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親子忘年会と知覧の旅
師走の夜空に小さい星が煌めいていた。私たち親子3人はタクシーで食事へ出かけた。
「Veli •Voli matsudaというレストランまでお願いします」と夫が運転手さんに伝えた。目的地に到着するとライトアップされた庭が美しく高揚した。
「ここはフレンチなんだね。お父さんからイタリアンだって聞いていたんだけど」と息子が笑った。
「そうか、勘違いをしていた」と夫も笑っていた。
「先ずはシャンパンで乾杯をしようか、でも何に乾杯しようか」と息子がニコニコして言った。
「忘年会でどうだ」夫も嬉しそうに言った。
「そうだね、今年初の忘年会にカンパーイ」息子が音頭をとった。
私が10月からのレプリコンワクチンを心配して、正月の帰省にストップをかけていた。それもあってか、年内に1人で帰ってきた。
結局、そのワクチン騒動は杞憂に終わり、帰省にストップをかけてしまった他の家族にも申し訳ないと思った。
「光陰矢の如しだね」と私。
「ホントそうだね」と息子もしみじみ。
「あなたの中学、高校時代の校長先生が、耳にたこが出来るくらい話されてたよね、この歳になると共感出来るわー」と私。
美味しそうに赤ワインを飲む夫。
「来年2月には、お父さんと上京することになったのよ」
「何故?」
「ドイツ文学者の西尾幹二先生のお別れの会に出席するから。noteに記事を出されている『E i j y o』さんのお陰なの」
「ほー」
「noteで色々な方と繋がってご縁が出来てね。最初に『noteをやってみたら』と私に言ってくれた、あなたのお陰でもあるね」と息子に簡単な説明をした。
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私は、グルテンフリーの食生活をしているが、たまには良いだろうと小麦のパンを久し振りに食べた。『歯応えがあって香ばしい、う〜ん美味しい』と思った。
「こんな美味しいお店があるとは、また来たいね」と息子が真顔で言った。
カードで支払いをしてくれる息子の背中を真後ろで見ながら、やんちゃだった子が立派になったものだ。と嬉しかった。
翌日は3人で、我が家から小1時間かかる知覧平和会館へ自家用車で向かった。私が初めてそこへ行ったのは約30年前で、当時はガラス張りのケースに特攻隊員が家族に宛てた手紙が沢山置かれていた。順に読んで行くと、胸が押し潰されそうになり涙が溢れてきた。日本国民のために戦って下さった感謝の念と、家族への想いが詰まった文章に感動し涙を止めることができなかった。
会館の右奥には『鳥濱トメさん』が特攻隊員のことを切々と語られている、テレビのビデオが流れていた記憶が朧気に残っている。
随分と月日が流れ、その場所は整備がされ新たに立派な会館が建っていた。お土産屋さんや食事処もあり、全国から見学に訪れてもらうには素晴らしい環境だった。
私は、会館に置かれた手紙を読む勇気がなく、今回は泣かないようにさらりと見学すると決めていた。しかし、更に充実した展示物や映像、絵を見ると胸が熱くなり涙がこぼれた。願わくは熱き血潮の特攻隊員たちが生まれ変わり、現世で幸せに暮らしていて欲しいと思った。
息子が知覧特攻平和会館に訪れるのは、これで3回目だった。
「2回目はいつ来たの」と私。
「10年くらい前の独身の頃、一人で開聞岳に登った時に立ち寄ったんだ」
「開聞岳の頂上で、一人でインスタントラーメンを煮て食べた時か?」と夫。
「そう、あの時だよ。来る度に感じ方が変わるね。今日も勉強になった、歴史をもっと学ばないとね、勝者が歴史を作ってしまうからね」と息子。
「我が子も連れて来たいでしょう」と私。
「そうね、15歳になったらね」
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信楽焼陶板壁画 仲矢勝好氏画
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影絵 レプリカ
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私は、特攻遺品室入り口の上に飾られている『平和の世界へ』に吸い込まれるように近づき、上を見上げた。光輝く崇高な絵画だと思い暫く眺めていた。ふと、横を見ると制作者らしき方の写真と説明文が目に入った。
それを見て、影絵のレプリカだと分かり、昔よく夫が買ってきた『暮らしの手帖』に出てくる影絵を思い出した。作家の名前も微かに見覚えがあった。
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特攻平和会館を見学した後、敷地内のお店で腹ごしらえをした。それから地元の方オススメの『まかや精肉鮮魚店』で息子が鶏刺しを買った。
知覧には武家屋敷が残されていて、当時を偲ぶことができる観光名所がある。以前そこで飲ませて頂いた知覧茶が美味しかった。今回はそこへは行かなかったが、そのことを思い出し知覧茶を買うことにした。
商店街の水路には透き通る水が流れ、錦鯉が優雅に泳いでいた。
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試飲が出来て種類も豊富
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次は、無形民俗文化財「薩摩の水からくり」で有名な『豊玉姫神社』へ向かった。六月灯で、水車の動力を利用した「からくり人形」が上演される。江戸時代からの行事で、全国でも鹿児島にしかない貴重な文化財だ。
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夕食に『まかや精肉鮮魚店』の鶏刺しをテーブルに並べた。普段あまり食べない私も美味しいと思った。
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特攻平和会館に飾られた影絵に懐かしさを感じ、帰ってからネットで藤城清治氏を検索してみると『暮らしの手帖』の影絵作家と同じ方だった。レプリカとはいえ、素晴らしい作品を間近で鑑賞出来て有り難かった。
心洗われる充実した一日だった。全国の皆さんにも是非知覧へ訪れてほしいと思った。
完
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