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Shakespeare 『ロミオ&ジュリエット』プロローグ2、第2幕第1~第3場


プロローグ2

語りの者
 ロミオの中の 古い情熱 消え失せて
 若い熱情 生まれ来る
 悶えた恋は 死に絶えて
 清純な ジュリエット 光 眩(まぶ)しく やって来る
 ロミオ 今 愛し愛され
 お互いの 魅力によって 魅せられる
 相手方から 敵と目され
 愛のスイーツ 針含まれる
 敵に阻(はば)まれ アクセス できず
 愛の誓いを 語るにも 語れずじまい
 愛あれど 彼女から 接触できず
 いつであろうと どこであろうと 会えずじまい
 愛情だけが チャンスや手段 生み出せる
 究極の 愛の力で 艱難辛苦 飛び越せる (退場)

第2幕
第1場
キャピュレット家の壁際の路上

 (ロミオ 登場)

ロミオ
 心を残し ここは去れない 戻るのだ
 心無くした 憂鬱(ゆううつ)な おまえの体
 おまえの心 取り戻せ
 (壁をよじ登り、屋敷内へ飛び降りて退場)

 (ベンヴォリオ、マキューショ 登場)

ベンヴォリオ
 ロミオ! おーい ロミオ!
マキューショ
 ずるい奴だよ 驚いたよな
 抜け駆けし 家に帰って 寝るんだよ
ベンヴォリオ
 ここへ走って この庭の壁 乗り越えたんだ
 マキューショ 呼んでみろ
マキューショ
 呼ぶだけじゃなく 魔法を使い 姿まで 呼び出してやる
 ロミオ! 気まぐれ男! イカレタ男!
 激烈男! 恋する男!
 溜め息の 姿にて 現れよ
 一つしゃれでも 言ってくれ それだけでいい
 言ってみろ 「俺を愛して! 」とか
   「愛」と「おい!」で しゃれ(・・・)るとか
 ゴシップ好きの ヴィーナス に 甘い言葉で 囁いて
 目隠しをした 息子には コフェチュア王が
 乞食娘を 愛したときに ピッタリと 矢を放ったので
   「若きアダムの キューピッド」と 呼び名を付けた
 ロミオはこれを 聞いてない 騒がない 動かない
 猿 のロミオは 死んじゃった
 さあ 呪文を唱え 呼び出してやる
 この呪文にて 姿を見せよ!
 「ロザラインの きれいな瞳 広い額 紅い唇 美しい足
 スラッと伸びた 長い脚 震える太腿」
 すぐそこの お屋敷に懸け 汝の姿 我らの前に 現すのだ!
ベンヴォリオ
 奴が聞いたら 怒るだろうよ
マキューショ
 こんなことでは 怒りはしない
  「恋人の 魔法の輪 その中に
 いかがわしい 妖精を 呼び出して
 魔法で寝かせ 妖精が 疲れきるまで
 その上で 立ち騒ぐ」
 これなら怒り 姿を見せる かもしれないな
ベンヴォリオ
 なあ 奴は ここの木立ちに 隠れたんだよ
 恋は盲目 暗闇が 最適なのさ
マキューショ
 もし恋が 盲目ならば 恋の矢は 的を外れる
 セイヨウカリン の 木の下で 座ってるなら
 その恋人は その実のような 人ならいいが
 娘達 こっそりと そういう人を
   「おせっかい焼き 」と 呼んでいる
 ああ ロミオ! 君の彼女が オー! オープンに
   「それ」ならいいが…
 それで君が 「なんのナシやら」で あったなら…
 おやすみ ロミオ 俺は帰って 寝るからな
 野原のベッド この俺にゃ 寒過ぎる さあ 行こう!
ベンヴォリオ
 ああ 行こう 見付けられない 奴なんて 捜しても無駄
     (二人 退場)

第2場
                            
キャピュレット家の庭園

 (ロミオ 登場)

