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[Discussion]【これからのものづくりを考える4つの視点】①武田和恵さん

始動2年目を終えようとしているNEW TRADITIONAL。新型コロナウィルス感染拡大の収束が見通せないなかではありましたが、新製品発売や展覧会、あらたな人々とのつながりなど、多くの進展がありました。
作る・発表するだけでなく、NEW TRADITIONALについて考えるつづける・さまざまな人と意見を交わしつづけることが大切だと私たちは思ってます。
今回は、福祉とアートの現場をつなぐコーディネータである武田和恵さんをお招きして、お話をうかがいました。武田さんには、2019年に「NEW DANTSU」をつくるにあたり、山形県内の障害のある人や福祉施設、デザイナー、職人らをつなぐ役割を担っていただきました。その折に感じられたことや、武田さんの思うニュートラについてなどもお聞きしました。
(インタビュー実施日:2021年2月19日)

▽参照記事:NEW DANTSU が生まれるまでのおはなし

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ー おかげさまで「NEW DANTSU」は完成・販売に至り、今年は新柄の開発にも乗り出しています。コーディネータの重要性を強く感じました。

いろんな人が分野を横断している取組みだから、コーディネータが大切だと自分でも感じましたね。
福祉事業所のほうも慣れていないから、外部の人が来ると遠慮してしまう。あわせてしまう。例えば外から来たデザイナーの提案にたいして、それでいいですよと引いてしまう。そうすると、メンバー(作業所の利用者さん)がなぜかかわっているか、メンバーのどういうところをこの取組みで大切にしたいのか、ぼやけてしまう。いろんな人がかかわる=全員が妥協点をさがす必要がある。そのとき最後の砦になるのがコーディネータ。ただその場を丸く収めるのではなく、どうみんなの持ち味をいかせるか。それは、あえて発言をしていかないと、見過ごされてしまう。メンバーの持ち味をいかすことが当たり前になっていくといいのですが。

ー 具体的にはどのような場面があったでしょうか

𠮷田勝信さんのワークショップ★初回のことです。終盤で、メンバーが粘土でつくったものが1つの平面で混ざってしまいました。すると、それぞれのメンバーの手仕事感が薄れて、全体の魅力が減ってしまったんです。私は、「(日を改めて最初から)もう一度やり直そう」と提案しました。工程を知ってやってもらうのと、ワークショップの設計に含まれていなかった偶然の出来事を見境なく愛でるのとは、少し違う。2度目にはメンバーの持ち味の残った図案にであうことができました。仕切り直しを提案すべきか見極めることも、コーディネータの力量のひとつです。

★緞通の絵柄のもとになる図案を引き出すため、吉田勝信さんが誘導役となり、メンバーに絵の具や粘土を使った創作活動をしてもらった。2020年1月から2月にかけて山形県内の福祉施設3ヵ所にて計4回おこない、そのプロセスや成果を「ものと人をめぐるフィールドワーク」と題した企画の中で展示した(会場:KUGURU 会期:2020年3月20日(金・祝)~26日(木))。

多くの福祉施設は下請けの仕事をしていたりするので、正解と不正解、適合と不適合、といった「揺らがない」ことに慣れているんです。デザインのルールを決めつつも、ゆらぎ・あそびの幅を持たせることができたのは、一連のワークショップで良かった点ですね。参加したメンバーから「色を選べたから楽しい」とか、施設職員からも「自由なところがあったのがよかった」という声が聞かれました。

ワークショップの場から生まれた偶然の事柄を素材としてデザイナーが編集して作品に仕上げることもできるし効果的な場合もあります。ですが、今回は初回ということもあり、もう少し表現の主体性をワークショップの参加者に持たせたかったのです。まずは吉田さんに障害のある方がたの表現の魅力とか力をもっと知ってもらいたいと思いました。そのうえで、いろいろ試していくことで、表現者と表現者の力のぶつかり合いや混ざり合いが生まれるのかなと。そのためにはまだまだ時間が必要で、今回きっかけをいただいたと思います。

ー 外部から風が入ったことについて、職員のみなさんは何かおっしゃっていましたか?

