見出し画像

【翻訳記事】サプライズヒットを飛ばした『Hi-Fi RUSH』のメイキング

『Hi-Fi RUSH』は滑らかでスタイリッシュなアクションゲームだ──同時に、ライブで音楽を演奏しているような気分になるゲームでもある。Tango Gameworksが作ったこのリズムアクションゲームは、ディレクターのジョン・ジョハナス自身の音楽的な背景に由来している。このゲームディレクターは、高校時代に友人とバンドを組んでギタリストを務め、独学でRadioheadのカバーを演奏していたのだ。校内バンド対決でステージに立った経験は、後に数回行ったミニライブと同じく、彼にとって愛情のこもった思い出である。

「このゲームの大部分は、バンドを組んで他の人と演奏をバッチリ合わせたときの感覚に由来しているんです」と、ジョハナスは語る。「ご存じのとおり、このゲームは一人用です。けれど、とても表現できない、あの生々しい感覚がありますよね。何人かでリズムに乗って一緒に演奏して、それが完璧に一致しているときのようなリアクションが。こうした感覚そのものが、このゲームでやってみたいことの最初のインスピレーションになったんです」

高校卒業と同時に、バンドも短期間で解散してしまった。しかし、ジョハナスはそれからも別の方法でこの感覚を追いかけ続けていた。Zoomで話している最中、私はジョハナスのリビングの壁にギターが掛けられていることについて指摘してみた。彼が言うには、最近は演奏したくても思うように時間が取れないとのことだった。けれど、ゲームのリリースまでの忙しい数か月が過ぎ去った最近になって、彼は再びギターを手に取っている。「学んだことを丸ごと忘れてしまったかと思いましたよ」そう言って彼は笑った。「あんなに練習したのに何もかも忘れるなんて恥ずかしいですよね。でも、好きな曲を練習して、自分で演奏できるようになるのが楽しいんです。なにより大事な趣味ですね」

リズムゲームもまた、年月をかけてこのギャップを埋めてきた。ジョハナスと高校の友達はゲームの『Rock Band』が好きだった──現実で演奏しているのとは別の楽器を選んでいた──が、彼のお気に入りはつねに『Guitar Hero Live』だった。シリーズの中でも、とりわけこのタイトルは楽器を本当に演奏しているような気にさせてくれたし、Activisonが2018年に本作のサービス終了を発表したときはひどく混乱した。それと同時に、このことが『Hi-Fi RUSH』を作る鍵にもなったのだ。

「実は、私のデスク下にはまだ『Guitar Hero』のコントローラーがあるんですよ」彼はそう言った。「みんなに見せるために職場に持っていったんです。それを見て、リズムゲーム全体の動きであるとか、プレイヤーがノーツに合わせられているかの計算とか、そういったものを理解していたんです」

『Hi-Fi RUSH』は、『Metal: Hellsinger』や『No Straight Roads』といったゲームの精神を継ぐものだ。どのゲームも、人気のジャンルを取り上げ、それにリズムを結びつけている。本作の場合は、主人公のチャイがサイボーグ化手術の事故で心臓にiPodを埋め込まれてしまい、世界がビートと繋がるというものだ。音楽に合わせてアクションしつつ、プレイヤーはロボットを倒して全12ステージを進んでいく。悪の大企業におけるQAや財務といった各部門の代表が戦うべきボスであり、道中ではプラットフォーマーゲームの要素も多い。

本作のリリースは文字通りのサプライズだった。Tango Gameworksがこのプロジェクトを発表したのは1月25日のXbox Developer Directでのことであり、その数時間後に発売されたのだ。制作チームの当初の計画はそれとは違っていたが、2020年にパンデミックが起きたことで彼らはしかるべきタイミングを待つことになった。E3が3年連続で開催中止になったことや、Tangoの親会社でありパブリッシャーのBethesdaがマイクロソフトに買収されたことにより、本作のお披露目のタイミングはどんどん分からなくなっていったとジョハナスは語った。

そしてついに、Xbox Developer Directが発表の場としてピッタリではないかと目星が付けられた。というのも、制作チームはいずれにせよこのあたりの時期に『Hi-Fi RUSH』をリリースしようと計画していたからだ。「ここで発表するのはどうよ?って考えでした。クリエイターとしては、人々が自分のプロジェクトをどのように受け取るのか心配になるものです。私たちもリスクのことを考えるとナーバスになってしまいます。けれど、想像以上にうまくいったと言わざるを得ません」

