[Discussion]これからのものづくりを考える4つの視点 ①水野大二郎さん

障害のある人のものづくりと伝 統工芸の相互発展をめざし、2019年度より始動した取り組み、NEW TRADITIONAL(ニュートラディショナル)。偶然にも、超大型台風21号や新型コロナウィルスなど、自然や目に見えないものの威力に大きく影響された初年度でした。12の調査や5件の実例作りなどをへて、実例づくりを試した地である山形県内にて展示やトークを3月に行い、1年間を終えました。
2020年度もNEW TRADITIONALをつづけるにあたり、さまざまな立場の方と、ものづくりについて対話・議論する場をもつことにしました。
本来であれば、そういった方をひとところにお呼びし、たんぽぽの家のスタッフと同じ空間に居合わせていただきお話を伺いたいのですが...5月の状況ではまだそれが非常に難しく、オンラインでお一人ずつに伺うことにしました。


一人目は、水野大二郎さんです。
水野さんはデザインと社会を架橋する多様なプロジェクトの企画・運営に携わってらっしゃます。デザインやその社会実装の視点から、この事業への参画をお願いしています。

ー 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、人々の物理的な移動が制限される時間が続きます。もののつくりかた、売り方、買い方に関してどのように考えていらっしゃいますか。また、これからどうなっていくと見通されていますか

「2メートル間隔をあけましょう」といったように、具体的で対症療法的な生活様式が世間ではなされていますね。コロナウィルスが蔓延する前の生活との違いを、誰しもが感じている。その延長線上にある人々の行動変容が顕著になってきたなと私は感じています。
例えば、ショッピングは百貨店でする必要性がないといえばない、ならインターネットでもいいなあ、という行動変容が顕著になっています。より極端になると、至る所に百貨店はいらないんじゃないか?とか。以前から百貨店自体が売り場をどう維持しよう、アマゾンのような大規模ECサイトとどう差別化しようと考えていたと思うんです。このような議論がもっと加速し、「物理的な場所で物理的なものを売る、伝える」意味が、あらためて問い直されていると思います。

フィジカル・デジタルの組み合わせからなるサービス

デジタルな情報と、フィジカルな空間の組み合わせの例として「ポケモンGO」がありますね。常時インターネット接続によって、物理的空間を再発見し楽しむサービスです。また、最近ではUber Eatsなどが注目されています。
さらに、新たな組み合わせとしてデジタル情報をデジタル、あるいはバーチャルな空間上に展開する、ということです。これに火がつき始めているんじゃないか、いよいよ「民主化」するんじゃないか。例えば「あつまれ どうぶつの森」のように、これまでとは比較にならないくらい多くの人が、しかも世界中で集まり、日常的に楽しんでいます。
そこで注目すべきなのは、デジタル、あるいはバーチャルな空間でしか入手できないデジタル情報が、現実の世界と接続し消費されている点です。つまり、物を作る・売る・伝える・買うという行為が、デジタル・フィジカルの境界をあいまいにしている、ということです。
ファッションの世界はアバター(分身となるキャラクター)を使い、実在しないバーチャルInstagramモデルにシミュレーションされた製造前の服を着せ、それに「いいね!」が多数ついたら、実際にその服を製造実売する、みたいなことが現に起き始めています。

◇ 参考記事(編集部より)
コカ・コーラやヴィトンも活用。 「バーチャル・インフルエンサー」とは何者か? https://www.fastgrow.jp/articles/virtual-infludencer

つくり手と情報技術のこれからの関係性

このような新しい文化の加速の中で新たな対応を迫られるのは、おそらく「つくり手」ではないかと思います。フィジカルな価値に比重を置きすぎたため、フィジカル・デジタルが分かち難いことを毛嫌いしない、というところから始める必要がまず最初にあると思います。
例えば、なにがしかをデザインするにあたって、フィジカルな素材とデジタルな方法をどう組み合わせるか、が課題となると思います。ただデジタルデータを使ってデザインします、というだけだったら新しい感じはしないんですけれども、移動制限がかかる時代において、ものの良さをより伝えようと考えたら、インターネットに依存しがちです。その際、デジタルデータをただ見せるだけでは不十分です。物理的なものをデジタル空間上でどう体験できるようにするか、は、すっかり重要なテーマになったなと思います。


