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#3 BOOKNERD/早坂大輔

“独立系”書店が増えているのは周知の事実。独自の棚づくりでその地域のカルチャーを変える力がある。でもその内実はあまり知られていない。どのように書店を仕事として成立させているのか?盛岡BOOKNERD早坂さんに話を聞いた、どこにも載っていない独立系本屋さんの本音。

盛岡にBOOKNERDあり

加藤:オープンから何年目ですか?

早坂:5年目です。41歳ではじめて、いま46歳です。

加藤:5年でだいぶ知名度は上がっていますよね。盛岡の書店と言えばBOOKNERD(ブックナード)という印象です。最初に来たときラインナップも少ないし大丈夫かな?と思った記憶がありますが、すぐに作家さんや編集者が注目し出して杞憂に終わりました。カルチャー系の本屋が街に一つあるかないかはとても重要です。住む決め手になるほど。そんな本屋さんがありそうでない場所もあります。自分が住んでいる鎌倉とか…。

早坂:おかげさまでなんとかやってきました。盛岡は30万人くらいの小都市なので、商いの理想は実店舗にお客さんが来てくれることで商売が成り立つこと。でもやってみるとそれだけでは成立しない。必然的にオンラインストアも必要になります。

加藤:言いづらいでしょうけど、売上規模を教えてもらえますか?

早坂:月次の売上は200万円くらいですね。そのうち実店舗の売上は1/4くらい。オンラインの売上が半分以上です。

加藤:なるほど。当初からそんな感じですか?

早坂:最初はほぼ実店舗のみでした。

加藤:Tシャツやトートバッグなどグッズ系を中心にオンラインをのばしていった?

早坂:そうですね。コロナ禍でオンラインが飛躍的に増えました。いまはその状態が安定しています。でも、実店舗の売上は5年前からあまり変わらないんです。50万が100万になったりする月もあるのですが、ならしてみると50〜60万くらいで推移している。結構しょっぱいです。

加藤:でも家賃が安いですよね。あとはご自身でやっているから人件費がかからない。それを考えるとオンラインでそれだけの売上があれば、安定していますよね。同じお客さんが買っているのですか?

早坂:そうですね。固定客がベースにあって、徐々に新規のお客さんが増えている感じです。オンラインのお客さんは好循環というか、いい感じで推移しています。でも結局、実店舗がなぜオンラインより低い状態なのかといえば、それは仕方がないと言ってしまえばそれまでで、僕はそれをどうにかしたい。

加藤:コロナを経て実店舗のお客さんが戻ってきた。

早坂:どうなんですかね。5年やっているのでコロナ前とコロナ後を経験していますが、売上はそんなに変わっていない。結局パイがそれまでなのか、あとはこの土地この場所で商材として馴染んでいないのか。僕の店の品揃えがマッチしていないのか、そこは推し量ることしかできないですけど。

加藤:実店舗に来るのは近所の人ですか?

早坂:それが自分の本を出してからちょっと変わってきて。県外の人がたくさん来るようになりました。あの本を読んで訪ねてみたいと思う方が増えた。

加藤:海外からも来ますか?アジアとか。

早坂:最近は多いですね。アジア圏もそうだけど、北米やヨーロッパからも来ます。

実店舗+オンライン+出版+選書

加藤:早坂さんの自伝的なエッセイ『ぼくにはこれしかなかった。』ですね。本屋さんになるまでの葛藤や格闘が書かれている本がわりと多いですが、早坂さんのは人生そのもので、グッとくるものがありました。あそこまで開けっぴろげにすると清々しいですね。

早坂:「個人的」を標榜する雑誌、ニュー・カラーの方にそう言ってもらえてうれしいです。

加藤:どの書店も同じような悩みがあると思いますけど。ある書店で聞いたのは、地元で単価が高いアートブックを買う人が20人くらいいて、その人たちが固定で月に何冊か買ってくれるかで決まると。

早坂:うちも常連に支えられています。それに甘えずにもうちょっとパイを増やせるんじゃないかなと思いながらやっています。いわゆる大衆向けというか、いままで本を読まなかった層とに向けたセレクトをすれば常連は離れますし、マニアックすぎるとパイが増えない。実店舗とオンラインのウエイトはずっと頭を悩ませています。

加藤:でも実店舗があるからこそのオンライン。

早坂:そうですね。街に本屋があるという意味を考えています。子どもができたので余計に。

加藤:売りたい本に変化はありましたか?

早坂:がらりと変わりました。心境の変化というよりは、世の中や社会の移り変わりが大きくて、必然的にいろんなことを考えなきゃいけなかったので、紹介したい本が変化していく。

加藤:たとえばフェミニズムだったりBLMだったり。社会の変化に応じて良書がたくさん出るようになった。ほんと毎月10冊以上読んでいるけど追いつかない。

早坂:コロナによって社会構造、貧富の差や格差の拡大だったり、より顕著にいろんなことが浮き彫りになってきた。それを解決できるわけじゃないんですけど、問いを突きつけるような本がたくさんでてきて、そういう本をみんなが読みたがっているから必然的に扱わざるを得ない。5年前にはじめたときは古本を売りたかったので、アメリカで買い付けてきたビンテージの本を売るのがスタートでしたが、そこからやはり致し方なく新刊本を扱うようになって。和田誠さんとか、村上春樹とか、昔すごくよかった頃のグラフィックデザインとか、カルチャーの本が多かったけれど、少しずつ構成比が変わっていきましたね。当然そういうものも扱っているんですけど、もうちょっといまの時代を生きている人たちの本を扱うようになった。そこが顕著ですね。

加藤:片岡義男も一応まだ置いてあるけど、みたいな。実店舗とオンラインのみですか?

早坂:自分のところで出している出版物があります。月20万くらいの売上ですかね。あとは秋田の公共施設や食料品店にセレクトした本を卸しています。今後はBOOKNERDの出張本屋やセレクトして置く公共施設や本屋さんが増えていくと思います。

加藤:はじめた頃はこの状況はあまり想像してなかったですか?

早坂:全然想像していなかったです。出版をするなんて思ってもみなかったし。選書とかの話も僕がやりたいって言ったのではなくて、向こうからきたので。

加藤:渋谷の山下書店が閉店して、パルコがリニューアルしたのにPARCO BOOK CENTERが入らなかった。コンテンツとして本屋が入らないという状況が、カルチャーシーンの中ではあり得ないと思っていたふしがあり、自分はなんて遅れているんだと実感します。本屋ってタピオカやジェラートに負けちゃうのか…って(笑)。映像とかギャラリーとか、シルクスクリーンのなどは若い子たちにも徐々に浸透している実感はありますが。本より映像メディアに流れています。

早坂:それはすごく感じますね。

加藤:だからこそ、独自のセレクトに偏った書店が必要なんです。

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