見出し画像

機械にできなかったことが人間にはできるのだ

夫は、手指が動きません。
声を出すこともできなくなりました。
「あー」さえも出なくて、もどかしそう。
何にもできない自分が本当に悔しくてたまらなかったと思います。

けれど、明るかった。
とにかく、明るかった。
夜、眠っている時に一人泣いていたのかもしれませんが
人前では決して泣くことはありませんでした。
病名がわかってすぐは、よく泣いていましたが
それは当然です。

視線や指の動きを読み取って、文字にできる機械も試みましたが
指を動かせない、視線が定まらない夫には、どれも適さず、自分の感情を表すのは、「瞳」と「表情」のみとなっていました。
あきらめを知らない私は、いろんな機械を試してもらいましたが、全くダメでした。

夫の気持ちを知りたいけれど、表情を読み取るしかないと諦めていた
ある日
訪問看護師さんの、胃ろうに栄養を注入している時間がもったいないので
絵でも書いてみたら?、と提案し、ペンを看護師さんと一緒に持って書いてみたら、なんとなく絵みたいなものができたのです。

看護師さんから「筆のような繊細のものの方がより描きやすいかもしれませんね」とアドバイスいただき、
早速、水彩の筆セットを用意し、看護師さんと一緒に書いてみたら
なんと、下手くそだけれど、絵を描いたのです。
また奇跡が起きました!

それから、日々の訪問看護の空き時間に看護師さんと練習を重ね、
ついには、文字を書けるようになったのです。

その看護師さんHさんは、手先がとても器用です。
夫の微妙な動きを察知して、文字を一緒に書いてくれるようになったのです。

私も夫の手を持って何度もチャレンジしてみたけれども
全く無理でした。
微妙な動きとか、何ひとつ全く感じられません。

夫とHさんはどんどん進化し、ペンを持たずに指だけを持って、
最終的には指文字で会話ができるようになっていました。

だから、喋れなくても最後まで夫は意思疎通ができていたのです。
ただし、Hさんがいる時、限定です。
これもまた、嘘のようなホントの話です。

その後、Hさんは、どんな患者さんでも、寝たきりの方でも、指文字ができるようになり、コミニュケーションを取れなかったご家族に、大変喜ばれているそうです。
夫との経験で得たスキルは、全国で喜ばれるんではないかなぁと思う位です。

精密な機械にできなかったことが、人間にできたのです。
すごくないですか?
とはいえ、この技は、Hさん以外、誰一人としてできません。
器用な人がたくさんチャレンジしましたが、全くできません。

最初はすごく時間がかかったものが、スラスラ書けるようになっていました。

残された作品は、かなりの数があります。
オチがある、漫画風のものもあります。
描いている様子の動画もあるので、いずれご紹介できたらいいですね。

このマガジンでは、夫の言葉と絵たちを紹介していきたいと思います。
夫が残した宝物です。

ちなみに
この記事の画像は
夫が描いたわたしです。
下手くそだけど、宝物です。

新堂きりこ

よろしければサポートをお願いします。 いただいたサポートは社会復帰への新しいチャレンジの活動費とさせていただきます。