しかしながら、カンファレンスの前日にゲームの名前とロゴがリークされたときはちょっと恐怖を感じたという。「このゲームがリークされないように祈ってます。本作が楽しいサプライズになることを願っているので」Xboxカンファレンスのプレゼン中に、ジョハナスはそう述べていた。「これを撮ったのはだいぶ前のことだったんです。だから、ゲームがリークされたせいで動画に映る自分がバカに見えませんようにって感じでした」彼は笑って言う。「ラッキーだったのは、ゲームの見た目や内容はリークされなかったことです。おかげで、初めてアナウンスを聞いた人たちに心から驚いてもらうことができました」

『Hi-Fi RUSH』を作るうえでの当初からの目的は、リズムゲームの初心者にもできるだけとっつきやすくすることだった。開発の最中、リズムゲーム体験をどれだけ盛り込むかについて社内で激しい議論があったという。サウンド担当チームのように経験豊富なプレイヤーからすると、ビートにあわせてボタンを押すのは習慣的にできるものだった。しかし他の人にとってはそうはいかない。チームは物事をシンプルにしなければならないことを悟った。

「私たちのチームメンバーの多くは、作中にもっと多くのリズムゲーム的な側面を求めていました。最初は、私自身もそれを推そうとしていましたね」とジョハナスは言った。「でも、リズム感に問題があるかもしれない人を疎外したくはなかったんです。理屈の上では、プレイヤーを徐々に慣らしていけるなら、この考えは可能じゃないかって思ったんです」

プレイヤーは戦闘中いつでもパリィできる一方で、チャイに向かって敵が仕掛けてくる連続攻撃のパターンをプレイヤーが繰り返す場面もある。チームは、"Simon Says"のようなコールアンドレスポンス形式のアイデアを取り入れた。そうすれば、ほとんどの人がリズムに着いてこられるからだ。

リズムの要素のほか、昔懐かしいタイプのゲームを作ることがもう一つの目的だった。最新技術を追い求め、可能な限り現実世界に似せた見た目にすることが目的であるかのようなゲーム業界のトレンドをジョハナスは見てきた。『Hi-FI RUSH』は、しかし、まるでドリームキャストのタイトルのようにすら感じられる──Tango Gameworks自身がこれまで手掛けてきた『サイコブレイク』や『Ghostwire: Tokyo』といったタイトルのような暗いトーンから離れていることからも分かるように、それは意図的なものだ。

「私自身への教訓として、また、人々が本能的に求めていると私が感じていたものとして、ただ遊んでいて楽しく、ストーリー第一とかそういうのではないゲームの基本に立ち返りたいと思ったんです。ときには、純粋に楽しくて気取らないものが欲しくなるものですよね。私たちは、気持ちいい体験以外になにも作ろうとは思わなかったんです」

『Hi-Fi RUSH』の多くは懐古的だ。このゲームはポップカルチャーから取り入れたネタに満ちている。たとえば、『スコット・ピルグリム』や『ジョジョの奇妙な冒険』、『ツインピークス』など。サウンドトラックも──オリジナル曲、リミックス、提供曲が入り混じっている──そのいい例だ。ナイン・インチ・ネイルズやZwan、ブラック・キーズといったアーティストが名を連ねている。

ジョハナスは長い時間をかけて、このセットリストがトーンと技術の両面でゲームにフィットするか試行錯誤した。作中のいくつかの曲は、彼にとっては今も新曲のように感じられるという。たとえば、プロディジーの"Invaders Must Die"。過去数年にわたって、ジョハナスはこの曲をセットリストにいれるべきだという要望があると思っていた。けれど、いつも思い浮かぶのは、本作は提供曲だけで出来たゲームではないということだ。作中で使われる曲は、新しいオーディエンスに聴かせることでゲームのバイブスと往年のアーティストに敬意を表するためにある──これは、『Guitar Hero Live』でジョイ・フォーミダブルの"Whirring"をプレイしているときにジョハナスが発見したことだった。

「私のオールタイムベストソングを選んでいるんです」と彼は言った。「問題は、ゲームを作るにあたって好きな曲を入れたいからといって、ゲームと合わせるために曲そのものを犠牲にしたくはなかったことです」このゲームは基本的に130bpmから160bpmで動くということを制作陣は分かっていた。なので、ジョハナスはどの曲が本当に当てはまるのかを確かめるために候補リストを試さなくてはならなかった。当てはまらなかった曲もオリジナル曲を作るうえでの参考となったため、このキュレーションは実りあるものだった。

この徹底した試行錯誤のプロセスは、このゲームの見た目にも及んだ。『スパイダーバース』が特に強いインスピレーションとなり、アートチームがテクニックとビジュアルスタイルを学ぶのを後押しした。チームの誰一人として、セルシェーディングや引き延ばし要素のあるアニメーションの経験はなかったという。

