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紀伊勝浦④

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今日は1日休みだ。帰るのは明日なので、今日は1日車を借りて勝浦を観光する。この日は観光に忙しくて夜も疲れてしまって、旅日記がかなり断片的になってしまった。そのときには仕方ないかと思っていたが、あとになってなぜ無理してでも書かなかったのかと後悔することになる(今)。

思い出しながら加筆しても良いが、臨場感が薄まってしまいそうなのと、単純に書くのが大変なので、最低限加筆しつつ、メモをつなぎ合わせたものを残しておこうと思う。途中話が飛んだり脈絡がなかったりしても、許してほしい。

クジラ館

クジラ博物館の説明を見ていて思うのは、クジラにまつわる世界の趨勢のようなものには興味があるが、もう少し個人にフォーカスしたような話にはあまり興味がない

遠くから聞くとザーーという音だが、近寄るとバリバリと絶えず稲妻が鳴るような音が響き渡る。樹々の合間から垂直に落ちる水とうっすら飛沫が垣間見える。

大きい滝は見ていて飽きない。滝壺に落ちる飛沫をながめてみたり、滝の一番上から水が岩場に落ちて弾けるまで目で追ったり。
ぼーっと眺めていると、滝の奥の岩壁がゆっくりゆっくりエレベーターのように上に上がっているような錯覚を覚えたりもする。

滝に向けて賽銭を投げ、お参りをすることで、ただの現象だった滝が人格を持ち始める。世界が、少し変わって見える

お金がなくて何かをあきらめる時に、ニヒリズムに陥る。高い方と安い方どちらを選んでも変わらない、食べても食べなくても変わらない、行っても行かなくても変わらない。貧乏人のニヒリズム、資本主義が生む不健全なニヒリズムだ。

やっていること自体が何もかも無駄に感じることがある。今を心地よく生きることに満足できず自己嫌悪に陥ることで、今を心地よく生きることすらできない。

帰路

ちょうどいいカフェを探したいが、なかなか見つからない。16時〜18時あたりは利用したい人も多いはずだが、この辺りのカフェはどうして皆16時17時で閉めてしまうのか。諦めずに探していたが、熊野大社の参道を歩き回ったことの疲労を抱えながら運転することに限界を感じる。自分で運転しているのに車酔いのような症状を感じだのでギブアップして、ローソンに寄った。水、カフェラテ、それからエクレアを買った。ローソンの駐車場で休憩してもいいのだが、それではつまらない。残りわずかの体力を振り絞り海へ向かう。ちょうどいい海岸を探すのに苦労したが、海沿いの行き止まりの道があり、同じく休憩しているであろう車が間をあけて2台ほど止まっていたので、そこで休憩することに決めた。車を止めると、エクレアとカフェラテを持って外に出る。波打つ海を眺めながらエクレアを食べた。食べ終わると車に戻り、窓を全部開け放ち1Q84の続きを読みはじめた。作中作として、猫の町を舞台にした話が出てくる。ひとり猫の町に取り残される主人公の青年の姿が、ひとり人気のない海沿いの路上で本を読み耽る自分と重なる。

レンタカー返却から逆算してなにをするか考えていると、この旅も終わりに差し掛かっていることを感じる。明日の朝早く、この街を出る。そう考えながら道の駅でお土産を買い、スーパーで明日の朝ごはんを買っていると寂しさがこみあげる。

銭湯

おでん屋のお姉さんが教えてくれた銭湯に行く。昭和感ただようザ・銭湯な感じは予想していたが、シャンプーも石鹸もドライヤーもないことは予想していなかった。湯船はひとつしかなく、めちゃくちゃ熱い。これもまた一興。汗だくで髪も乾かせず、銭湯を出た。

夜ごはんはラーメンにした。璃王という店で、牛モツの入ったラーメンを食べた。たくさんの種類のラーメンやチャーハンがあり、どれも捨てがたかった、旅の終わりに通いたくなってしまう店が見つかる。無論、味はとても良かったが、17時くらいにエクレアを食べたからかお腹がいっぱいだ。最後の方はただ一生懸命食べる。

さて、旅の締めだ。お礼も兼ねておでん屋さんに行かなければならない。もう何回も歩いた、紀伊勝浦のシャッター街も見慣れたものだ。それぞれの店の位置関係もなんとなく覚えており、最短経路ではまだ行けないが、地図を見なくてもある程度目的地にたどりつける。

おでん屋さんに入ると、店主はまた来てくれたと喜び、1杯サービスしてくれた。少し怪しいが、どこまでも温かい。カウンターには常連らしきヨボヨボのおじさんと、観光に来たフランス人女性がいた。where are you from?たどたどしい英語で会話をする。英会話やっておけばよかったなぁ。仕事の時とは比べ物にならないほど後悔した。

フランスから来てなぜ勝浦に来たのか、とても気になった。再び話しかける隙をうかがうがカウンター席は少し遠く、勇気が必要だ。何回目かの勇気で、やっと閾値を超えたようだ。why did you choose katsuura? to trip?
聞きたいことが伝わるようwhyの部分を強調してたずねる。すると彼女は少し考えてから、聞き取りやすいゆっくりとした英語で話してくれた。

太地に興味があってきた、the coveという映画をきっかけに、日本の捕鯨に着目したという。クジラは年々数が減っており、絶滅の危機にさらされている(endangered)。海外、特にヨーロッパでは、捕鯨反対の意見が多数派で、クジラを捕獲するなんてもってのほかだという。クジラがendangeredにもかかわらずそんなことをしている国は日本だけなので、なぜやめないのか知りたく見にきたという。だが彼女は、太地を観光する中で、捕鯨が日本の文化であり誇りなのだと知ったという。適当な英語が思いつかず、うんうんと頷いたりI seeと相槌を打つことしかできなかったが、彼女は熱を持って、時折目を潤ませながら、捕鯨反対の潮流について、日本がいかに外れているか、語ってくれた。(太地をみたことで彼女の考えがどれほど変わったのかは、定かではない)

日本の人はどう考えているのかと聞かれたので、文章にならない英語であまり興味を示していないと答えた。クジラを食べることもあまりメジャーではないし、そもそもクジラを食べることに関心を持っている人は少ない。そう伝えると、少し失望したように彼女は頷いた。

途中、客が増えて席の移動が必要になり、彼女に背を向ける形になってしまったので、会話はそこまでで終わった。もう少し話したかったなという心残りと、話したところで一方的に聞くだけになってしまうし、自分の考えを伝えることもできないし仕方ないかという思いが混ざった気持ちだった。

そのあとは別テーブルで、北九州から来たという夫婦との話が盛り上がった。自分に優しいのか自分に厳しいのか、人に期待するのかしないのか、といった人生哲学的な話を酔っ払いながらすると、考え方がしっかりしているとなんか褒められた。日本酒をごちそうになったので、もっと酔っ払ってしまった。いちおう連絡先を交換したが、たぶん連絡しないだろうなぁ。

閉店時間、お店を出ると満天の星空だ、ここに来て初めて星空を見た、晴れるのが遅いよ、東の空にはさそりの心臓が光る。
片耳はイヤホン、片耳は外の音を聞いていたい、プレイリスト夜、歌いながら宿まで帰る。


fin


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すべてを文章に起こせたわけではないが、ここまでの旅日記を書けたのは自分にとって大きいと思う。体験したことを文字に起こすということで、とめどなく流れていく時間をこの場に留めておくことができる。時の流れに逆らって、いつでも参照することができる。日記は、記録は、言葉は、流れていく時間を永遠にすることができる。

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