牛丼屋のテーブルに「タイパ重視の現代人へ」と書かれた広告がある。店内では、昭和の古い歌が「出会いはスローモーションに」と繰り返している。時刻は22時。言葉にされない、誰かの人生の断片が静かに流れていく。

最近、人と会うことが楽しいと感じる。かつては、一人でじっくりと絵を描くのが好きだったし、今でもそれは変わらない。ただ、今はまだ行ったことのない場所で、知らない人と面白いことを共有する、その感覚に心が躍る。

「面白い」とは一体何だろう?人それぞれに違う考えがあるはずなのに、なぜか共感し合える。その謎が、いつも僕を引きつける。

8月にファッションショーを開いた後、観客たちの感想はみんな違っていた。母の感想もその一つだった。「結婚式のスピーチを思い出したわ」と言った。

父がかつて、仕事の縁で選んだ結婚式の会場で、スタッフに感謝のスピーチをしたらしい。それを母は覚えていた。そして僕も、ファッションショーが終わった後、市役所や地元企業、会場のスタッフに感謝の言葉を述べた。母にはそれが重なったのだろう。

でも、僕にとって本当に「面白い」と感じたのは、自分が意識せずにした行動が、誰かの記憶や心に何かを呼び起こし、思わぬ形でその人に伝わったことだ。

そうやって、自分の表現が自分の想像を超えて、他の人の心を動かしていく。