本作はまた、ゲーム内のカットシーンと2Dアニメシーンが頻繁に切り替わる。ジョハナスの説明によると、2Dアニメを採用したのはコストと規模感の両方によるものだ。ゲームの序盤で、プレイヤーは自分が遊ぶステージとNPCキャラクターの両方が含まれるキャンパスを丸ごと見ることになる。しかし、制作陣にはこれらを一から作る余裕はなかった。そういうわけで、彼らはTitmouseというアニメ会社にコンタクトし、そうしたシーンを作る手助けをしてもらうようになった──もちろん、そのすべてをリズムに結びつけて──3DCGと2Dアニメのスタイルがより自然に切り替わるために、チームはステージやカットシーンには必ずパンチやヒットで衝撃が起こるよう手直しした。

ステージについて述べると、制作チームはチャイが人事部に行く場面を欲しがっていた。しかし、既にキャラの数が多すぎるということでこの部分はカットされることになった。だが、CGモデラーが『サイコブレイク』に搭乗するセバスチャン・カステヤノスに似たロボットを作ったことで、このアイデアは別の形で生かされることになった。ジョハナスはこのロボットを人事部のポジションに置くことを決めた。会社が素晴らしいことをしているように見せかけるために、セバスチャン似のロボットが実際の問題を隠蔽しようとしているというパロディにしたのだ。

「脚本を書くのは本当に楽しかったですよ。私は意識の流れるままに書いているだけで、半分はナンセンスです。けれど、ノワールっぽかった。ボイスを録音しているとき、みんなは『これってナンセンスじゃない?』って感じですけど、私はこう言ってました。『まあそうだけど、それでやってみようよ』って」

もっとも大きく変更を施したのは、財務部のボスのロックフォールかもしれない。チャイと対峙するとき、小男のロックフォールは狼男型のメカを装着することでみるみるうちにゲーム内で最大級の敵となる。ジョハナスが語ったオリジナルのアイデアでは、自分の気に入ったコーヒーが飲めないとき、ロックフォールは狼男に変身するというものだった。そして、チャイがうっかり彼のコーヒーマシンを壊してしまう……というわけだ。だが、この設定は複雑すぎた。

完成版では、戦闘は大きな部屋で始まる。それから会社の金庫に舞台を移し、戦闘は終了する。この守銭奴のアイデアは『ダックテイルズ』のスクルージ・マクダックから取り入れたのだとジョハナスは打ち明けた。一方で、金が移動する土管が『デューン』のサンドワームのようになるといったアイデアが開発段階では存在していた。「ボスの中で最も小さいキャラが実は一番大きくて、ほとんどシンフォニックなくらい大げさな戦いをする。最終的に、プレイヤーが彼に手を下すのではなく、自らのもとに転がり込む金によって倒される。これが、私たちが気に入ったアイデアでした」

『Hi-Fi RUSH』の核にあるのは、ストーリーと、チャイを取り巻くキャラクターたちだ。音楽というアイデアに立ち返ってジョハナスが語るのは、何年もかけて音楽業界で"成功"しようとする人々についてだった。中には現実を突きつけられる人がいる一方で、叶うまで成功を追い続ける人もいる。チャイはそういった現実を知らず、これからそれに直面するタイプだ。彼が意地悪でなにかをすることはない。彼はただ自信過剰なだけ──「ロックスターになりたいなら自分の力を証明してみせろ」と周りの人がチャイに言うシーンにチームが重点を置いたのは、そのためだ。こうした精神は、他の場面にも表れている。

「たとえば、もし私がゲーム開発者を雇うとしましょう。開発者なら誰でもいいアイデアを持っているはずですし、自分にはゲームを作るための最高のアイデアがあるとも思っているものです。けれど、そのアイデアを現実のものにしなくてはなりませんし、それにはたくさんの苦労があります。チャイはというと、そういう苦労をしたがらないタイプですね。楽な道を探そうとするんです。ゲーム中の多くのシチュエーションで彼はツイてますが、その過程で彼は気付きます。クールに見せることではなく、自分に必要な資質は一体なにかについて」ジョハナスはそう語った。

スタジオの外から見ると、『Hi-Fi RUSH』は大きな変化球のように見えるかもしれない。だがジョハナスにとっては、ロックスターになるという夢にすべて結びついている。

「私にとってのオールタイムベストなバンドは、たぶんRadioheadです」ジョハナスはそう言った。「音楽でなにができるか、自分のイメージを時間と共にどう変化させていくか。そういうことに関する私の目線を変えてくれたのがレディオヘッドでした。我々のゲーム作りに、奇妙なほどに影響を与えているんですよね。仕事に出かけるとき、私はRadioheadの『Kid A』をよく聞いていました。すさまじい自信と誇りさえあれば、アートを中心に据えて自分が良いと思えるものを作ることができる、そこにオーディエンスもついてくるだろうということを思い出させてくれるアルバムだったからです」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?