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【配信公演観劇しました!】劇団山の手事情社 池上show劇場【DELUXE】Aプログラム

こんにちは、おちらしさんスタッフです。

劇団山の手事情社 池上show劇場【DELUXE】。
3作が一挙に配信されている今回の配信公演、今回はAプログラムを鑑賞しました。

池上show劇場【DELUXE】
Aプログラム
『山の手めそっど寄席』

 
 山の手事情社・谷洋介の企画による「山の手めそっど寄席」は、漫才、ものまね、寸劇などの短い演目を組み合わせた、タイトル通りに寄席の形式で行われる公演。一昨年の2019年に第一弾が上演され、今回は池上show劇場【DELUXE】の演目として5回目の開催。筆者は今回の配信公演が山の手事情社の初観劇だったので、こちらの「山の手めそっど寄席」も初めての体験となりました。

 タイトルにも冠された、山の手事情社の俳優育成法である「山の手メソッド」については、公式サイトにも丁寧な解説が掲載されています。寄席のプログラムになっている《ものまね》や《ショート・ストーリーズ》は、いずれも山の手メソッドの代表的なメニューとして取り入れられています。
 https://www.yamanote-j.org/method/

 今回は《漫才》4本、《ショート・ストーリーズ》7本、《ものまね》4本の計15本で構成。これら全てがキャスト4名のみで入れ替わり立ち替わり、息もつかせぬテンポで繰り広げられていきます。
 舞台装置は小さな箱がいくつか、着替えもなし、メイキャップもなし、俳優全員の技とコンビネーションでシチュエーションをいかに観客に信じさせられるかにかかっている劇空間。それは、自己とは異なる「他者」の観察と再構成を行い、ひとりひとりの背負った日常を抽出し、細部まで彫り込まれたドラマとして成立させる、山の手メソッドの基本事項の集合体であり果実ではと思えます。短い演目のひとつひとつが上滑りせず、観た側がそれぞれ後から振り返れる存在感を持っている根底にも、これらのメソッドの揺るぎなさがあるように感じられました。

 寄席と銘打つだけあり、演目全体に客席も巻き込んだリラックスした空気が流れ、フフッと笑いを誘うポイントが盛りだくさん。
 予想と実際の不一致=「ズレ」が笑いを産むというのは、笑いの理論の中でもベーシックなものではないでしょうか。「山の手めそっど寄席」においても、ほとんど全ての演目に共通するのはこの「ズレ」の笑いです。平穏だったはずの日常がとんでもない方向へ転がっていってしまうハプニング。あるいは、信じていたはずの常識が不意に成り立たなくなる瞬間。
 その上で本作では、こうした笑いと背中合わせの関係にある、もう一つの感情もぐいぐいと刺激してきます。「あたりまえ」を信じて生きる人にとって、それが壊れるさまは笑えるけれど怖いもの。なんともいえない居心地の悪さ、リアルだと信じた物事が揺るがせにされる不安が、腹筋をくすぐるおかしみと一緒に前触れなしにやってくる状況の数々は、一見するとありえないようでいつつ、観客ひとりひとりの日常での経験にもちょっとした拍子につながってしまうような。
 ここでは全15本のうち、特にインパクトのあった演目をいくつかピックアップします。

《ショート・ストーリーズ》「お風呂」

 友人同士の女性ふたりが、片方の実家のお風呂でくつろいでいる。そこへごく自然に入ってくる、同じ実家のお兄さん。すわ犯罪行為かハラスメントかと体をこわばらせるのはしかし、招かれた友人である女性ひとりと観客だけ。
 互いに壁を作らずありのままで交流する、の意で「裸のつきあい」という言葉がありますが、これがもし文字通りであったならこういう風にもなるのでしょうか。これは単に常識・文化の違いか、それとも何かが"間違って"いるのか。客席も画面のこちら側も笑いに包まれるけれど、はて私たちはいったい何を笑っているのか。こうした題材で真っ先に言及されそうなセクシャルな方向に行きそうでいて絶妙に行かない話運びが、不思議とさっぱりした感覚を残します。

《ものまね》「靴下」

 靴下。当日パンフレットの用語解説には、《ものまね》の項目に「身近な人のものまね」とあります。しかし、靴下。幻想的な明かりの中、どこか神秘の存在のように自らの役割と意義を語りかけてくる靴下。これは果たしてものまねなのか? 動揺しつつ、終わってみればたしかに、私たちのよく知る靴下のものまねだったような気もしてくるのです。これで我々は皆、靴下に敬意を表するようになるでしょう。おそらく。

《ショート・ストーリーズ》「ラーメン屋」

 一般家庭のような雰囲気の、テレビの前の夫婦ふたり。そこへやってきた青年が、ここラーメン屋ですよね、と気弱げに確認する。夫婦はイエスともノーとも答えないまま、ラーメンが出てくる気配もなく…。
 本来は観客の想像力で誰にでも何にでも姿を変えられるはずの、シンプルな衣装とセットを逆手にとったような構造の一本です。ここは一体どこなのか、なにかがおかしいとすれば夫婦と青年のどちらなのか、答えが出ない宙ぶらりんのまま掴みどころのないやりとりに耳を傾け、気がつけばある「流れ」にとんでもない勢いで飲み込まれている怒涛の時間。客席から断続的にふふふっと声の聞こえる奇妙な笑いどころに満ちつつ、強い緊張感がそのまま謎の開放感に変わってしまう展開は、せりふ同士の間が多いにも関わらず独特の濃度を保っています。ラストではかなりのボリュームの声で笑ってしまいました。

 演劇というジャンル区分ではまだ珍しい、ごく短い作品の詰め合わせが好きな方にはもちろん、ちょっと奇妙でビターな後味の、足元のぐらつく笑いを求める方にもおそらくおすすめの本演目。秋から冬にかけての長い夜に体をリラックスさせつつの、一風変わった「寄席」経験にはぴったりかもしれません。

池上show劇場【DELUXE】配信チケット

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