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“沈黙”のデザインがオンラインの可能性を拡張する。宮本道人さんインタビュー

突然ですが、 今後のNeWorkのnoteでは、オンラインコミュニケーションの可能性について探るために、多様な皆様へのインタビューを定期的に発信していこうと考えています。初回は、ライブ配信・Zoom演劇などオンラインを活用したエンタテイメント・アート作品群を「ディスタンス・アート」として総称し注目を集めた、東京大学 VRセンターの宮本道人さんにお話をお聞きしました。

NeWorkは、ビジネスにおけるオンライン領域のコミュニケーションを模索してきました。コロナ渦によって、ライフスタイルが強制的に変わって2年以上が経過した現在、私たちのコミュニケーションはどのように変わり続けているのでしょうか?

ディスタンスアートとは?
「複数の演奏動画を分割表示する、次の演奏者を指名しリレーしていく、元の演奏動画に自分のセッションを重ねる、Zoomの映像だけで映画を作る、視聴者が画面に出す演出指示に即興で応じる、画面が固まることやタイムラグを笑いに昇華する。」宮本氏は、こうした新しい作品を総称して「ディスタンスアート」と名付けた。

虚構から現実を探る研究者

ー 宮本さんは多岐に渡る活動をされていますよね。

東京大学VRセンターに所属しつつ、ディスタント・アートの分析やSFプロトタイピングの実践などを通し、広く科学技術とエンタテインメントの関係について考察しています。

ー なぜそういった研究に取り組んでらっしゃるのでしょうか?

根底には「現実ってなんだろう?」という問いがあります。虚構を知ることで現実を知りたいという。実際に、現実としての科学技術と、虚構としてのエンタメにはいろいろな関係があり、それを理解して整理したいというのが最近の研究のモチベーションになっています。

ー 宮本さんは2020年コロナ渦初期に、ディスタンス・アートを論じて大きく話題になりましたよね。

現実空間で創作したり表現したりといったことが突然難しくなり、多くのクリエイターがウェブを通して創意工夫をし始めたのが面白かったんです。それにともなって作品の鑑賞方法も変わってきたり、題材もパンデミックやディスタンスと向き合うものが増えたりといった変化もありました。そういった作品を「ディスタンス・アート」と名付けて分析してみようと思ったんですね。

ディスタンス・アートの現在地 -仮想平面と仮想空間-

ー 2年経った今、振り返ってみてどう思われていますか?

最初の緊急事態宣言から数ヶ月は歴史に残るレベルで、これまでにない変なコンテンツがどんどん生まれていたと思います。最初の頃だけは、作り手側も受け手側もそういうコンテンツを現実の代替物として捉えていたように思うのですが、だんだんとディスタンスがあるからこそ面白いという表現が追求されるようになったのも興味深かったです。

ー 現実とは違う楽しみ方をみんなで模索していたのかもしれませんね。

まさにそうでしたね。ちなみに僕はこの2020年を「仮想平面元年」と呼んでいます。

↑VR元年は「仮想平面元年」より後に訪れる──Gather.townとNanomeから

ー「仮想平面」?

そう、空間でなく平面です。「仮想空間」って言葉は3次元のVR世界を指すのに使われますよね。同じように、2次元の平面に対して「ここにコミュニケーションできる世界がある」とユーザーが想像しているものは「仮想平面」と呼べるだろうという考えです。

ー 空間であれ平面であれ、私たちがある意味では「画面を見ているだけ」とも言えますよね?

それはそうなのですが、自分がこの世界とは別の三次元空間にいると感じられるか、それとも二次元の平面の一部を構成しているパーツであると認識されるかで、感覚はかなり違います。

ー なるほど。

二次元平面上でコミュニケーションするツールが、ずっと来ると言われていた「VR元年」に先駆けて脚光を浴びたのはすごく面白い現象でしたね。まずZoomをはじめとするリモート会議ツールがビジネスシーンを中心に広がり、その後、エンタメ要素を加えたGatherのようなサービスも話題になっていったイメージです。

ー「仮想平面」はビジネスシーンから広まって、エンタテインメント領域へ広がりを見せたんですね。

そうですね。で、直近一年くらいになって、3次元のVR空間でのコミュニケーションも、世間の注目度が上がりました。

ー 平面から空間表現へと変化が見られると。

「メタバース」がバズワードになったことが顕著です。ここで面白いのが、先ほどの仮想平面が主にビジネスからエンタメに広がったのとは逆に、仮想空間は主にエンタメからビジネスへと話題が広がったということです。ゲームなどで既にある程度普及しつつあったメタバースに、これまでそうした領域に興味を持っていなかった企業が注目していったんですね。

ー へー!平面空間とは逆の広がり方なんですね!

