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[レポート]越前・鯖江スタディツアー

さまざまな伝統工芸の産地を周り、伝統工芸を新たな視点で発信している職人やコーディネーターらとの交流を通して、福祉の現場にもいかしていけるような視点を見出すためのスタディツアー。12月17日、18日に福井を訪問したました。

その前にご案内をひとつ。ツアーの報告をかねたトークセッションを、ゲストにろくろ舎の酒井義夫さんをゲストにお迎えし、1月27日(水)18:00~19:30に予定しています。

レポートをお読みいただき、ぜひオンライントークにもお申込みください!

〇山次製糸紙所・山下寛也さん

https://yamatsugi-seishi.com/
日本三大和紙の一つである越前和紙の産地にある工房。かつて日本の紙幣は和紙で作られており、その中で透かしなどの技術が発展していったそうです。案内人は代々和紙製造に携わる山下寛也さん。産地でもなく、屋号でもなく、個人を押し出して和紙をつくり考えていくことが、産地の活性に繋がっていくとの信念で紙作りをされています。「和紙って何?」との原点を探究したものづくりを展開されていました。また、若いデザイナーが職人として紙漉きの現場で研鑽を積んでいて、意匠と技術の双方からアプローチがありました。

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また、わたしたちも900×600mmほどの大きな漉き枠を使って、初めて紙漉き体験をしました。Good Job! センターで行っていた立体紙漉きが、いかに裏打ちのない技術の中で制作していたかを実感しました。

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〇ろくろ舎・酒井義夫さん

http://rokurosha.jp/

鯖江で知りあった人たちからの薦めで、行政が行っていた木工の技術者育成を経て、木工ろくろの道へ進むことになった酒井さん。ご自身は作家ではなく、職人としての技術経験をつみ、表現とは異なる職人としての反復性・再現性・緻密さのなかでものづくりを探究されていました。二つある工房の真ん中にはオフィス・サロン的な空間があり、古代の土偶や、乾燥地域で山火事がないと実らない植物などのコレクションが並んでいました。また、ご自身のからだに合う道具をつくるところからプロダクト制作が始まるといった話が、ものづくりに携わる者にとっては通底的で重要な価値観であるように思いました。

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酒井さんには、見本市出展をきっかけとした受託によるものづくり、自主製品づくりへの方向転換、そしてコロナ渦を受けての販売先の減少など、これまでのものづくりの変遷もお話いただきました。昨今の状況の中で、今までは動くことがないとされてきた工房を移動させる、「移動工房」の構想をはじめているそうです。京都の暮らしランプ(https://kurashi-lamp.or.jp/)の森口誠さんとも親交があり、誰もが安心して、かぶれることがなく漆塗りができる作業BOXの企画などを検討しているということでした。

ご自身の個展において、工芸学校の練習用に使われる、本来工芸品には不要とされる菌が混ざった材にあえて光を当てたり、漆や塗料の作業の過程でできる分厚い積層の破片をプロダクトにしたりと、要・不要や良・不良の慣習的な観点をご自身の視点で見つめ直して価値を与える姿勢も印象的でした。

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〇丸廣意匠・廣瀬康弘さん

https://maruhiro-isho.com/
うつわの産地においては、「ウレタンのスプレー塗装は、漆塗装の費用が合わない時に受注がくる」ということが一般的な受注状況だそうで、それを逆手にスプレーで勝負できることがないかと考えたのが「MARUHIRO SPRAY」。ろくろ舎の酒井さんの紹介で、東京のデザインユニット・MUTEがアートディレクションに関わっています。木地屋で現品サンプルとして保管されたデッドストックの生地や御膳などを、ウレタン塗装によって表現する、現代的な塗り物を提案されています。

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伝統的には黒と赤の漆で塗り分けられてきたうつわや御膳が、ポップなカラーをまとうことで、若い世代にも受け入れられているそうです。価格は漆に引けを取らず、小さなものでも1万円ほど。色が変わるだけで、受け手や使い手の固定観念が外され、さまざまな使い方を想起させてくれます。

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廣瀬さんは元営業マンとして各工房との取引があり、先代の体調不良によって10年ほど前に代替わりされました。ウレタン塗装を行う工房は、漆器中心の産地の中ですぐに受け入れられたわけではないそうですが、今ではデッドストックの生地があると丸廣意匠さんに声がかかるほどになったようです。

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また、うつわ・御膳の塗り物と言っても、差物によって塗り師は異なり、情報や技術が行き交うことは少ないそうですが、丸廣意匠にはそれらが一同に集い、同時に情報や物語が集まっているところにも価値があるように感じました。

デッドストックにされてしまう漆器や工芸品の存在や塗装の技術でできることに展開を与え、価値の根本的な見直しを与えてくれる廣瀬さんの行為は同時に、伝統や価値を後世に受け継いでいくひとつのやり方を提案するものだとも感じました。ものづくりや伝統に関わる時、自分の価値観を狭めないことがいかに重要であるかを、あらためて考えさせられました。

今回、どの訪問先にも共通していたことは、伝統工芸に由来した確かな技術と物語があること、産地の中における工房のあり方を探究していること、そして個人として・職人としての信念に揺るぎがないことでした。産地としてはきびしい状況の中でも、お会いしたみなさんからは、個人の動きや考えから産地をつくっていくという強い意志を感じました。

*ツアー写真:野田恭平




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