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村上春樹原作、初のアニメ映画化! ピエール・フォルデス監督にインタビュー!


© 2022 Cinéma Defacto – Miyu Productions - Doghouse Films – 9402-9238 Québec inc. (micro_scope – Productions l’unité centrale) – An Original Pictures – Studio Ma – Arte France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

世界最大のアニメーション映画祭であるアヌシー国際アニメーション映画祭で審査員特別賞、新潟国際アニメーション映画祭で第一回のグランプリ受賞に輝いたピエール・フォルデス監督初の長編アニメーション作品「めくらやなぎと眠る女」。表題含む6つの短編を再構築し、ライブ・アニメーションという独自の技法で村上春樹の世界観をみごとに再現した本作が、現在日本にて絶賛公開中です。来日したピエール監督に、自身のルーツから本作に至るまでの経緯、制作過程のお話を詳しくうかがいました。

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――物語に散りばめられた小さなおかしみ、音楽、色彩、すべてがすばらしかったです。
ピエール ありがとうございます。作品を笑っていただけたのなら非常にありがたい! 本作は村上春樹さんの原作ですが、どこかにユーモアを残すというのが、私にとってとても大事なことだったのです。作品が持つ独特のユーモアがどこまで伝わるものなのか、皆さんに見てもらえるまで自信がなかったので、そう言ってもらえてとてもうれしいです。

――監督のお父さまである、ピーター・フォルデス監督の作品を拝見したことがあり、本作で描かれている心象風景などに同じ匂いのようなものを感じました。お父さまから受けた影響などはありますか?
ピエール たしかに、往々に父の影響はあったと思いますね。アニメーターである父のもとに生まれたのに、子供のころはあまりアニメに興味がなくて。最初は音楽に打ち込んでいました。その後、美術、絵画を学ぶために、ブダペストの美術学校に通いました。私の父が学んだところであり、父が一時期教鞭をとっていた場所でもあります。そこでふと、アニメーションというものが自分を捕まえにきた!という感覚になりました。そういうものなんですね、人生って。抵抗できないんです! 「あっち行け! あっち行け!」と追い出しても付きまとってくるんです(笑)。

© 2022 Cinéma Defacto – Miyu Productions - Doghouse Films – 9402-9238 Québec inc. (micro_scope – Productions l’unité centrale) – An Original Pictures – Studio Ma – Arte France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

――ちなみに、監督が影響を受けた日本のアニメ作品はありますか?
ピエール 実は3本ほど印象に残る日本の作品があります。松本大洋さん原作の「鉄コン筋クリート」、沖浦啓之監督の「ももへの手紙」、この2作品はアニメーションのスタイルとして非常に好感を持ちました。人物描写がすばらしかった。あとは大友克洋監督の「スチームボーイ」。映画としてもすばらしい出来ばえなのですが、筆のタッチが非常に好きでした。映像作家でありアニメーション作家である森本晃司さんの作風もとても好きです。世界を見渡せば、デビット・リンチ監督やフェデリコ・フェリーニ監督の作品も非常に好きですね。
 
――なるほど。それでは今回、村上春樹さんの原作をアニメ化しようと思った経緯を教えてください。
ピエール アニメーションにかかわるようになり、いくつか短編作品をつくって作品が評価された時に、ある人から「これから何をやりたい?」と聞かれたのです。その時に「村上春樹原作の長編アニメーションをつくりたい」と、とっさに答えていて。その後チャンスがあって村上春樹さんとコンタクトを取ることができ、村上さんは、かなり早い段階で「あ、いいですよ」と許可を出してくれました。本作は、制作自体は短く2、3年くらいで完成したのですが、アイデアそのものから映画の完成までには、10年ほどかかっています。

© 2022 Cinéma Defacto – Miyu Productions - Doghouse Films – 9402-9238 Québec inc. (micro_scope – Productions l’unité centrale) – An Original Pictures – Studio Ma – Arte France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

――本作で使われている撮影手法「ライブ・アニメーション」を採用した理由は?
ピエール 私が人間の「表情」にとても興味があるからです。アニメーション作家の場合、ことばではなく映像で見せるという感覚の人が非常に多いと思うのですが、私はセリフが大好き、ことばが大好きで。何かをしゃべっている時の人間の表情が、自分にとってとても重要なんです。本作では、実写撮影を行い、その後3Dモデルの彫刻を作成し、その彫刻を手がかりにして各アニメーターに表情を読み取ってもらい、そのエモーションを表現としてアニメに落とし込んでいきました。
 
