PSYCHO-PASS PROVIDENCEの感想

はじめに


【注意】
以下の文章には『劇場版PSYCHO-PASS PROVIDENCE』のネタバレが含まれます。それでも良い方のみ先に進んでください。
そうでない方はブラウザバックをお願い致します。











テーマ 真実とAI

今回のこの映画の主軸に置かれている内容は「完全無欠なAIが存在すれば、法律は不要なのか?」という点であった。
常森朱は知っている。シビュラシステムとは免罪体質と言われる犯罪係数の測定が不可能な対象の脳を集め、なるべく主観を排斥した視点で物事を考えるようにした装置であり、完全な第三者ではないのだと理解しているの。
一方、AIは完全であると信じているシビュラの信奉者たちにとってはシビュラシステムの決定こそが正しいものであり、人間が作った不完全な法律はシビュラの判断に取って代わられるべきであると考えている。
実際のところ、PSYCHO-PASS世界における日本はシビュラシステムの犯罪係数測定システムによって未然に犯罪が防がれており(2期の集合的サイコパスを問いかける展開であればともかく3期のそのすり抜け方はありなの?とはなったが)基本的に犯罪が起きる要素はない。
槙島聖護も鹿矛囲も現れ、消えていった世界で、そしてその2つの存在を知っている常守と知らない他者との間でシビュラへの信用度は大きく違う。

しかし、シビュラシステムは自己の不完全性を認めながらも自己の不完全性を市民には開示しない。常守朱の選択は受け入れられない。

雑賀譲二の死

ぶっちゃけめっちゃ驚いた。確かに第三期アニメ及びファーストインスペクターにおいて雑賀先生の話が全く語られないな、とは思っていた。
無論作中において常守朱は潜在犯として捕らえられていたし、先生の生徒である花城フレデリカ、狡噛慎也はどちらも外務省行動科として動いている為主人公組である慎導灼と炯・ミハイル・イグナトフの二人及び執行官諸君には全く関係のない人物でしかなく、故に登場しないものだとばかり思っていたがここで辻褄が合わさってくるとは。
「君にしか見えない真実があるはずだ」と言葉を残し死んでいく雑賀先生、手を伸ばしても掴みきれなかった常守と襲われた先生を守りきれなかった花城・狡噛はどれほど悔しかっただろうと想像すら叶わない。
ストロンスカヤ文書が別の場所に隠されている、と明らかにした雑賀先生の後を継ぎ、刑事課一係は襲ってきた集団である「ピースブレイカー」の後を追う。

……ん?

ストロンスカヤ

どこかで聞いた覚えがある、と思っていたらすぐにわかった。
第三期主人公の一人である炯・ミハイル・イグナトフの妻の姓がストロンスカヤなのである。
ここで三期において明らかにされていなかった彼女の母親についての情報が明らかになった。
舞子・マイヤ・ストロンスカヤの母であるストロンスカヤ博士は統計学の権威であり、彼女の作ったシミュレーター、通称「ストロンスカヤ文書」を利用すれば、その地域の紛争係数を調べ、紛争が起こらないようにも、激化させることも可能なのだという。そうしたシミュレーターを作ってしまった結果、命を狙われることとなってしまったのだ。

慎導篤史

そしてここで浮かび上がってくる存在こそ、厚生省本部長であった慎導篤史の存在である。
外務省と結託してストロンスカヤ博士を呼んだのも、外務省行動科に護衛をさせたのも、そしてピースブレイカーを呼んでストロンスカヤ博士を殺させたのも慎導灼の父である慎導篤史の策略であった。
ちなみに中盤で明らかになるし、3期の映画であるFirst Inspectorでもふんわり触れられるが慎導篤史はビフロストとの関わりがあった。
「コングレスマンであるあなたにしか頼めない」などと言っていたことからほぼ確実に関係者であることは確定していたが、結果として彼は「INSPECTOR」であった。後にストロンスカヤ文書を自身のコングレスマンに渡さなかったことによってインスペクター権限を停止させられていたため、彼としても自身の最後の仕事としてストロンスカヤ文書の運搬を行っていたようである。
ちなみに須郷執行官の為の戦闘機の用意もしていた辺り、篤史さんがやろうとしていることは恐らく常守朱が今回行った、「ジェネラルに対してストロンスカヤ文書を注入することによって、本来の医療用AIとしての性質を取り戻した上でシビュラシステムへ取り込ませる」という行為を目的としていたっぽい。

虚淵脚本め……

雑賀先生は死に、炯の兄も死に、そして慎導篤史も死ぬ。こうした流れはすべて慎導篤史によって形成されたピースブレイカーを追い込むための作戦の流れであった。

……そして残された慎導灼、炯・ミハイル・イグナトフは公安局刑事課の監視官となり、自身達に残された謎である慎導篤史、そして炯の兄の死の真相を追う……という風に繋がっていくわけだ。

常守朱の覚悟

事件の終了後、常守朱は慎導篤史の代わりとして同様に事件に取り組んでいく必要が生まれてきた。そしてシビュラシステムもそれを望んだ。それは彼らシステムが世界にとっての秩序となり、すべてを導いていくという流れであった。

法律は不必要となり、全てはシビュラの選択のままに裁かれていく。
慎導篤史は移民を受け入れるにあたって、紛争経験者の彼らを受け入れるためには犯罪係数ではなく国際法による受け入れが必要であると考えていた。
そして常守朱はそれを知り、そしてシビュラの不完全性を知っていた。

常守朱が取った行動は、壬生局長を大衆の面前で射殺することであった
それは一般市民にとっては明らかな犯罪行為であり、公安局のドミネーターが彼女を執行するであろうことは想像に容易かった。

しかし

常守朱にとって、壬生局長はシビュラの持つ一端末に過ぎない。
ただ機械を銃で射撃したという彼女の自意識は、犯罪係数を上昇させなかった。
結果、そこに生まれたのは「人を射殺したにも関わらずシビュラシステムでは裁くことの出来ない人間」であった。
PSYCHO-PASS2期をご覧になった皆様ならご存知であろうが、時系列的に霜月監視官はシビュラシステムの正体について知っている。
彼女の「こんなの納得できません!!」という悲痛な叫び、そして狡噛の言葉通り、すべてを終えた後に雑賀の使っていた収容室で一人泣き崩れる常守の姿。
果たして今回の事件が一体何を救ったのだろうか。
入国者、人々、そしてシビュラ無き世界を支える法律を失わせないために支払った代償は甚大であった。

まとめ

今回PSYCHO-PASSを見た勢いで感想をまとめているため非常に読みづらい文章になっているだろうな、とは思う。
ただそれでも、この作品の面白さや疑問点、衝撃などを形にして残しておきたいと考えた。
シビュラシステムがあれば間違いなく我々の生活は豊かになるだろう。しかし、すべてを彼らシステムに委任して良いのか。委任するべきなのか。
人の存在を超えた人工存在という概念は我々の直ぐ側にあるのかもしれない。そう思わせてくれる作品だった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?