する規定はありません。加えて、そもそも同規則においては裁判長が手荷物等の持ち込み等を制限できるのは「危険物その他法廷において所持するのを相当でないと思料する物」(第1条第2号)のみとされていること、傍聴人席に各自が手荷物を置くスペースもある(例えば前の席の下)ことを踏まえると、そもそも法廷に手荷物を持ち込まないよう呼びかけること自体が不適切な制限と言わざるを得ません。(なお、裁判所の法廷で傍聴人が自分の手荷物を持ち込むことは原則として(相当に大きなもの等でない限り)自由です。)このような取扱いは次回以降改善されるべきです。
 さらに、傍聴人は原則として法廷における写真撮影が禁止されています(同規則第3条第4号)が、訴追委員会委員の古川俊治議員のFacebook には本公判法廷の写真がアップされていました。画像を見るに、公判開廷前に報道関係者に許された2分間の撮影時間において同議員の関係者の方によって撮影されたものと見受けられます。傍聴人に写真撮影を禁止していることとの平仄が取れていないうえ、国会活動報告と同じような調子で法廷の写真をアップする姿勢には弾劾裁判の性格・位置づけをどのように理解されているのか疑問を覚えました。

(5) 遺族による民事訴訟の地裁判決について

 この弾劾裁判公判自体の話ではありませんが、上記の通り、岡口判事が遺族から提起された民事訴訟にかかる東京地裁判決においては、「刑事事件投稿」が裁判官としての品位を辱める行状であり、公法上の義務に違反すると評価されています。しかし当該訴訟は遺族による不法行為訴訟であり、岡口判事が公法上の義務に違反したか否かは不法行為の成否や賠償責任の有無に関係しません。にも拘わらず本件弾劾裁判の進行中に敢えてそのような判示がなされたことには、強い違和感があります。

(6) 終わりに

 正味2時間の公判傍聴でしたが、上記の通りいろいろと疑問に思うことがありました。今後も機会があれば傍聴を続けるとともに、この弾劾裁判の帰趨を見守っていきたいと思います。

4. 追記

(1) 成田悠輔氏の高齢者集団自決発言が話題になっていますが、同氏が当該発言をされた際の動画(2019年のもの)で古川委員が同氏の横に座っておられました。
 成田氏の発言や、それを受けての古川委員のコメントについてもいかがなものかと思うところもありますが、ここでは深く立ち入らずにおきます。
 
(2) 3/15 の次回公判の傍聴についても案内が出ていますが、傍聴人数は19名のままのようです。このような運用が国民の知る権利に充分応えたものになっているか、裁判員や事務局の皆様にはよくお考え頂きたいと思います。

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