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さよなら、東京タワー。

以前、書いたように、私はいわゆる音大生の「負け組」となり教員をしているが、この春、その職を離れることになった。といっても片方だけを離れ、大学の講師は続ける。

私は鈍い人間なので、自分が置かれている立場というものに気がつくのに時間がかかった。結局、私は「便利屋」だった。復帰した時は、ありがたく便利屋として働かせてもらっていたが、他学でも仕事が増えてきた。そのことを伝えていても容赦なく「便利」に使われてきた。ついには、昨年、断るのはムリな時期に、仕事が増えることになっていると知らされた。決まった体で知らされた。私の意思はそこにない。

非常勤講師の経験がある方はわかってくださるかと思うけど、コマ数が増えれば収入も増える。ありがたいことである。しかし私は他学が忙しくなったこともとっくに伝えていたし、大学院生であることも伝えてあった。私の中では大学教員になるための博士課程進学だったので、心は決まっていたのに、グイグイと仕事を入れてきた。

指定された担当コマ数を引き受けることはムリだ、と頭ではわかっていた。でも断ったら職場が荒れることはわかっていた。だから「全力でやってみればいい」と自分に言い聞かせた。

結果、ムリだった。9月の学会の時に頭が破裂したかと思った。それから改善する見込みもたたない。メンタルの病気に一度かかると長引く。私は行きつけの心療内科に駆け込んだ。昨年の10月だった。

今後「どう考えてもムリ」という仕事をさせられそうになる、非常勤講師、非常勤職員、その他非正規雇用の方々に伝えたい。「ムリ」という勇気も必要だと。私は大口叩くくせに、小心者なので言えなかった。とにかく病院に行ったことだけは正解だった。しかしこういう時はメンタルだけではなくフィジカル面もやられてしまう。

情報過多を避け、早食い、早歩きを治している。そして、ゆったりした時間を噛み締める。「研究できる身体に戻そう」これが今、私の一番の目標だ。

新年度が始まった。今日は暖かな一日だった。
そうだ。私はしばらくここでがんばるんだ。

さようなら、東京タワー

少しばかりの寂しさを残しながら、安心している自分がいる。さて、ゆっくり歩いて、帰ろう。

※加筆・修正2022/12/01

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