極端な整理ではあるので、もっと広い目で見るとそうではない部分も多いと思いますが、VRChatやClusterなど、比較的エンタメ領域で使われていたプラットフォームを、今いろいろな企業が活用し始めているのは事実です。

↑Devolver Digitalは、展示会『Devolverland Expo』をSteamにてゲームとして発表した。

ー そういう変化の差は面白いですね。

余談ですが、そもそもメタバースという言葉もSF小説の『スノウ・クラッシュ』由来ですし、そこからしてエンタメから出発しているというのも面白かったりします。

オンラインでストーリーを紡ぐこと

ー VRをビジネス活用することで、これから産業としては成長するとお考えですか?

間違いなく成長はするでしょう。ただ、単にリモート通話のリッチなバージョンというだけだと、面倒だし大多数はすぐ飽きるんじゃないかなと。スマホはビデオ通話もネットサーフィンもカメラ撮影もできるから便利なわけで、同じようにどんな別要素とどう組み合せるかも鍵を握りそうです。

ー なるほど。

あとは気軽に長時間装着できてネットにも繋げやすいVRハードが出てきたら、一気に広まるかもしれませんが、いまは過渡期という感じですね。

ー あぁ。結構大きなガジェットが多いですもんね。

ソフト面から見ると、1人1メタバースみたいな感じで、誰でも気軽にVRコンテンツを作れて、誰でもそれを気軽に遊べるようになったら、ソフトのためにハードを買う流れができるでしょうね。すでにメタバース業界のYouTubeみたいな立ち位置のプラットフォーム「ROBLOX」とかも出てきていますし、それも遠い未来でないと思いますが。

ー オンラインでのコミュニケーションはどのように変化しているとお考えですか?

先ほどエンタメとビジネスの融合の話をしましたが、リアルな空間とストーリーやフィクションの組み合わせが重視されるようになってきているのではと思います。すごい映像美の映画でも、脚本がダメだと観るのを辞めたくなる、みたいなことがオンラインでもあるんじゃないかと。

ー あぁ3Dのゲームなどはストーリーがあるからこそ空間に没入できますもんね。

オンラインでのストーリーを、現実にどう活かすかというのも重要になってくるはずです。たとえばTINDERでは、SWIPE NIGHTというイベントでドラマからの出会いを提供していました。

↑世界滅亡の日に生き残るため、仲間たちと協力しながらアクションを選択するストーリーだ。ユーザーは物語の主人公としてストーリー展開を左右する場面で、次に取る行動を決める。

ー さまざまなプラットフォームで、そういったフィクションと現実が入り混じってきているんですね。

今後は、リアルでも価値を持つストーリーをオンラインにどう作るか、というのがキーになるんじゃないかと。「Zoom飲み」が一瞬で廃れたのって、話すという現実的な機能だけはあるけれど、前後のストーリー的なものが欠けがちで、リアルの下位互換でしかなかったからだと思うんですよね。

ー そもそものコミュニケーションとして別物と捉えるべきなのかもしれませんね。

沈黙のデザインこそが、オンラインコミュニケーションを変える

ー オンラインのコミュニケーションについては、現状はどのように捉えてますか?

リモート通話では企業ごとにレギュレーションで使えないツールがあったり、メタバースでは持っているデバイスによって体験に大きな差が出てしまったりと、オンラインにはデジタルデバイド的な問題がまだまだ存在します。僕はオンラインの方がリアルより好きな部分もたくさんあるんですが、そういう本質的でない部分で阻害されるものが大きいことを残念に思っています。

ー ディスタンス・アートのコンテンツは、どのような変化をしているんでしょうか?

ディスタンス・アートは、2020年に比べて発表される数がぐっと減りました。でも、ある意味ではディスタンス・アートの要素はもはや日常の中に溶け込んでいるという見方もできるかもしれません。

ー 溶け込んでいる?

日常的なコミュニケーションやビジネスの中にオンラインエンタメ的な要素が入り込んできているし、それはあまり意識されないことも多くなってきていますよね。今はそういう浸透と拡散の段階にきているのではないかと。

ー これからのオンラインコミュニケーションは、どう変わっていくとお考えですか?

