[Discussion]これからのものづくりを考える4つの視点 ③守屋里依さん

2020年度もNEW TRADITIONALをつづけるにあたり、さまざまな立場の方と、ものづくりについて対話・議論する場をもつ企画。
三人目は、守屋里依さんです。パン工房に併設されたギャラリー「ippo plus(イッポプリュス )」を大阪に構え、静かな空間と時間をしつらえる守屋さん。2019年度には、NEW TRADITIONALの「手しごとにふれ交流する機会の創出
」として開催されたお茶会で、提茶の手ほどきや展示作品選びをしてくださいました。おかげで、障害のある人の表現や工芸といった分野を内包したひとつの空間をつくりだすことができました。

ー 近況をお聞かせください

新型コロナウィルスの感染拡大防止に配慮した結果、3月に企画していた食にまつわるイベントは中止しました。その時には、その次の展覧会がこのような世界的な状況の中で開けなくなるとは、想像してもいませんでした。人と人が集まることが気軽にはできなくなったので、思い悩みました。
そんな折、すごくわかりやすい作品をオンライン展覧会用に作ろうかという提案も作家からは受けましたが、すぐ断りました。自分のギャラリーが最も重視するのは「体験や感覚に出会う場であること」という考え方が従来以上に明瞭になったのです。オンラインを批判するわけではなく、自分たちのやりかたはそれではない、ということです。
来場してもらって、「ああ」という感覚に心が動くか。動かない人は動かないと思います。でもそれが面白い作品なんです。人が実際に集まれない状況なら、展覧会を開催しても意味がない。
それからは、悩まずにこれています。「できるならば許されている」ということをいつも感じています。できないなら、それはやることではない。しないでいいことなんだ、と思っています。
体感するということに、みなさんすごく飢えているのではないでしょうか。私も飢えていました。自然の美しさを感じる人が増えたぶん、人がつくったものの美しさや尊さを感じることができなかった数ヶ月なので、そのぶん次の展覧会にはお客様もご来場なさるだろうと思っています。

「障害のある人」ということば

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2019年「つくることの喜びにふれる2日間」お茶会の様子(撮影:衣笠名津美)

ー 守屋さんは2019年のお茶会で、澤井玲衣子さん(たんぽぽの家アートセンターHANAメンバー)や花谷龍介さん(Good Job!センター香芝)の才能に光を当ててくださいました。会場での作品の見せ方もすごく新鮮に感じました

たんぽぽの家のみなさんに前からお聞きしたいなと思っていたことがあります。障害者ということをあえて見せるか、とっぱらうか。去年NEW TRADITIONALの事業を通して初めて関わったら、とっぱらわなくていいと考えるようになりました。
以前は、絶対にあえて言ってはならない、レッテル貼りだと思っていました。障害のある人の作品という情報の有無にかかわらず、ものとしての良さで見極めるべきだと。でもいざ障害のある人のものづくりに触れるようになると、彼らは何かの感覚が優れているということであって、これは言ってもいいことなんだと思い至ったんです。

ー 実際、障害とか障害福祉とかに対し多くの人が持つ印象自体を変えるために、積極的に使うという人も増えてきました。ただ、同情や感動のみを呼ぶ結末にならないよう考えるのも、僕たちの仕事だと考えています

そうですね、同情票にしない。発信の問題。それができれば...。
ものをつくれない私としては、澤井さんたちが優れた感性を持っていることを、嫉妬をするほど羨ましく思いました。そのことは、私のギャラリーで紹介する作家全員にも感じています。精神的なことに芸術活動ってかかわりがあるんでしょうね。それが極端に出ときに、一見障害というものにも見えるのだけれど、それがあるからこのような表現が生まれるということなのでしょうか。今はすぐに言葉にできないけどそれを伝えるような伝え方を考えたい。澤井さんが生きてきた時間を語るうえで、わざわざ障害のことを抜きには説明できない。だから、今後こういう機会があれば、私は「障害のある人」というふうに紹介すると思います。

ー 守屋さんの発信されているSNSや広報物には、ていねいに紡がれた言葉や美しい写真で作品・作家が紹介されており感心します。 

大変ではないんです、楽しくてしかたないので。自分の心を動かすものが好き。だからその人と深くかかわりたい。
澤井さんの展示もしてみたいですが、ではどういうふうに関わっていけるんだろうと悩みます。今のところ、彼女とコミュニケーションをとった感覚もないし、澤井さんが心をひらいてくれるか予測がつきません。

ー 障害のある人の中には、自由にいろんな人と関われない人もいます。そうした場合、関わる人どうしの距離をどう近づけていくか、私たちの事業で考えなければならないどころだとは思います。

誰かの何かの救いになる仕事

この春の間に、多くの人の物欲が変わっていない、むしろ増していると感じています。器とか、家の中に飾るものとか、より人の物欲は刺激されていたようです。

ー 在宅勤務の間に、何年も住んだ部の昼間の光や、家のすぐ近所の環境を発見しました。

次の展覧会にいらっしゃるお客様に、どのようなことを考えていたかを伺うのが楽しみですね。ライフスタイルが変わったのはとても感じます。
オンライン展覧会や通信販売に舵取りをする方も増えていますが、私はギャラリーへ足を運び感じてもらい作品を買ってもらうやり方を続けてゆきたいと思っています。
ippo plusのお客様で、病院に勤めておられる方から、先日ふいにメールが来ました。展覧会に毎回来場され、滞在時間もとても長い人です。強いストレスを受ける日々のなか、ギャラリーで手に入れたものたちが家にあることでどんなに救われたかということを、お便りしてくださいました。度重なる災害の時など、ギャラリー運営は社会に実益をもたらしていないように思え無力さを感じるときもあります。でもこういった折に、この仕事の意義を感じるます。ただ物を売っているだけではないのだなと。
*実施:2020年6月22日(月)   聞き手:岡部、中島、(一般財団法人たんぽぽの家)、森下、藤井(Good Job! センター香芝)〕

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守屋里依(もりやさとえ)
大阪のギャラリー兼サロン、ippo plus(イッポ プリュス)と無由主宰。年に数回、作家の展覧会と美しさにまつわる催しを開いている。幼い頃から父親の影響で生活のなかに「お茶の時間」があり、自然とお茶と向き合うようになり、煎茶道 を経て、2015 年より台湾茶道留白の Peru 氏に師事。2017 年より御菓子丸の杉山早陽子ととも に、茶と菓子から拡がる美しさのいろいろを感じる会、「景譜」 を不定期に開催している。


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