この事業がなかったら滝沢工房(有限会社米沢緞通)のことも知らなかっただろうとおっしゃっている施設がありました。つまり、事業をとおして地元にある価値に気づいたということです。実はいま、両者が協働して商品を開発する話が動いています。NEW TRADITIONALをきっかけとしながら、別のところであたらしい製品が生まれるかもしれない。

ー それはたのしみです。声をかける施設をどう選んだかについても教えてください。3施設のうち、すでに美術活動を取り入れている施設もありましたが、そうでない事業所も提案されました。それはどういった見立てからでしょう。

自分が関わっている山形県の社会福祉協議会の事業の一環で、手仕事に前向きな作業所を数年前から知っていたんです。滝沢工房さんに訪問したときに、絨毯を補修する「植え込み」という技術を見せてもらったときに、そういう手仕事が得意だったり好きな方が福祉事業所にたくさんいるのではと思い、できれば同じ地域で仕事に繋がればと頭に浮かんだのが「くらら」でした。障害のある人の様ざまな特性に合わせた様ざまな事業所があります。刹那的な独自の表現から魅力が伝わる方もいれば、淡々とした手仕事で伝えていく表現もあるなと思います。雪国には後者のそういう気質や文化が根付いていています。特に滝沢工房のある米沢の地は、米沢織、笹野一刀彫などの伝統工芸があり、大切にしている印象があります。

とくに山形では、産業の中間支援と福祉の中間支援とが、手を取り合って新しいものを産んでいける予感がしていて。以前に東日本復興支援プロジェクト東北事務局に従事していたなかで、当人たちの需要に応じた仕事をコーディネートする中間支援者の重要性を痛感していた経験も今に活きています。支援する側のやりたいことを押しつけすぎて現地の人達が少し引いているところなんかをよく見ました。ケアの現場もワークショップも同じことが言えますね。こちら側の固定観念だけで動かずに、寄り添い、何を求めているかを引き出し、どうしていきたいかをコーディネートすることが必要だと思います。

ー 近頃では、「絵を描くことも障害のある人の仕事」と社会に認知されつつあります。絵だけでなく、創作や手仕事という、より幅広く、社会との関わりしろの多い行為が、障害のある人の仕事になる可能性があるんだということを示せたと思います。

それを山形のちいさな圏内で実現できたことの価値は大きいです。その小さい単位が全国に広がれば...
ただ、福祉事業所は、自己完結する製品をつくっているところが多いため(例:クッキーを製造し自ら包装し自分たちの店で販売する)、他団体と連携して作るということに慣れてないところも少なくありません。ワークショップでうまれた絵柄が緞通になり全国販売されていることに、実感が持てていない方もいるようです。そういった点は、事業を計画した側の情報の届け方に工夫がいると思います。

ー デザイナーの仕事の範疇の広さや特長について、山形ならではのものを感じることはありますか? 吉田さんが昨年展覧会のおりに、利用者さんが常にケアラーに支えてもらえる安心感のもとに作品を創っている姿を見て、うらやましいと言っていたことを思い出しました。

山形県は山脈に分断されたそれぞれの地域ごとに異なる文化を持っています。その文化が土壌となり、各地域にアーティストやデザイナーが分散して活動していることが特徴で、面白いところだなと思います。山形にいるデザイナーは、地域との連動や、地域の価値を見出すための仕事をしている人が多いと思います。よろづ相談室のような、寄り添うことが求められるような関係性が顧客との間に求められる。それは、福祉の世界でいうケアと似ている部分がありますね。
(2021年2月19日(金)  聞き手:中島、藤井)
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武田和恵(やまがたアートサポートセンターら・ら・ら)
1977年山形県山形市生まれ。天童市在住。1999年、東北芸術工科大学デザイン工学部情報デザイン学科卒業。学生の頃、奈良県のたんぽぽの家にボランティアに行き、障害のある人のアートに触れ、「障害のある人に関わりたい!」という一心で山形市の福祉施設で働き始める。2012年から、一般財団法人たんぽぽの家、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの東日本復興支援プロジェクト東北事務局として障害のある人の仕事づくり、芸術活動支援事業に携わる。その時に中間支援やコーディネートの重要性を実感。2018年から、やまがたアートサポートセンターら・ら・らコーディネーターとして従事。

やまがたアートサポートセンターら・ら・ら
社会福祉法人愛泉会では、2011年に障がいのある人の作品を展示する場「ぎゃらりーら・ら・ら」を開設し、2016年から山形県の事業として「やまがた障がい者芸術活動推進センター」、2020年からは、障害者芸術文化活動普及支援事業の採択を受け「やまがたアートサポートセンターら・ら・ら」として、山形県内の障害のある人の芸術活動の普及支援に取り組んでいます。障害のある人の芸術文化活動のさらなる充実を目的に「相談支援」「人材育成」「ネットワークづくり」「発表機会の創出」「調査発掘・発信」を実施しています。活動を通して、多様性の理解促進をはかり、新たな価値創造の発信を続け、互いを尊重し理解しあえる包容力のある地域社会創造のため活動していきます。

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