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[レポート]常滑オンライントークセッション

今年度NEW TRADITIONALでは、さまざまな伝統工芸の産地を周り、伝統工芸を新たな視点で発信している職人やコーディネーターらとの交流を通して、福祉の現場にもいかしていけるような視点を見出すためのスタディツアーを国内4箇所で実施しています。
この第一弾となった愛知県常滑ツアーのレポート「オンライントークセッション 『焼き物の産地常滑から考えるNEW TRADITIONAL』」を、去る12月14日(月)に開催しました。平日夜にもかかわらず、福祉にかかわる人や産地で働く人まで、40人程度が参加してくださいました。

《ツアー概要》
焼き物の産地・愛知県常滑で実践にとりくむコーディネータの案内のもと、工房やメーカーなどを2日間をかけてまわった。
日程|2020.10.19(月)-20(火)
訪問先|有限会社丸よ小泉商店、有限会社山源陶園、鯉江明さんのアトリエ、有限会社丸安、ワークセンターかじま、INAXライブミュージアム、水野製陶園ラボ

《トークセッション》
日時|2020.12.14(月)18:00~19:30
登壇者|
 ・高橋孝治(プロダクトデザイナー):ツアーコーディネーター
 ・前川紘士(アーティスト):ツアー参加者
 ・岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家常務理事):ツアー参加者
 ・森下静香(Good Job!センター香芝センター長):ツアー参加者/進行
 ・福森創(工房しょうぶ統括主任):トークセッションゲスト 

ここから下のレポートは、たんぽぽの家アートセンターHANAのスタッフのうち、ツアーには随行しなかったがこのトークセッションを視聴した図師雅人さんによるものを主軸にしています。

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 まず、今回のオンライントークは率直に驚きと感動を感じるものでした。今回訪れた全7箇所の企業や施設、個人のアトリエではそれぞれが産地と独自の関係性をむすびながら、活動や事業を展開されています。その産地との関係性は、トークの中でも度々話題になっていましたが、敷地内の庭を掘れば、焼き物につかえる粘土が出てくるという環境の話に象徴されていたように思います。人の営みを成り立たせているところにまず、豊かな恵みを与えてくれる大地がある。そこに様々な人たちが想いを抱いて、それぞれの生産物をかたちづくる。その人とものの関係性が幾重にも繋がりあい、文化と産業を土地に立ち上げる。この大きな流れがありながら、ふだん何気ない生活においては、いかに私たちが地面を地面としてしか認識できていないことを気づかせてくれる言葉でした。

画像1アトリエ近くの土を使い制作(鯉江明さん)

スクリーンショット 2020-12-28 12.36.54鯉江明さん「天竺アトリエ」にて窯を見せていただく

 そして、前川さんの報告にもありましたが、「見学に訪れた場所がそこまで離れておらず、活動しているプレイヤー同士が近い」「見学した先の方々と話すと、上の世代の方々への想いが聞こえてくる。若い人たちに受け継がれている」という風土やそれに根ざした各々の実践も、ものづくりによって育まれた伝統が息づく環境を感じさせるものです。

 一方で常滑の時代の変遷と、それにともなって変わる産地に対する見方についての登壇者の方々の議論も、深く考えさせられるものでした。常滑の窯業地としての現代における売り上げのその大半は、ビルに使用されるタイルや、レンガといった建築陶器であり、常滑といえば思い浮かべる急須といった伝統工芸品は全体からみればわずかなシェアであることが高橋さんの解説によって述べられます。また常滑は明治以降の日本が近代化する流れの中で、鉄道が引かれる際、分断される農地に水路を地下パイプでつなげるために、汽車の走行にも耐えられる頑丈な土管を常滑で大量に生産・出荷しました。そこでうまれた不良品は地産地消として扱われ、現在も常滑の景観をなし、産地の歴史をつたえるものとなっています。

