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#2 誠光社/堀部篤史

創刊前にNEUTRAL COLORSのモックアップを持って誠光社の扉を開いてから、店主の堀部篤史さんには種々のアドバイスをもらってきた。本の内容だけでなく、流通の仕方やプロモーション施策まで。自分の中でなにか悩むととりあえず堀部さんに聞いてみるというルーティンができているほど。どうしたらNCを仕事として成立 させられるか?イコール本を販売することだから、堀部さんに“売る仕事”について聞いてみた。

加藤:コロナ禍を経た動きや変化について教えてください。

堀部:自分の本(『火星の生活』)を出したのは、コロナ禍の2年間のダメージが大きかったから、一番原価率の低いものをという考えからです。著者も自分で、もともとある連載をまとめたもので、それをつくって2年間の負債の穴埋めにしようと。Tシャツとかトートバッグがもうどこもやっているので面白くないと思っていましたし。本屋は仕入れて売るだけだからどこも似てくる。だから自社製品をつくるのは当たり前ですね。珈琲でいえば自家焙煎みたいに。他業種では当たり前のことですけど。

加藤:ミニコミや zine のようなものではないところが堀部さんらしい。

堀部:知り合いの編集者に編集料を払って、構成を一緒に考えてもらいました。雑誌などに提供したテキストを書き直して。

加藤 : 売り方は?「トランスビュー(直販型の取次)」、「一冊!取引所(本屋と版元をつなぐサービス)」、書店への直接販売と売り方が乱立しているイメージです。NCも全部やっていますが。

堀部:『火星の生活』のようなドメスティックなものは直販のみでいいですね。ISBN もつけていない。出版物の規模に合わせて適正なものを選ぶべきだと思います。

加藤:部数によって可変する。

堀部:2000 部以上だったらトランスビューが適していると思います。なおかつ2000部以上といっても、版元の規模が関わってくるから単純に数字では判断ができない。2000部をどんなスペースで何人でつくっているか。たとえば自分は一人で自宅兼書店でつくっているから、2000部も在庫があったら生活スペー スを圧迫してしまう。だから1000部は直販用に持っておいて、1000部をトランスビューに 預ける。取次を倉庫機能としても考えられるわけです。

加藤:数字は相対的なものにすぎないということですよね。『火星の生活』の刷り部数はいかほどでしょう?

堀部:1500部刷って、ISBNなしで取次流通もなし。直販のみで十分に在庫管理含めてできる。自分のつくったものだからインディーの 書店で親しくしている 50店舗で10冊ずつ500冊。500冊は自分のところ(誠光社)で販売する。あと在庫として500冊持ってゆっくりと売ればいい。

加藤:無理がない出版方法ですね。取次流通が必要な場合とそうじゃない場合の見極めですね。

堀部:著者によっては一般書店の流通にのせた方がいい考え方もあります。売り方が混沌としている今だからこそ、それをうまく活用できる。

加藤:大事なのは規模感と。ここに届けたいからこの方法を取ろうと戦略的に考える必要がある。チャネルが増えているいまだからこそ。

堀部:夏葉社の島田さんとかはそ のことに自覚的ですね。販路を増やしたくないという話もしますし、知らないところから注文がきたら困るまで言うし。販路を知ることと決めること。彼が一人でやっているから判断できることです。

加藤:夏葉社は直販メインですよね。一軒一軒本屋さんをまわって、置きたい店を自身で決めているというのを聞いてすごい行動力だと。全国的に独立系書店が増えているので、自分ももっと店主とコミュニケーションを取らねばと思いました。

堀部:売り方の選択肢が増えていますが、欲をいえば直取引と大手取次の間くらいのものがもう少し厚くあるといいです。その中間くらいの取次が増えれば、例えば人文書中心に、直取引にも大手取次にも対応する、亜紀書房くらいの中間規模の版元が、売り方を選択しながら成立しやすい状況になるんじゃないかな。

加藤:堀部さんの人間関係で500冊ははけるとおっしゃっていましたが、NCが出した『導光』は1000部なんですね。トランスビューが 500冊で、直販で300冊、作家への預けが200冊です。現状直販で150冊しか売れていません。トランスビューが200冊くらい。全然営業がうまくいってなくて......。

堀部:それは少ないですね。加藤さん(NC)がつくっているものを見ればわかりますけど、結局加藤さんは売る方じゃなくてつくる方にしかベクトルが向いていないです。『導光』だってもう少し書店への説明や帯に「リソグラフで刷ったものをオフセットにしている」とか「被写体と写真家が共鳴していって“工芸に近づいていく”」という強いコンセプトを押し出して、版元自体もそれを体現しているということがわかればもっと関心が高まると思います。

加藤:おっしゃるとおり過ぎて言葉がありません......。本屋さんに伝わらないものは読者にも当然届かないですよね。

堀部:まず、売り手である本屋が本文をしっかりと読み込まないと理解できない本なんですね。今回みたいに展示とかすれば読み込むか ら理解できるのですが。言語化して、例えば SNS なんかで発信しづらいものは注文できないですよね。

『導光』発売記念展示(誠光社)

加藤:直販用の資料には書いたつもりなんですけどね......。

堀部:それは読みましたよ。でも本を読み込まないと理解できない。加藤さんはつくる方にベクトルを向けていていいんですよ。誰かもう一人、「加藤さんこれじゃわかんないですよ」って言う人がいれば。

加藤:しばらく経ってから「ああ、そういう意味だったんですか!」と言われることが多くて。

堀部:でしょうね。バイヤー目線で考えられる人がいれば解決しますよ。

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