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異常論文「境界を侵犯すること」

 一頃日本のSFシーンで流行った「異常論文」というサブジャンルがあった。SFネタを論文形式で表現したものでその斬新さが読者にうけたものだが、筆者も自分の妄想を「異常論文」形式で表現してみようと試みたのが、下記「境界を侵犯すること」である。

 サッカーの「オフサイド」と「オフサイド・トラップ」のガンマ関数を導出し、「サッカーのカバディ化」は自明となることを予想する、というたわけた論文である。論文ではLaTeX表式を使って数式を表示・記述したのだがNoteでは表示できない(少なくとも筆者にはわからない)ので、PDFファイルを掲載せざるを得なかった。お許し願いたい。

 論文形式とは言え、妄想SFである以上「オチ」も用意したのだがおそらくはだれも気付いてくれないだろう。あまりにもさみしいので「オチ」を後述することにする。 自分の未熟さを棚にあげて、自分でオチをさらす情けなさも重ねてお許し願いたい。

 


あとがき  ※ネタバレ含む

タイトルの「境界を侵犯すること」は、アラン・ソーカル著「知の欺瞞」岩波現代文庫所収の、下記論文タイトルからの借用である。

A,ソーカル、(A.Sokal)1996「境界を侵犯すること ー 量子重力の変形解釈学に向けて」

アラン・ソーカルは現代数学の用語を多用した「でたらめな」ポストモダン哲学論文を発表して世間を騒がせた「ソーカル事件」を巻き起こした人物である。当然彼の論文タイトルを借用したということ自体、筆者の異常論文が限りなく「怪しげ」であることは自明なのである。

ちなみに筆者の異常論文内で引用した各論文や数式はすべて現実に存在する論文であり、論文内でリアルに記述されている数式である。

というわけで「オチ」について述べる。

カギは論文のラスト1行の註の文章「γ(ガンマ)関数はいかなる微分方程式を満たさない」である。

その前段の文章で、論文では以下のように結論している。

「サッカーのオフサイド・トラップにおけるディフェンダーのライン・コントロールを記述したガンマ関数③が、この「カバディにおける守備側の動き」を記述した微分方程式④を満たす、というのが本稿の提示する「予想」である。」

つまり「(導出された)「γ関数」が(これまた導出された)「微分方程式」を満たすならば、本「予想」が成立する、と言っているにもかかわらず、「γ(ガンマ)関数はいかなる微分方程式を満たさない」と別の数学者がとっくの昔に証明しているのだ。

 ※ガンマ関数と代数的微分方程式に関する証明は、註のとおり、H.ヘルダー(H.Hölder 1887)という数学者に証明されている。

本異常論文の「予想」はそもそも最初から「成立しない」、というのが自明であることこそ筆者の用意した「オチ」である。

ここまで辛抱強く読まれた奇特な読者諸氏が激怒されても、貴重なお時間を無駄にしてしまい申し訳ございませんでした、とただただ平謝りするしかない。ごめんなさい。



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