僕は「沈黙」にこそ意味があるのではないかと思っています。

ー 沈黙!?

はい。ひとつ例を挙げますと、僕がオンラインでワークショップをやるときは、みんなで同じスライドを共有し、そこに同時に書き込んでいってもらうスタイルを取ることが多いんです。こういうとき、みんなに黙々と作業してもらうのですが、スライド上では文字でコミュニケーションが取れているんですね。

ー ただただ、作業だけをしてもらうんですね。

文字だと、作業とコミュニケーションが同時にできるんです。特に若い世代は文字チャットでのやり取りに慣れていて、ヘタに声で会話するよりもうまく議論をまとめられることが多いです。一方で、オンラインコミュニケーションに慣れていない世代の方は、こういうのを見ると「盛り上がっていないんじゃない?」と心配されて、「間をもたせよう」と話し続けることがあります。

ー 結構差があるんですね。

世代間の差は大きいです。こういう「沈黙のデザイン」をどう考えるかというのが、オンラインでのコミュニケーションにとってすごく重要だと思っています。

ー あぁ。沈黙に対して不安に思う世代もいるし、捉え方が個々で全然違うんですね。

システムを作る側にとっても、この沈黙のデザインは面白い課題になると思います。ちなみに、これもエンタメに手がかりが見いだせます。たとえば、「ある沈黙からの脱出」というリアル脱出ゲームでは、パンデミックを逆手にとって、会話NGという制限が設けられていました。

それから、オンラインの取り組みでは、「ポケモン竜王戦2020」の配信がユニークでした。

ここでは、黙って真剣に戦う選手の心拍数を可視化することで、試合の盛り上がりが伝わる仕組みが実装されていました。選手の興奮や驚きがダイレクトにわかる面白いアイデアでしたね。こういう、沈黙状態がむしろ輝くコミュニケーション手法がこれからどんどん生まれるのだろうなと思います。

ー これからは、会話以外で空気を伝える手段が重要なのかもしれませんね。

私たちの新しい働き方について

ー 在宅オンライン、出社、ハイブリッド…様々な選択肢がありますが、私たちの働き方はどのように変わると考えていますか?

個人的には、どんな選択肢も強制されたらツラいですね。仕事によって選べない時もあるとは思いますが、ある程度はフレキシブルにできないと、特に新入社員などは孤独感から不安を感じるのではないでしょうか。

ー 確かに不安はありますよね。

不安の解消になるかどうかはわかりませんが、オンラインでもみんなで同時に同じことをすると、空間も共有している気になり、多少は人と仲良くなりやすくなるかもと思ったりしていました。というのも、アムステルダムのデザインスタジオTINが作った、同じ音楽にあわせて踊っている人を探せるdistancediscoというシステムとか、Spotifyで複数人が同時に音楽を聴けるグループセッション機能とかが、そういう方向性だったので。ビリーアイリッシュも「infinity bad guy」で、世界中のミュージシャンがセッション感覚で参加できる試みをしていました。

ー エンタテイメント・アートの方面では色々とポジティブな動きが生まれているんですね。

ディスタンス・アートには、オンラインで「どうすれば一緒にいるような感覚を得られるか」を模索する中で生まれたコンテンツも多いと思います。ひとつひとつにインパクトがあるわけでなくても、こうした流れから新しいコミュニケーションのカタチが創られるかもしれません。小さなアクションを積み重ねた先に、誰もが働きやすくなる未来が来るといいなと思います。

ー 今日はありがとうございました!

編集後記
リアルでのコミュニケーションには、発した言葉や表情以外にもとてもたくさんの情報があります。例えば、匂いや息遣い、画面には映らないような仕草。オンラインでは伝えきれない様々な情報たちがリアルにはあります。ですが、オンラインコミュニケーションはリアルと比較するものではないのかもしれません。例えば、リアルでは聞こえない心拍数が聞こえたり、疑似的な香りが楽しめたりと、オンラインでしか楽しめないコミュニケーションの可能性。
宮本さんがお話された「沈黙をデザインする」ことは、未来のコミュニケーションを創るための示唆に満ちていると思いました。
NeWorkでは、これからも様々な皆さんと対話をすることで、オンラインコミュニケーションの可能性を広げていければと思います。

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さあ、一緒に新しい働き方へ。
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NeWork note 編集チーム:中見麻里奈、原田結衣、梶川詩央

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