ロミオ
 他人(ひと)の傷など 見て笑うなど
 傷の痛みを 知らない者の することだ

 (二階の窓辺に ジュリエット 登場)

 いや 待てよ! あの窓辺から 差し込む光 何だろう?
 向こうは東 そうとするなら ジュリエットは 太陽だ
 昇れ 輝く 太陽よ! 悪意ある月 消し去ってくれ!
 悲しみで 月は病み 蒼ざめている
 月に仕える あなたのほうが 月よりも 美しい
 月などに 仕えるな 月には悪意 あるからな
 巫女(みこ) の衣装は 病的な 緑色
 それを着て 似合うのは 道化 だけ
 そんな衣装は 脱ぎ捨てろ
 (ジュリエットが現れる)  ああ 僕の乙女で 僕の恋人
 ああ そのことを 知ってくれれば いいのだが…
 何か話すぞ いや 何も 話さない
 そんなことなど どうでもいいや
 彼女の目が 語ってる それに応える ことにする
 大胆過ぎる 語る相手は 僕なんかでは ないはずだ
 天空の 星の中でも 限りなく 美しい 二つの星が
 用事があって 席をはずして いる間
 彼女の目に 瞬くように 頼んだに 違いない
 彼女の瞳が 夜空にあって
 星が彼女の 顔にあったら どうなるのかな?
 太陽の 光を受けた ランプのように
   星たちは 彼女の頬の 眩(まぶ)しさで 恥じ入るだろう
 夜空に輝く 彼女の瞳 空中を 通り抜け
 とても明るく 光を放つ
 鳥たちは 夜は去ったと 歌い出す
 ほら あそこ 彼女はそっと 頬(ほお)杖(づえ)を ついている
 ああ あの手を包む 手袋になり   彼女の頬に 触れられたなら…
ジュリエット
 ああ 私! 
ロミオ
 話してる ああ 輝く天使 天(あま)翔(か)ける 翼を付けて
 頭上駆け抜け この夜に 栄光与え
 人々が 驚いた目で それを見上げて 後方へ 倒れ込む中
 天使は一人 ゆっくりと 流れる雲に
    乗り込んで 空中を 渡りゆく
ジュリエット
 ああ ロミオ ロミオ! どうしてあなた ロミオなの⁈
 お父さまとは 絶縁し あなたの名前 拒絶して
 それがだめなら 私のことを 愛すると 誓ってね
 そうなれば この私 キャピュレットの名 捨てましょう
ロミオ
 〈傍白〉 もっと聞こうか 話そうか どうしよう…
ジュリエット
 私の敵は あなたの名前
 モンタギューで なくっても あなたはあなた
 モンタギューって 何なのよ
 手でもない 足でもないし 腕でもないし 顔でもないわ
 人に属する 他(ほか)のどの 部分でもない
 ああ 何か 別の名前に してくれません?
 名前の中に 何があるのよ
 バラと呼ばれる 花などは
 他の名前で 呼ばれても 甘い香りは 同じもの
 ロミオだって ロミオなどと 呼ばれなくても
 彼自身 完璧さ 備わっている
 ロミオ あなたのもので ないその名前 捨て去って
 私を取って くれればいいの
ロミオ
