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[レポート]軸原ヨウスケさん(ドンタク玩具社)スペシャルトーク

日時 2021年3月13日[土] 11:00~12:00
場所 Good Job! センター香芝
ゲスト 軸原ヨウスケ、軸原美智子(ドンタク玩具社
進行 岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家常務理事)
▷ 記録動画視聴URL(YouTube)

GJ!センター香芝にて昨年につづき開催している郷土玩具展。今回出展をお願いしている、ものづくりの「つたえ手」であるドンタク玩具社の軸原ヨウスケさん、軸原美智子さんにお話を伺いました。

ドンタク玩具社は、お二人が2015年9月よりスタートさせた新型こけし、創生玩具、関連グッズなどのデザインプロダクトのブランドです。伝統こけしや郷土玩具などの作り手である“工人(こうじん)さんと共に考え、共に作る”をテーマに従来の郷土玩具の「新しいかたち」を提案しています。

近著『アウト・オブ・民藝』(中村裕太と共著/誠光社)などで民藝の根っこを丁寧にたどりながら、今日の美術や工芸のありかを探るヨウスケさんは、伝統的なこけしをこれまでにないものと組み合わせたり、現代の生活にあったものづくりの魅力を探求する活動などから、郷土玩具のいまとこれからについて考えています。

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軸原ヨウスケ(以下、ヨウスケさん)>
昨日奈良に入り、たんぽぽの家アートセンターHANAとGJ!センター香芝の工房を拝見しました。僕たちも、こけしをつくるにあたり、共同創作の可能性をさぐるため福祉施設を訪ねたことがあります。たんぽぽの家は、マイノリティの立場から発信していることと手しごとの喜びとが両立していることに驚嘆しました。加えて、それを商品として流通に乗せている。これはすごいことです。
マイノリティの側から発信するということは、たとえば、農民美術運動(※1)だとかにも通じると思います。

軸原美智子(以下、美智子さん)>
玩具は、ものや道具が限られていた時代から作られていました。でも、もしその当時3Dプリンタがあったらやはり玩具づくりに使っていたと思う。実は、工房を見学するまでは、「GJ!では実際どこまで障害のある人がやっているのだろう」と思っていたんです。意匠から障害のある人が関わっていて、テクノロジーも取り入れ、そこに手作業の塗りも入っていて、驚きました。これからどんどん新しいものが作られていく場所なのだなと思いました。もっとみんなに知ってもらいたい!って。

ヨウスケさん>
伝統を残すかどうかと別に、手仕事のよろこびを伝えることってとても重要だと思うんです。それがHANAやGJ!センターには確かにある。

岡部太郎(以下、おかべ)>
なんとなく、伝統工芸とか郷土玩具に対し、「こうあらなければならない」と思いがちでした。でも、NEW TRADITIONAL事業(以下ニュートラ)をすすめる中でつくり手の近くにいて、伝統的技法や地域ブランドなどにしばられない柔軟性を感じています。

そもそも先人が培われてきたことに対してどういう態度でいたらいいのか、ニュートラの「ニュー」の部分、新しさとは何なのか。いろんな人と対話しながら考えつづけています。まずはヨウスケさんのお考えを聞かせていただけますか。

ヨウスケさん>
いまある「伝統」は、時の流れのなかで勝ち残ってきたものですが、重要なのは、残らなかったものにも目を向けることだと思います。戦前の趣味人や蒐集家は、つくるのをやめていた工人さんを訪ねて、郷土玩具やこけしなど再製作してもらうことが多々ありました。
また郷土玩具が絶えてしまうという危機感から「創生玩具運動」を起こした有坂与太郎という人もいます。伝統には根ざさないけど、地元の素材で作られた半分デザイン玩具みたいなものですが、こういうものだってしばらく時間が経つと伝統みたいな顔をしていたはず。

鳥取の「れんべい人形」は、大正生まれの加藤廉兵衞さんが郷土玩具好きが高じてはじめたもの。民藝運動家の吉田璋也さんがそれを発見して世に広まりました。しかし一代で廃絶。でも今見てもまるで伝統的なものにしか見えません。後継がいれば伝統になったかもしれませんが...。

