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うまく行くまで欺し続けろ
「オートパイロット」に捜査の手

 日本ではほとんど報じられなかったが、正月早々、全米の注目を集めた裁判に評決が下った。被告は医療ベンチャーの女性創業者エリザベス・ホームズ(37歳)。スタンフォード在学中の19歳の時、たった数滴の血液で200以上の病気の有無を判定する画期的な検査装置を開発したと称して、起業した。

 エリザベスの会社は元国務大臣のキッシンジャーやシュルツという超大物を役員に迎え、時価総額はピーク時90億ドルをつける。彼女が身にまとうのはいつも黒のタートルネック。スティーブ・ジョブズにあやかり、“第2のアップル”を気取ったのである。

 ところが2015年、ウォールストリートジャーナル=WSJ紙が「件の検査装置が適用可能な病気はたった12だけ。しかも、実際の検査では(開発した装置ではなく)市販の検査機器を使っている」とすっぱ抜き、エリザベスは法廷に引き出される仕儀となった。

 日本の感覚からすれば、明々白々の詐欺事件でしかない。米国で異様な関心を集めたのは、本裁判がシリコンバレーの「文化」を裁くものだったからだ。「うまく行くまで、うまく行っていると言い続けろ」(fake-it-until-you-make-it)。ホラは成功に至るプロセスであり、大目に見ることが「夢」の実現を促すという「文化」が彼の地にはある。事実、詐欺で立件された起業家は稀であり、今回の裁判でも、エリザベスは投資家を欺いた容疑では有罪評決を受けたが、患者を欺した容疑では無罪(!)を勝ち取っている。

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