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アニメと実写に壁はあるのか――Creators Dialogue 2024 大河内一楼×吉田恵里香対談

現在、ニュータイプ本誌で連載中、アニメの現場の各セクションのクリエイターが対峙し、現状について話し合う「Creators Dialogue 2024」。10月10日発売のニュータイプ11月号では先日「虎に翼」の放送が終わった吉田恵里香さんと近年オリジナル、原作もの問わず活躍している大河内一楼さんの対談を掲載。実写とアニメ、映画とTVシリーズ、さまざまな媒体で戦いつづける脚本家の「今」について語ってもらいました。1万字以上にもおよぶ対談の中から抜粋してお届けします。


ニュータイプ11月号掲載の「Creators Dialogue」

──写真撮影中から、すでにお話が弾んでおられましたね。

大河内 教えをこいたいと思って。

吉田 ええっ。やめてください(笑)。大河内さんに私が教えられることなんてないですよ。

大河内 実は先日、実写の脚本を依頼されたんですが、アニメと同じように書いていいのか悩んでしまって。アニメと実写の脚本ってどう違うんですか?

吉田 うーん……あくまで「私は」ですけど、アニメのほうが若干、デフォルメして書いたほうがいい気がします。セリフは生っぽくてもいいんだけど、行動やキャラ分けをデフォルメして書いたほうが、最後まで意図が伝わるような感じですね。というのも、アニメはドラマよりも分業でつくるから、生っぽい脚本を書くとそれぞれのセクションで解釈がばらけちゃって、最終的にできたものの印象が何だかボヤッとしてくるような気がして。

大河内 なるほど。

吉田 実写でも、キャラをデフォルメして書いても別にいいんですけどね。ただ、実写の役者さんは、セリフで動きたくない人がすごく多い。脚本家としては、そのシーンで表現したいことをはっきりことばにしたくなってしまうんですけど。

大河内 セリフとして、入れたくなっちゃいますよね。

吉田 でも実写の場合、同じ内容を「次のカットで目線を相手に向ける」みたいな形で表現したがる。役者さんに限らず、演出家の人もそうです。いかに説明セリフを削るかに思考を費やしていくのが、実写のやり方ですね。もちろん、なるべくセリフで説明しないというのは、実写もアニメも関係なく脚本の原則なんですけど、私はアニメよりも実写のほうが、さらにそれを意識して、シーンとして書きます。

大河内 シーンとして書く?

吉田 あるひとつのセリフに注目を集めるのではなくて、その前後も含めて、あるシーン全体に見ている人の目が集まってほしいなと考えるんです。でも私、大河内さんのホン(脚本)って、実写的だと思うことが多いんですけど。「(機動戦士ガンダム)水星の魔女」のセリフ感とか、実写っぽいですよ。だから、本当に私がお教えできることは何もありません(笑)!

大河内 いやいや(笑)。ト書きの印象も違いませんか? 実写の脚本って、アニメの脚本に比べるとト書きが少ないですよね。よくあのト書き量で作品をコントロールできるな、って。

吉田 それは実写のほうが、シナ打ち(シナリオ打ち合わせ)にシナリオの核を決める人が多く参加しているからかもしれませんね。実写のシナ打ちにはプロデューサーと、そのシナリオを演出する人がいる。でもアニメって、監督とプロデューサーはいても、その話数を担当されるコンテマンさんや、各話演出の方はあまり参加されない。