――小村、片桐、キョウコら3人の人物設定はどのように行われたのでしょうか。
ピエール 村上春樹の6つの短編(「かえるくん、東京を救う」「バースデイ・ガール」「かいつぶり」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「UFOが釧路に降りる」「めくらやなぎと、眠る女」)に登場する人物を融合してつくっています。例えば小村というのは「UFOが釧路に降りる」の登場人物ですが、似たような人、共通点を持った人というのは他の短編にも見受けられるので、それらをハイブリットしてつくりあげて。同じ人物のさまざまな面が表現できると思い生まれたのが小村、そしてキョウコです。
 
――ビジュアルとしても、もしかしたらこのモデルは? と思わせるところがありますね。
ピエール ……もしかしたら小村ですね? 村上春樹さんと小村のビジュアルが似ていると言われたことが度々あります。何度か言われてきたのですが、制作時は全く考えていなくて。これは意図的では全くないんです(笑)。

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――かえるくんの存在も強烈でした。いるはずのないものが〝いる〟という感覚。虚構と現実のミックスが非常におもしろかった。
ピエール それは、かえるくんを演じた役者が非常にすばらしかったということです。その役者は、つまり、私ですけれど(笑)。
 
――なるほど。監督ご自身だったのですね(笑)。ビジュアルだけでなく、音響も印象に残ります。英語が混じったり日本語が混じったり、実に印象的です。
ピエール アニメーションに関しては実写映画と違って、目で見えるもの、見えないものすべてを自分たちがつくり出して決めることになります。実写映画であればエキストラを、被写界深度をいじってピンボケにしますが、本作ではそのような人物を半透明にして描いています。その理由をよく聞かれるのですが、それは私自身がそう見えているからです、としか言いようがないのです。音もそう、実写であれば、メインの音以外は音量を下げてガヤの音として挿入しますが、本作では違う言語、日本語を使用しています。

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――本作では東日本大震災も描かれています。その描写、特に被災した側の心情をとてもリアルにとらえられていると感じました。
ピエール 自分にとって映画とは、外的な体験というのがいかに人間の内面に影響を与えているかを描くことなんです。リアルなものをリアルなままに切り取る映画もありますが、私にとっての映画、あるいは映画手法とは、現実から別次元に物事を持っていくことを表現することにあります。あるものを別次元にもっていき、芸術的な角度から光を当て、真の意味を見出していくのが映画だと思うし、それを表現していきたい。同時に、人間の内面というものが外の世界をどのように見て、影響を与えているか、その相互関係こそが映画なのだろうと感じています。
 
――貴重なお話をありがとうございました。もし、次回作について何か決まっていれば教えてください。
ピエール 2つ考えているものがあります。ひとつは実写映画の制作です。これは大人向けで、フランス映画によくあるコメディドラマティックです。もうひとつは完全なアニメーションで、ファミリー向けの企画です。フランスと日本の間で何かできないかな?と考えています。

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――完成した暁にはぜひ日本でも公開してください!
ピエール もちろんです!

作品の魅力をたっぷりと語ってくれた監督の初長編アニメーション映画「めくらやなぎと眠る女」は、各劇場で公開中。ぜひ会場で監督の世界観を体感してください。
 
【取材・文 渋谷のりこ】


■「めくらやなぎと眠る女」
スタッフ:監督…ピエール・フォルデス/原作…村上春樹(「かえるくん、東京を救う」、「バースデイ・ガール」、「かいつぶり」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「UFO が釧路に降りる」、「めくらやなぎと、眠る女」)/脚本…ピエール・フォルデス/日本語版演出…深田晃司/日本語版翻訳協力…柴田元幸/日本語版音響監督…臼井勝/日本語版監修…ピエール・フォルデス
日本語版キャスト:小村…磯村勇斗/キョウコ…玄理/片桐…塚本晋也/かえるくん…古舘寛治
 
原題:「Saules Aveugles, Femme Endormie」/英語題:「Blind Willow, Sleeping Woman」
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー、レプロエンタテインメント
リンク:アニメ映画『めくらやなぎと眠る女』公式サイト
    ユーロスペース公式X(Twitter)・@eurospace_d
    ユーロスペース公式Instagram・@eurospace_distribution


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