 言葉通りに あなたのほうを 取りましょう
 僕のこと 「恋人」と 呼んでください
 洗礼受けた 新たな名前 今からは 僕はもう
    ロミオなんかじゃ ありません
ジュリエット
 誰なのよ? 夜の闇 そこに隠れて
 私の胸に ある秘密 打ち明けるのを 遮(さえぎ)るのは⁈
ロミオ
 名前によって 僕が誰だか
 どのように 言ったらいいか 分からない
 聖なる人よ 僕の名は 僕にとっては 忌(い)まわしい
   あなたにとって 敵だからです
 紙に書かれて いたならば そんなもの 破り捨てます
ジュリエット
 私の耳は あなたの言葉を まだ百語さえ 聞いてはいない
 でも その音で 分かります ロミオじゃないの?
    モンタギュー家の?
ロミオ
 二つとも 違います 麗しの 「聖者」の乙女
 あなたがそれを 嫌うなら
ジュリエット
 どうやって ここに来れたの? それに なぜなの⁈
 庭の壁 とても高いし 登るのは 困難よ
 それに もし うちの者 あなたをここで 見付けたら
 どうなることか 分からない
ロミオ
 壁なんか 愛の翼が あったなら 軽々と 飛び越えられる
 壁などで 愛を遮る ことなんか できません
 愛する心 あったなら どんなことでも やり遂げられる
 あなたの家の 者でさえ 僕を止めたり できません
ジュリエット
 見付けられたら 殺されるわよ
ロミオ
 ああ 20本の 剣よりも あなたの瞳が 危険です
 もっと優しい 眼差しを
 そうすれば 恐れる敵は いなくなります
ジュリエット
 絶対に あなたはここで 見付けられては だめなのよ
ロミオ
 見付けられたり しないよう 夜の闇に 身を包み
    姿隠して いるのです
 でも あなたの愛が もらえないなら
 今ここで 見付けられ 憎しみにより 死を迎えても
 意味もなく 生きているより はるかにましだ
ジュリエット
 この場所を 誰に教えて もらったの?
ロミオ
 最初に僕を 促したのは 恋の矢を持つ キューピッドです
 助言して くれたので 目を貸して やりました
 この僕は 船の舵取り ではないが
 最も遠い 海の水に 洗われた 広大な 海辺でも
 宝捜しの 冒険に 出かけただろう
ジュリエット
 私の顔に 夜の仮面が 付いているのを 知ってるわよね
 そうでないなら 恥ずかしい
 頬が真っ赤に 染まってるのを 見られてしまう
 だってあなたは 私が言った 心の嘆き 聞いたのでしょう
 女性としての たしなみを 大切に しているの
 お願いだから 私の言った こと みんな 忘れてね
 でも 体裁を 取り繕うの やめますわ!
 私のことを 愛してる? 「もちろん」と 仰るわよね
 その言葉 信じるわ
 でも 誓っても 嘘になるかも しれないし
 恋人の 誓約違反 ジョウブ が聞いても
 そんなこと よくあることで 笑うって 言われてる
