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満月の手摘み紅茶

虫歯治療の帰りに、行きつけの自然食品店の「地球畑」へ車で向かった。
店構えは小じんまりして、店先には野菜や果物が所狭しと並べられいる。店に入ると、一人の主婦らしき客に何やら説明をしている人がいた。側を通り過ぎ乍ら、以前に買ったオーガニック紅茶の生産者の方だと思い出した。

調味料の陳列棚を見ていると、顔馴染みの店員さんに声をかけられた。
「また、紅茶生産者の方がみえてますよ」

「そうですね。リーフの紅茶があれば良いですけどね」

「ありますよ」彼女はそう言うと小走りで直ぐに、満月と兎と芒が描かれた可愛いパッケージの筒を持って来てくれた。特別な紅茶らしかったので、生産者の方に直接話を訊く事にした。 

「こんにちは。お久し振りです」

「私も、この前のお客さんじゃないかしら、と思っていました」

「特別な農法の紅茶らしいですね」

「そうなんです、銀座の紅茶屋さんに『バイオダイナミック農法』で育てて欲しいと頼まれて、十五夜の満月の夜に、皆んなで手摘みをして手揉みしました」

ねじめ茶寮 『望月』

満月の夜に‥何処かで聞いたような気がしてハッとした。
昨日、読んだnoteの記事を思い出した。「noteにその農法について書いてありましたよ、ちょっと待ってください」
すると彼女は、怪訝な顔をした。
私がスマホをバックの中から取り出しnoteのアプリを開き、焦りながら「ありました、同じ農法ですね、月がどうとか、シュタイナーがどうとか書いてありますよ。ヒポクラテスも医療で月の影響力について語っているようですね」

「そうです、そうです、エネルギーが高いらしく、香りも良いですよ。こういう物を欲しい方がいらして、東京のデパートにも置いてあります」

「そういえば、お産も月が関係していて、潮の満ち引きがどうとか言いますよね」

「虫も満月の夜に卵が孵るらしいです、農薬散布をされる方は、満月の後に散布した方が効き目があるらしいですよ。うちは、農薬は使いませんけど」

『バイオダイナミック農法』 をnoteの記事で読んでいなければ、こういう紅茶に興味が無かったかもしれない。その農法を知った翌日に出会うなんて、この偶然の一致がユングが唱えたシンクロニシティなのだろうか。noteをしていて良かったと思いながら、その『望月』という紅茶の筒を買い物籠の中にそっと入れた。折りしも442年振りの皆既月食の日だった。

そのお味は。

ひとつまみの葉っぱで1、2杯分。
色が薄いかなと思って飲んでみると、優しい香りが口の中にフヮーと広がり、今まで飲んだ中で一番美味しいと思った。エネルギーも高いに違いない、優しさの中に強さを感じる母のような気がした。おかわりが欲しくて2杯目のお湯を足した。

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