画像6材料の土のための、機械化された巨大な工場をもつ日本モザイクタイル株式会社

画像3土管坂(一般社団法人とこなめ観光協会webサイトより) 

 現在、そういった歴史を持つ常滑を拠点にする若い作家さんは増えてきおり、必ずしも常滑焼ではなくそういう人たちの焼き物を買いに来る人たちが常滑を訪れているというこの現象こそが新しい産地のあり方になってきているという高橋さんの概観と分析は、非常に刺激的です。この現象は全国さまざまな産地においても同様に考えていくことができるように思います。

画像4有限会社 山源陶苑 TOKONAME STORE

 こういった常滑の現状から考えてみたときに、障害をもつ人たちが産業、産地、伝統を担うにはどういう取り組みができるのでしょうか。トークの中では、経済合理性による量をもって産地となす見方に投げかける高橋さんの疑問を受けて、福森さんはしょうぶ学園の取り組みを踏まえながら、経済合理性によってものづくりを続けることが障害者福祉施設では難しいということを語られます。また、それをあまり求められていない、とも。そして福森さんは、それだからこそ障害者福祉施設は手間ひまかけたものづくりをしやすい環境であり、文化の伝承と福祉の接点になるのではないのかと提言されます。

 後期資本主義的価値観が当然のように思われる現代社会において、福森さんがおっしゃった意味での障害者福祉施設はアジール(聖域、避難所、無縁所)とも捉えることができるのかもしれません。利便性や合理性を主流とする時間の流れとは異なる時間の流れをもつ場所だからこそ、ものの吟味やかたちの試行錯誤、アイデアを生み出す時間、得てして脱線とも捉えられるようなユーモアを楽しみ、それを醸成させることができるように思います。

画像8就労継続支援B型事業所「ワークセンターかじま」の外壁。メンバーがつくったタイルが飾られている

画像8かじまメンバーの作業のようす

 一方、トークの中では質問者の方から現代社会と障害者福祉施設、双方の時間の流れの違いを調整するにはどうしたらよいのか、どういう人材が必要なのかという意見がありました。また前川さんのいわゆる伝統工芸の産地とは縁のない福祉施設を考えた場合、産地だけの問題ではないという指摘も踏まえると、今回のツアーの中での高橋さんのような役割を担う人が社会の側にも福祉現場の側にも求められていて、その育成の重要性も問われているように思います。この育成についても、それこそ経済合理性や流行を追うような場当たり的な目的によるものではなく、人と土地の文化や伝統の継続、継承を見つめ、大切に想う気持ちをもつからこそ必要だという視点に立たねば意味をなさないでしょう。これからの時代において伝統工芸と福祉がどのように関係を結び、新しくも歴史ある文化を発信できるのか。今回のトークで、あらためてその可能性と課題を再確認できたように思います。

スクリーンショット 2020-12-28 12.34.56高橋孝治さん。ツアーコーディネートをありがとうございました。

報告=図師雅人(アートセンターHANAスタッフ)
写真=衣笠名津美

◆編集よりお知らせ:ゲスト福森創さんの所属する工房しょうぶについては、 NEW TRADITIONAL 2019年度報告書 P26-27に掲載のインタビュー「しょうぶ学園のものづくり」もぜひあわせてお読みください
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今回のトークは下記よりご覧いただけます。

次回は、繊維のまち 愛知県有松・尾州ツアーの報告トークセッションを、年明け1月19日(火)に予定しています。またお知らせしますね

たんぽぽの家では、2021年1月22日(金)~31日(日)にNEW TRADITIONAL展in常滑「滑らかな粘土の床が、丘陵に広がる舞台の上で」を開催すべく、展示ディレクターに高橋孝治さんをおむかえして鋭意準備中です。この常滑の、伝統産地の本質とも言えるその地続きの営みの今を、高橋さんの目をとおして伝えます。どうぞ楽しみにお待ちください。

みなさま良い年をお迎えください。


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