 ねえ ロミオ 本当に 愛するのなら
 誠意を込めて 言ってよね
 簡単に 手に入る 女だと 思ったのなら
 この私 しかめっ面で ふくれっ面して「イヤだ」と言うわ
 そうしたら あなたはすぐに プロポーズする⁈
 そうでないなら 絶対にイヤ!
 ねえ 素敵なロミオ もう私 夢中なの
 だから あなたは 軽い女と 私のことを 思うでしょうね
 でも 信じてね 純情な 振りをする ズルい女性と
 全く違い 真心が あるのですから
 正直言って もう少し よそよそしく すべきだったわ
 でも 気がつく前に 私の秘めた 恋心
 聞かれたの だから許して
 この従順さ 薄っぺらい 愛などと 思わないでね
 夜の闇が 明るみに 出したのだから
ロミオ
 果物の木の 先端を 銀色に 染めている
 幸運の 月に懸け 誓います
ジュリエット
 ああ 月に懸けては 誓わないでね
 気まぐれな月 くるくる回り 月毎に 変化する
 あなたの愛が 月のように 変わったり しないようにね
ロミオ
 それなら何に 誓ったら いいのです?
ジュリエット
 誓ったり しなくていいの
 どうしても するのなら
    高潔な あなた自身に 誓ってほしい
 あなたは私の 崇高な 神様だから 私はあなたを 信じるわ
ロミオ
 僕の心に 大切な人!——
ジュリエット
 やっぱりだめよ 誓ってはだめ
 あなたに会えて 嬉しいけれど 今夜 婚約 してはだめ
 向こう見ずだし 無分別 唐突過ぎよ
 「光ったわ」って 言う前に 消えてしまう 稲妻みたい
 大好きだけど おやすみなさい
 愛の蕾(つぼみ)は 夏の熟した 息吹を受けて
 次の機会に 会えるとき きれいな花を 咲かせるわ
 おやすみなさい おやすみなさい
 私の胸の スイートな 安らぎが
    あなたの胸に 宿りますよう…
ロミオ
 この僕を 満たすことなく 去るのです?
ジュリエット
 どんな満足 求めているの?
ロミオ
 あなたの愛の 誓いの言葉 もらえれば…
ジュリエット
 その言葉 もうすでに 差し上げたわよ
 言い直すこと できれば言うわ
ロミオ
 取り消すのです? なんのために?
ジュリエット
 正直言うと もう一度 差し上げたいの
 取り消しじゃなく 今あるものを 上げるだけ
 この私 気前よさ 海ほども 広大で
    私の愛は 海ほども 深いもの
 あなたには 私の愛を 上げられるなら みんな上げるわ
 上げれば上げる ほどまた増えて 無限なのよね
 (乳母が奥で叫ぶ声)
 奥で叫ぶ声 しますから 愛するロミオ さようなら
    — 婆や 今 行きますよ!—
 ねえ ロミオ 信じても いいのよね
 少しだけ 待っていて すぐに戻って 来ますから (退場)
ロミオ
 ああ 幸せな 幸せな夜! 怖いほど
 夜だから 夢ということ あるからな
 現実と 思えないほど でき過ぎている