ー とくに昨年は10軒余りを視察するなど、これまでも私たちは福祉施設の工房などを調査してきました。境目の分かち難い状況との付き合い方について、壁を感じる人も多いだろうと思います。より意欲的に乗り越える知恵はないでしょうか


以前は、バーチャル空間といえば一部の人が楽しむ格闘・戦争ゲームなどが人気でしたが、今は「集会する」「社交する」機能を大勢の人が使いこなしています。「セカンドライフ」や「あつまれどうぶつの森」もそうですが、数千人規模の集会を開催できる「cluster」などは、かなり日常的になったと思います。

◇ 参考記事(編集部より)
東大生による卒業記念LT大会2020@VR https://youtu.be/6Yij2rj59do

もちろんモニター越しに見ているので、リアリティが足りないということは仕方ありません。とはいえ、みなさんテレビ通販で商品を買ってましたよね? バーチャル空間上で物質の消費がおこる、という話はそんなに突飛なことではないと思います。
情報は、物質として出力するまでは「重さ」がなく、素早くビジネス展開することが製造業と比較すると容易です。既存のアプリやメディアの組み合わせのほか、新規システム開発など先行例は多数見られます。とくに最近興味をもってみているのは、CNC制御による切削加工機「ShopBot」などを利用したオーダーメイド家具制作サービス「EMARF」などが挙げられます。EMARFの特徴は、日本各地のShopBotを持つ工房に家具図面データを送信して加工してもらうが、木材はそこにあるものを使う点です。このシステムはフィジカル・デジタル、 消費地・産地の間の新しい関係性をつくっている、ともいえます。このような物理的制約に縛られない活動領域は、5年後、10年後の伝統工芸や障害のある人のものづくりに影響を与えうるのではないでしょうか。
在宅勤務を経験した我々は、新しい「しごとの文化」を作るのにちょうどいいタイミングにいると思います。しかしながら、情報技術で文化を拡張できるかと思いきや、別の問題が噴出しているのが事実ではないかと思います。デジタル化をやみくもに「効率化・利益の最大化」のために使わないことが、個人の能力を最大限ひきだし、創造性が生まれる可能性があります。

届け先や利益との距離

ー とても大事な視点ですね。一方で、個人的には、外出を控えている期間中、物理なものの大事さや、これまで出会ったことのなかったすぐ近所の現実世界での出会いみたいなものに心を動かされました

「大都市での局所的な消費依存をやめよう」という話だと思います。どこにいても、散歩の範囲で来てくれる人たちに届けられるビジネスができると良いですね。
とはいえ、非都市圏には高価な伝統工芸品に関心がなく、安価な大量生産品でいいかな、と考える人も多くいます。食べ物と同じように、彼らを地域産のものと繋げる工夫は必須です。それと、インターネットを介したビジネスの展開にあたっては、決済方法の多様化や知的財産権に留意したいですね。口座振込書の郵送をする企業や、著作権を誤解し模倣品を趣味でつくってしまう個人などが問題になり得るもかなと思います。

ー 効率化や利益の最大化ではない価値観とは何なのかということは、Good Job! センター香芝で仕事を作る際によく考えていることの一つです

悩ましいですね。福祉施設の就労支援は、経済活動をする企業と異なり、生活の質や幸福の最大化などが命題ですよね。開発した商品が売れて生産量が目標になったり、障害の度合いを数値化してそれに応じた生産量を求めたりしてしまいがちです。とはいえ、より売れるものを作りお金を稼がせてあげたい、というジレンマですかね。

ー 以前に水野さんより、「障害のある人はいくら稼げるようになればよいのか」という質問を受けましたが、回答がまとまらないままです。

去年(前回お話した2019年)の6月は障害者年金と賃金、工賃の関係に特化した「障害者と生活とお金」の話でしたが、それに加えて営利企業の工場経営者がどう生きていけるかも考えていかないと、「地域で生きていく」ことすら到底できなくなります。障害のある人に/障害のある人と/障害のある人が、どんなしごとを作ればいいのか。ますます悩ましい時代ですね。

*実施:2020年5月26日(火)   聞き手:岡部、中島、(一般財団法人たんぽぽの家)、森下、藤井(Good Job! センター香芝)

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水野大二郎(みずのだいじろう)
京都工芸繊維大学Kyoto Design Lab特任准教授。2008年Royal College of Art 博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。京都大学デザインスクール特任講師、慶應義塾大学環境情報学部准教授を経て現職。デザインと社会を架橋する多様なプロジェクトの企画・運営に携わる。


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