「伝統とは何か」ということは、これからもっと考えなければいけないと常々感じています。

美智子さんとくらしとこけし ものを通して人がつながる

美智子さん>
出身は福島県会津若松です。身近にこけしがありましたが、もともと注目していたわけではなかったんです。東京に住むようになり、帰省するたびに少しずつ、伝統こけしの魅力に気づいていきました。

私たちは、思いを共にできる工人さんと「一緒に」(こちらが考えたものを押し付けるのでなく)こけしづくりをしています。

● 工業デザイナーの遺したデッサン画からつくったこけし
デザイナー秋岡芳夫さんが遺した画をもとに、ご遺族から許可をいただいてつくりました。絵からは大きさなども不明だったので、工人さんと2年くらい悩んで作成しました。


ワンピースのこけし柄から生まれたこけし
工人さんの技術をもってすれば複雑な色柄も再現できますが、あえて色を減らす提案をしました。


創作キャラクターこけし
私個人の夢をもりこんで出来上がりました。


おかべ>
このトーク以前に個人的にドンタク玩具社のこけしを購入していましたが、プロデューサーがいて一方通行的に作っているのだと思いこんでいました。

美智子さん>
だんだんと、こけしらしい形から、手にとって遊べる形の開発に興味がわくようになりました。独楽などの玩具や、文具など現代的な生活のなかにあるものを組み合わせる商品もできあがりました。妊娠をへて、すこやかな子供の成長へのねがいのようなものがこもったこけしもできました。

おかべ>
鑑賞するだけでなく、使うという発想もあるのですね。美智子さんの人生のステージが反映されていることも知り、感慨深いです。

美智子さん>
今住んでいる岡山は実家と遠いですが、玩具をとおして東北とつながっている気がします。

おかべ>
ものを作ることで人とつながれる。NEW TRADITIONALで実感していることと、つながります。

工芸の思春期

ヨウスケさん>
こけしは、買えば買うほど欲しくなるんです。似ている形なのにバリエーションがあるからかも。ちなみに、これは郷土玩具と異なる点です。こけしは郷土玩具の中でも別の扱いなんです。
産地は温泉地が多いですし、工人さんとも直接会える。こけしを買い求めることは、旅とセット、出会いとセット、人との密着という楽しみがありました。

美智子さん>
工人さんのルーツをたどるロマンもあります。

おかべ>
ニュートラに取り組んでいて「愛と祈りからものがつくられる」ということも、感じています。「旅とセット」にも、これに通じるものがありそうです。

ヨウスケさん>
「玩具は民藝か」「玩具は工芸か」という議論も盛り上がってきました。言うなれば、現在は「工芸の思春期」のようなもの。ここからどう広がり、分岐するか予想はつきませんが、より広く「工芸とは何か」が問われる時期が訪れつつあるのだと感じています。

会場のお客様>
常滑の陶芸家、故・鯉江良二さんが、「お茶器は約束事が多すぎる。ルールをこわしたい」と言っていたそうです。でもそうすると「工芸家」でなくアーティストになってしまう。

ヨウスケさん>
工芸と美術の間も面白いですね。1920年代、様々な工芸家の努力で日展(明治からつづく総合美術展覧会)に工芸部門がようやく設けらた経緯もあります。昨今では、コンテンポラリアートと工芸が並ぶようすが展覧会で見受けられたりもします。

おかべ>
福祉の世界からも、工芸の思春期に入っっていけるのかもしれないという勇気をもらえました。マーケティングなど「あるべき」要素にこだわらず、かかわる人の思いからものを作っていいんだ、と励まされました。NEW TRADITIONALの活動も、ぜひ、引き続き、軸原さんたちの視点からその意見をきかせいただきたいです。美智子さんの玩具に対する愛情に心あたたまりましたし、マイノリティの視点みたいなものがヨウスケさんと共通点があるように感じました。

ヨウスケさん>
こちらこそ、たんぽぽの家アートセンターHANAとGJ!センター香芝の工房から、たいへん刺激を受けました。あたらしい、福祉の工芸運動がうまれる予感が高まります。

▽軸原さんのトークはこちらからアーカイブ動画をご視聴いただけます。


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