     (ジュリエット 登場)

ジュリエット
 ロミオ あと 一言だけよ 言わせてね
それで今日は お別れだから
 あなたの愛が 真(まこと)のもので
結婚を 考えて くださるのなら
 あなたへと 使いの者を 送りますから 伝言を お願いね
 どこで 何時に 式を挙げるか 知らせてね
 そうなれば 私の運命 あなたに捧げ
    どこにでも 付いて行きます
乳母
 (奥で) お嬢さま!
ジュリエット
 すぐに行くから!— でも 本心で 言ってないなら
    お願いだから—
乳母
 (奥で) お嬢さま!
ジュリエット
 今すぐ行くわ— プロポーズなど しないでね
 そうなれば 私ひとりで 悲しみに 耐えるから
 明日 必ず 使いの者を 送ります
ロミオ
 我が魂に 栄光が ありますように!
ジュリエット
 千回も おやすみなさい! (退場)
ロミオ
 あなたの光 無くなれば  千倍も 辛くなる
 愛する人に 会いに行くなら 下校する 生徒 のようで
 愛する人が 去るときは 登校してる 生徒のようだ

     (ジュリエット 登場)

ジュリエット
 シィー! ロミオ! 静かにね!
 ああ ハヤブサの雄 呼び戻す 鷹匠の声
 私にあれば いいのにね
 自由持たない 私の身 声は枯れ 大声で 話せない
 もし私 自由の身なら 木霊(こだま)が棲むと 言われてる
 洞窟を 打(ぶ)ち壊し 私のよりも 空気の声が 枯れるまで
 ロミオの名前 繰り返し 叫ばせる
ロミオ
 僕の名を 呼んでいるのは 僕の魂
 夜に木霊す 恋人の声 甘美なまでに シルバー模様
 愛の音 求める耳に ほんのりとした 音楽だ
ジュリエット
 ロミオ!
ロミオ
 ジュリエット!
ジュリエット
 明日の何時に 使いの者を 送りましょうか?
ロミオ
 9時はどう?
ジュリエット
 きっかりと その時間 間違いなくね
 その時刻 何十年も 先のよう
 どうしてあなた 呼び戻したのか 忘れちゃったわ
ロミオ
 あなたがそれを 思い出すまで
    じっとこの場で 待っている
ジュリエット
 それじゃ私は 思い出したり しないわよ
 ずっと一緒に いたいから
ロミオ
 忘れたままで いてくれたなら それでいい
 ずっとここに 立っているから
    ここ以外の 他(ほか)の家など 忘れよう
ジュリエット
 もうすぐ朝よ だからもう 行ってもいいわ
 でも 飼われてる 鳥のよう 遠くへは 行ってはだめよ
 手から離して ピョンピョンと 歩かせて あげるけど
 足枷(あしかせ)を 掛けられた 惨(みじ)めな囚人 さながらに
 シルクの糸で 引っぱられ 連れ戻されて しまうのよ
 あなたのことを 愛してるから 鳥の自由を 妬(ねた)むのよ
ロミオ
 できることなら この僕は あなたの鳥に なりたいものだ
ジュリエット
 私もあなた 私の鳥に したいもの
 でも 可愛がり過ぎ 殺してしまう かもしれないわ
 おやすみなさい おやすみなさい!
 お別れが こんなにも 甘く切ない ものだとは
 朝までずっと 「おやすみなさい」 そう言い続け
 この場所に 居られたら いいのにね おやすみなさい (退場)
ロミオ
 眠りの精が あなたの目に
 安らぎが あなたの胸に 訪れるよう 願ってる
 この僕が 眠りの精で 安らぎならば
    あなたに甘い 夢をあげよう
 今から僕は 神父のもとに 出かけます
 この僕の 幸運のこと お知らせし
    ご支援を お願いしよう (退場)

第3場
修道士ロレンスの小部屋

(バスケットを持ったロレンス 登場)

ロレンス
 灰色の 目をした朝が
 しかめっ面の 夜の闇へと 微笑みかけて
 明かりの兆(きざ)しで 東の雲を 格子じま 模様にしてる
 酔いどれが よろよろと 歩くかのよう
 まだらの闇は 日の神の 燃える車輪が
    走りゆく 光の道から 去ってゆく
 太陽が 強い光を 投げかけて 昼に活気を もたらせて
 夜露が乾く ときまでに
 毒草や 薬草を このバスケット 一杯に 摘み取ろう
 大地とは 自然の母で 更にまた 墓地であり
 埋める墓で 子宮でもある
 子宮から出た 様々な 子供達 大地から 生気吸い取り
 それぞれが 異なった 役目を持って 生きている
 ハーブや草木 石なども 特性を 備えてる
 無価値だと 思えるものも 役立つことが あるように
 価値あるものも 使い方 誤れば 害となる
 良いものも 時として 悪となり
    悪でさえ やり方次第で 善を為す
 か弱い花の 柔らかな皮 その中に 毒があり 薬ともなる
 匂いを嗅(か)げば 体中 活性化 させるもの
 口に入れれば 感覚が 失われ 心臓が 停止する
 このように 敵対してる 二つのものが
 一つの中に あるのだからな
 人間も ハーブと同じ 美徳もあれば 悪徳もある
 悪いほうが 力を得れば 癌に冒され 命を失くす

     (ロミオ 登場)