大河内 確かに、その場にはいないことが多いですね。

吉田 だから、脚本から映像にするときにどこまで遊ぶか、どこまで表現を膨らませていいかが、現場の雰囲気次第になりがちな気がします。

──実写はト書きが少なくても、打ち合わせで合意が取りやすい。アニメは打ち合わせだけでは合意が作りづらい分、ト書きでイメージを固める必要があるわけですね。

吉田 あくまで私の場合ですが、アニメのお仕事では内容を変更する際に事前に相談してもらえるようにお願いすることが多いのです。そういう意味ではむしろアニメのほうが自分のイメージを通しやすくて、実写のほうが内容が変わりますね。それで言うと、実写にしろアニメにしろ、プロデューサーが誰で、自分がその人のことを信用できるかどうかが、結局仕事をするうえでは大きい気がします。だから組んだ人によってはアニメでも実写っぽく書くこともあるし、実写でもちょっとアニメっぽく寄せて書くときもあります。実写だから、アニメだから、での単純な書き分けはあまり意識してないですね。あえて言うなら、キャラの感じだけだと思います。

大河内 「虎に翼」を見ていると、登場人物がキャラっぽいですよね。

吉田 それは意識しました。特に序盤から登場する面々は、最後まで(主人公の)寅子といっしょに駆け抜ける仲間だったんですけど、それぞれ登場しない期間がすごく長いんですよね。なので、最初に強く印象づけなきゃいけなかったんです。わかりやすいキャラクターにしないと忘れられちゃうかな、と。

大河内 「虎に翼」を見ていて最初におっと思ったのが、キャラクターが「スンってなる」って言うじゃないですか。「スン」って僕が子供のころにはなかった表現で、もちろん寅子の時代にもなかったはず。なのに、さらっと言わせてしまう。それが今の視聴者に物語を伝えるための最適解を的確に選んでる感じがして、すごく好きでした。設定的には過去なんだけど、物語も悩みも現代に生きるわれわれのために書いてある。

吉田 そうですね。舞台は過去だけど、別にその時代そのものを書きたいわけじゃなくて、あくまでそこにある、現代にも通ずる悩みを書きたいんです。もちろん風俗考証の先生がいるので、ことば遣いがあまりにもその時代のものから外れると、ご指摘はいただきます。でも、何が何でもそこにこだわりたい作品ではないんですよね。'24年にやる意味をとても考えて書いた作品だったので、そう言っていただけるとうれしいです。

大河内 僕は寅子が「はて」と言うとき、彼女のそばにクエスチョンマークの漫符が浮かんでる気がするんです。見る側の漫画的理解度も上がってるし、実際僕らも、漫画的なリアクションを現実生活でやってる気がするんです。そういう意味では視聴者のキャラクターのとらえ方、理解する幅も変わってきているのかもしれませんね。

吉田 よくも悪くも、ドラマとアニメを見るときの感覚、「今、自分はアニメを見てるぞ」「実写を見てるぞ」という状態の境がなくなってる気がしますね。

大河内 だと思います。そういう境がなくなったところで、その両方のよさを両立させているのが「虎に翼」の魅力のひとつだと思います。

吉田 つくっている側もそうなんです。私が仕事を始めたころは、アニメの現場で例え話として出るのは、昔のアニメ作品のタイトルが多かった。でも今は、アニメの現場でも実写の話が出るし、逆に実写の現場でもアニメの例えが出る。そういう意味で、すごくフラットになってる印象があります。私はアニメも実写も両方書きたいので、そういう人がもっと増えてもいいんじゃないかな?と思ってますけどね。

そのほかにも脚本家の人生をどう守っていくのか、など多岐にわたって語っていただきました。ぜひ完全版を掲載している本誌をご確認ください。

(プロフィール)
●おおこうち・いちろう/'68年生まれ。近年シリーズ構成を務めたTVアニメ作品は「グレンダイザーU」「怪獣8号」「機動戦士ガンダム 水星の魔女」「SPY×FAMILY Season 2」「LUPIN ZERO」など

●よしだ・えりか/'87年生まれ、Queen-B所属。主なTVアニメ参加作品に「ぼっち・ざ・ろっく!」「神之塔 -Tower of God-」など。各話脚本で参加した「TIGER & BUNNY」では、コミカライズの原作を務める

【取材・文/前田久、撮影/大川晋児(atelier Sirius)】


ニュータイプ11月号は「らんま1/2」が目印です!

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