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「カードゲームの数学的アプローチ」

トレーディングカードゲームが大々的にできたのは1993年、マジックザギャザリングが初めてだ。
その1年前の1992年に発行された『ゲームと競技の数学-遊びのサイエンス-』(1992年7月25日/サイエンス社/著・J.Dビースリー 訳・中村義作)では、まるでカードゲーム業界の未来が見えていたかのような文章が数多く書かれている。
例えばゲームに対する人間のアプローチの仕方を3つに分類している。
(1)勝敗だけに関心のある人
(2)ゲームの美しさを求める人
(3)ゲームの本質を捜し求める人
『ゲームと競技の数学-遊びのサイエンス-』では(1)に対して、著者のJ.Dビースリーは苦言を呈している。これは、近年のカードゲーム界隈に例えると環境を握ってCSでの勝利にのみ固執している人のことをイメージして頂ければ遜色ない。
(2)については将棋の羽生マジックを想像して頂ければ良い。一見悪手に見えて、美しい伏線回収をするようなプレイヤーのことだ。
(3)は数学的にゲームを分析する人をイメージするのが良い。マジックザギャザリングの創始者のリチャード・ガーフィールドが数学者の博士号を持っていることから容易に想像がつくだろう。数学的な素養はカードゲーム作りに必要なことなのかも知れない。

数学的な素養を身につけた方が良いと言われて、数学が苦手だからと言う理由で挫折してしまう人もいるのではないだろうか?
『数学的思考法-説明力を鍛えるヒント-』(2005年4月20日/講談社現代新書/著・芳沢光雄)では、いわゆる数学アレルギーの人にも分かりやすく数学的な素養を身につけるための方法が書かれている。
今回はその中からカードゲーム開発に役立ちそうな考え方を説明する。
数学の分野には「確率論」と「ゲーム理論」と言うものがある。
確率論は言うなれば運を研究している分野で、カードゲームに置き換えて考えるとデッキ構築の際に引きたいカードを何枚入れるかの話だ。
ゲーム理論は理論値とは異なる相手の傾向だとかを考慮に入れたものになる。カードゲームで言うなればプレイングと言ったところだろう。
確率論だけを研究したり、ゲーム理論だけを研究したりせず両者ありきで戦略ゲームが成り立つと言うことが述べられている。引きゲーだからプレイング意味ないよ…と言うのはお門違いなことが、学問の世界から指摘されていると言うことだ。
戦略ゲームの代表として、将棋はしばしば話題にされる。将棋はカードゲーム界隈が見習うべきことの多くを持っている。プロ制度やゲームの公平性など、参考にすべきだろう。
元プロ棋士の飯田弘之は、自身の経験を元に人工知能やゲーム情報学の博士となり、ゲームを数学的な観点で分析している。
同者は洗練されたゲームを以下のように定義づけていた。
洗練されたゲーム=スリル感+遊戯性+公平性
スリル感とは何であろうか。これもまた同者は
一回のゲームで選べる手数/ゲームが終わった時までの手数
…と定義づけていた。
このスリル感を数量的に計測することにより、遊戯性も計測することができると考えていた。
面白いかどうかを数値で測ろうと言うのは挑戦的だ。

今回取り扱った話題が、少しでもカードゲーム作りやプレイの参考になっていれば幸いだ。

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参考文献
・『ゲームと競技の数学-遊びのサイエンス-』(1992年7月25日/サイエンス社/著・J.Dビースリー 訳・中村義作)
・『数学的思考法-説明力を鍛えるヒント-』(2005年4月20日/講談社現代新書/著・芳沢光雄)
・『教養としての将棋-おとなのための盤外講座-』(2019年6月20日/講談社現代新書/著・梅原猛 羽生善治 尾本恵市 ほか)

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