ロミオ
 おはようございます 神父さま
ロレンス
 神様の 祝福を!
 こんなに早く 起き出して
 心地良い 挨拶するの 誰なのだ?
 若者が こんなに早く 起き出すなどは
 心に悩み ある証拠だな
 心配事で 寝られないのは 老人に あることで
 悲しみあれば 眠りなど 訪れぬ
 苦しみのない 健康な 若者ならば 手足横たえ 寝たならば
 眠りがすぐに 訪れる
 こんなにも おまえが早く 起きたのは
 悩みがあるか そうでないなら 当ててやる
 おまえは昨夜 一睡も してないだろう
ロミオ
 寝ていないのは 確かです
 でも 眠りより 心地良い 安らぎを 得たのです
ロレンス
 神よ! この罪を 赦し給え
 ロザラインと 一緒に夜を 過ごしたのか⁈
ロミオ
 ロザラインと? 神父さま 違います
 その名前 だけでなく
    その名によって 嘆いたことも 忘れたのです
ロレンス
 それは良かった それなら おまえ どこにいたのだ⁈
ロミオ
 お尋ねに なる前に 話そうと 思ってました
 実は この僕 敵の宴(うたげ)に 出たところ
 突然に ある者に 傷付けられて
   その者も 私によって 傷付けられて
 双方の 傷を癒(いや)すの 神父さまの ご助力と
 聖なる治療が 必要なので 来たのです
 神父さま 僕は敵など 憎んでは おりません
 どうかよく お考え くださって
僕への取り成し お願いします
 敵のためにも なるのですから
ロレンス
 率直に 言いなさい 言いたいことを 簡潔に
 謎めいた 懺悔(ざんげ)には 謎めいた 赦ししか 与えられない
ロミオ
 では 率直に 申します
 心から 愛する人は キャピュレット家の 美しい 娘です
 僕の心が 彼女のもので あるように
 彼女の心 僕のものです
 お互いが 結び合い 欠けているのは
 神父さま お与えになる 聖なる儀式 それだけです
 いつ どこで どのようにして 会ったのか
 プロポーズ したのかや 愛の誓いを 交わしたかなど
 歩きつつ お話しします
 でも どうか お願いします
    今日 僕達を 結婚させて 頂けません?
ロレンス
 何だって⁉ 何という 心変わりの 早いこと!
 あんなにも 激しく愛した ロザライン 捨て去って⁉
 若者の 愛なんて 心の中で しっかりと 生まれたりせず
 目で生まれると 言わざるを得ん あきれ果てたな
ロザライン 慕う心で 蒼ざめた おまえの頬を
 どれだけ多く 涙濡らして いたことか
 塩辛い水 愛の味付け するために 無駄に流して
 もう愛は 味ないと 言うのかい⁈
 太陽は おまえが吐いた 溜め息を
 まだ空からは 追い払っては いないのだ
 おまえが出した うめき声
 年老いた この耳に まだ木霊して いるからな
 見るがいい! おまえの頬に 流した涙の 数ほど多く
 その痕跡が 残ってる
 おまえの心 おまえのもので
 おまえの嘆き おまえのもので あったなら
 心と嘆き そのすべて ロザラインにと 属するものだ
 それ自体 変化したなら この格言を 唱えるがいい
 「男心に 秋 風吹けば 女心に 雪が降る」
ロミオ
 ロザラインを 愛することで
 神父さまは 僕をよく 叱られたでは ありませんか
ロレンス
 「溺愛するな」 そう言った
   「愛するな」とは 言ってない
 しっかりと 教えを聞けよ
ロミオ
 僕の愛 葬るように 仰った
ロレンス
 墓ではないぞ 一人を埋めて 別人を 掘り起こせなど
 言った覚えは ないからな
ロミオ
 お願いだから そうガミガミと 言わないで くださいよ
 今愛してる 女性など 好意に好意
 愛には愛を 返してくれる ロザラインは そうでなかった
ロレンス
 ああ ロザライン 知っていた
 おまえが語る 愛の言葉は 丸暗記 しただけで
 字さえ読めない 者が「読む」のと 同じこと
 だが 付いて来なさい 浮薄なロミオ
 わしには一つ 考えがある さあ 行こう
 この結婚が 上手く行くなら
    両家の諍(いさか)い 終わらせる 筋道を 作ること
    できるかも しれぬから
ロミオ
 さあ 急ぎましょう 時間の無駄は できません
ロレンス
 賢明に 慎重に!
 走るのが 速過ぎたなら 躓(つまず)いて 転(ころ)ぶから (二人 退場)

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