「最初の舞台で、最高のお芝居に出会ったことが財産になった」美しい芝居が自分の軸に――川島零士インタビュー(前編)
川島零士さんは、2021年にTVアニメ「不滅のあなたへ」のフシ役で注目され、めきめきと頭角を現してきた若手声優のひとり。2024年4月より放送中のTVアニメ「夜桜さん家の大作戦」では主役の朝野太陽を演じ、注目されている。今年デビュー8年目を迎えた川島さんのお芝居の原点や、思い入れのある役について話を伺いました。
プロフィール
●かわしま・れいじ:11月30日生まれ/愛知県出身/青二プロダクション所属/主な出演作品は、「不滅のあなたへ」(フシ)、「夜桜さんちの大作戦」(朝野太陽)、「マッシュル-MASHLE-」(フィン・エイムズ)、「英雄教室」(ブレイド)ほか
先輩方の背中を見て学び、引き出しを増やし中!
―――今回の撮影は、「趣味はファッション」という川島さんに私服で登場していただきました。コーディネートのポイントと撮影した感想をお聞かせください。
川島 数年前にボイスニュータイプ本誌で取材していただいたときの撮影がとても楽しくて、とても素敵な雰囲気の写真ができ上がったので記憶に残っていました。また呼んでいただいてすごくうれしいです。今日の撮影は、日差したっぷりで雰囲気がやわらかい部屋ということで、抜け感のあるシャツで首元の色気をだしつつ、全体的にツヤ感を意識したファッションにしました。シャツの下側の黒い部分がジャケットのようになっているので、同じ黒のパンツを合わせて足長効果を狙っています。そして指輪は、少し前に「夜桜さん家の大作戦」の収録に行ったときに、ひと目惚れして買ったものを着けてきました。
―――今お話しに出たTVアニメ「夜桜さん家の大作戦」ですが、朝野太陽役が決まったときの気持ちは?
川島 「夜桜さん家の大作戦」は、ボイスコミックで太陽役を演じたのが最初でした。TVアニメ化でもう一度役を演じることができ、本当にうれしかったです。でも一番うれしかったのは、先輩方にジャンプアニメの主役を演じると声優としてステップアップできるから、今後が楽しみだねと言ってもらえたことです。先輩たちのエールに応えるような演技と力を見せていかなければという、覚悟みたいなものが自分の中で生まれました。
―――共演者の皆さんとの交流、アフレコ現場の様子はいかがですか?
川島 小西克幸さんをはじめ、夜桜兄弟役は、全員が第一線で活躍している先輩方ばかり。とんがった個性豊かなキャラクターを、想像のナナメ上をいくお芝居を繰り広げていくので、圧倒されてしまいます。でもそこは、家族の指導を受けながら新米スパイとして活動を始めた太陽と役を重ね合わせて、直接教えていただくだけでなく、先輩たちの背中を見てできるだけいろんなことを吸収できたらと思っています。いつか、先輩たちのようにぶっ飛んだキャラクターを演じる日が来たときのために、ひたすら引き出しを増やしていますね。
共演した役者さんの〝美しい演技〟が芝居の軸になった
―――声優デビューからの今までを振り返って、自分自身で感じている成長や変化、逆に変わらないよう心がけていることを教えてください。
川島 僕が声優として活動を始めて、8年目に突入しました。僕の芝居の軸というか、理想としている〝美しいお芝居〟は、学生時代に出演した舞台・えのもとぐりむプロデュース名古屋公演「えのもとぐりむのやわらかいパン」(2015年)で共演させていただいた、八代将弥さんのお芝居なんです。八代さんは、日本劇作家協会東海支部が2015年に創設した俳優A賞の第1回の受賞者という、実力のある方でした。八代さんと僕は、同じ人物の青年期と幼少期をそれぞれ演じたのですが、重いテーマの作品の中で、すごくナチュラルで素敵なお芝居をなさっていて。僕はその美しさを軸にして、ずっと活動を続けてきたんです。
川島 舞台とスタジオワークでは発声方法が違いますが、舞台経験で得た〝目の前のお客さんに伝える〟という意識が、今の仕事ににじみ出ているなと感じることはありますね。例えば、きれいな音ではなくひずんた音だからこそ伝わるものがある。声の良さというのは、単純に聞こえやすさだけを指しているのではないということを、舞台のときに経験できたのは、大きな財産です。
ノート17冊分の役づくりをして挑んだ、「不滅のあなたへ」のフシ役
―――出演作で、特に印象に残っている作品と役は何ですか?
川島 「不滅のあなたへ」のフシ役です。実は「不滅のあなたへ」は、「えのもとぐりむのやわらかいパン」に通じる世界観があって。フシは、あらゆるものの姿を写し取り、変化することができる〝球〟という設定。最初は意識も何もない球体だったのですが、石やコケからはじまり、オオカミ、そして人間へと、変化を遂げていきます。その変化の中で意識を得て、自我を確立するに至ります。フシは他人の痛みを直接感じるという性質があったので、どんな痛みがあるのか、石やコケの感覚はどんなものかなどをいろいろ調べていくうちに、五感が広がった感覚を得た瞬間がありました。
川島 フシがいろんなものを吸収して感じてきたものの集合だとしたら、彼が触れてきたすべてのものが糧になっている――そう意識して日常生活を送っていると、好きな匂いや嫌いな味、手触りなど、自分は、自分が感じたモノの蓄積でできているんだと思えてきて。すると逆に、今の世の中は情報量が多すぎて疲れてしまうなと感じたんです。そんなふうに、フシを演じているときは、めちゃくちゃセンサーが繊細な時期もありました。独特の役のアプローチだったと思いますが、当時はフシのバックボーンみたいなものを考え、ノート17冊分を使うくらい役づくりをしていました。フシは初レギュラー、初主演だったこともあり、思い入れの深い役ですね。
【撮影:福岡諒祠/ヘアメイク:山脇志織/取材・文:ナカムラミナコ】