ポッドキャストのテクニカルな部分–録音とポストプロダクション–


Précis

録音と編集の備忘録を書いておこうと書いたきり放置していたら2年以上経っていた。やれやれ。続けていく中で徐々に最適化されてきた部分もあるので、まあ備忘録をスナップショット的に残しておくのは今のタイミングでも別によいか、とは思う。

そもそもポッドキャストの録音、編集Tipsに関してはよいまとめが無数存在している(例えばrebuildの)ので今更感が強いのだが、プラグインの進化等もあり、自分の録音・編集環境を具体的として共有をするのはひょっとすると誰かの参考になるかもしれない。


録音機材

マイク

萩原はポッドキャストを始める以前から、音楽活動によりオーディオインターフェース+マイクを所持していたので、XLR接続が必要なAudio-TechnicaのAT2035 (典型的なコンデンサ)と、SHUREのBETA87A (コンデンサだがファンタム電源が必要なダイナミックと言った方が近い)を使用している。ATを買ったのはtoeのギターかつエンジニアの美濃氏が録るギターの音が好みで、主にAT4050を使っていたから。同じものを買う余裕は当時はなかったので、キャラが近いとされる下位モデルを購入。よって元々は楽器録音用。BETA87Aはステージマイクを自前で買おうと思った(共用マイクのグリルが衛生的に気になった)ときに、普通の57/58じゃ面白くないかなと思ったので。ローが出気味の声質なので、上がキラキラしたBETA87Aは結果的にはちょうどよかった。

録れ音的にはATの方がバランスがよくて好きなのだが、感度が高いので環境雑音・部屋鳴りも必然的に強くのってくるので、使いやすさを優先して最近は87Aを使用している。指向性が高くマイクの正面かつ近くで喋らないとほぼ音が入らない点(これが利点なわけだが)にだけ気をつければ、コンデンサのきらびやかさとダイナミックの対環境ノイズ性を兼ね備えた大変ポッドキャスト向きのマイクだと思う。

宮脇はプログラム開始に際してマイクを購入したので、インターフェースのいらないBlueのYetiを使用。感度は申し分ないが、メリケンは家電がうるさいし、部屋の反響音を抑えるのが結構大変なので、レトロスペクティブに考えるとダイナミックでもよかった。今ならSHURE MV7を買ってもらってたと思う。マイク選びに悩んでいたゲストにMV7を買って収録で使ってもらったら実際に録り音は大変よかった。同様にインターフェースのいらないダイナミックマイクであるAudioTechnicaのATR2100X-USBはだいぶコスパ良さそう。

マイクの前でじっとしてられないタイプの人は襟につけるラベリアマイクが一番いいかもしれない。音量を一定にするという点ではおそらく最強。どうしても課金したくない人にはAppleの(有線)Earpodsの内蔵マイク一択。なお無線ヘッドホン・イヤホンの内蔵マイクは通信プロトコルの仕様上120%使い物になりません。

モニタ環境

オーディオI/OはMOTUのM2. 不安になるくらい安い。マイクプリのゲインがもう少し余裕あればとは思うが、ADもDAも文句無い音質。モニタはGenelecの8010Aを所有しているが、ポッドキャスト編集にはあえてAppleの有線Earpodsをメインで使うようにしている。これは大多数の視聴者が出先でスマホとAirpodsとか使って"ながら聴き"するであろうという想定から。

その他

-ポップガード
グリルに機能が内蔵されていることも多いが、安いし、マイクと口の距離を一定に保つのにも有用。

-反響を抑制する何か
フルカーペットのクローゼットや(布成分の多い散らかった)寝室等で録らない限り、部屋鳴りをデッドにするのは結構厳しい。せめて壁の直接反響音を防ぎたい。萩原はモニター環境をよくするという意味でも壁の吸音材を使用 (下図参照)。

Amazonで安物を買って両面テープで貼ってある。そこそこの密度のものなら大差なさそう。

宮脇はマイクの後ろにU字型の吸音材を設置。そしてB-Boyよろしくパーカーのフードを被って収録に臨んでいる(らしい)。

-マイクスタンド
ムーブスタンドにしておくとタイプ音等のデスクの振動を拾いづらく吉。


ソフトウェア

Daw

  1. (これもプログラム開始前から所有していた)AppleのLogicProを使用。ガレージバンド等のフリーソフトで十分なので、わざわざ買う必要はなさそう。
    使う機能としては、ベーシックな
    -コンプレッサ
    -EQ
    -リミッタ
    -音圧モニタ
    -ディエッサ
    あたりがあればよさそう。

  2. 別にLogicで録ってもいいのだが、録音時にはミニマルな(動作の軽い・Windowの小さい)Audacityを使っている。

プラグイン

昔はPA卓やビンテージコンプのシミュを使ったりしていたが、ポッドキャストに求められるのは高い音質・ディティールというよりは聴きやすさ、聴き疲れなさだと思うので、極プラクティカルなものに限って購入した。

-Acon DigitalのRestoration Suite
リップノイズだけはどうしても不快なので、何かしら対策をすべき。Declick2が優秀なのとコスパで決定。トライアルでテストしたところ、性能的にはiZotopeのRX(当時はver8)に含まれるMouse Declickの方がよかったが、高くて断念。今(RX10)ではElement(一番廉価なバンドル)にDeclickが含まれているようで、すると価格的にはこちらも大差ないかも。

-ノイズ除去
WavesのClarityVxが超強力かつ元音のディテールが驚くほど残るのでオススメ。ほぼ魔法(と見分けがつかなくなったML)。Wavesは基本BFとかのSaleの時に買ってください。これを買う以前はAudacity内蔵のNoise除去を使っていた。手動での作業が必要になるが、割と優秀 (AconのDenoiseは元音がすぐ崩れて使い物にならないので使わない)。
最近出た部屋の反響をとるClarity Vx DeReverbも気になっている。これが優秀なら部屋鳴りを気にする時代はもう終わりかもしれない。
*現状(v13/14)、Rosetta起動しないとClarityが使えずAppleシリコンの恩恵がフルで受けられないため処理は大変遅い。そのため、後述するようにプリプロセシングと編集を2段階に分けるのがベストプラクティス。

-各トラックの音量調整
WavesのVocal Rider。一定の声量で喋るのは、特に慣れていないゲストにはほぼ不可能なので大変重宝する。手動で音量カーブを書くという手もあるが超面倒なので課金で済ませましょう。こちらもセールで安くなります。


録音時の流れ

各自ローカルで録音、後でmixというのが最低限マスト。ホストは上記のようにAudacityで、(音響savvyでない普通の)ゲストにはデフォルトで入っているQuickTIme(Mac)かVoiceRecorder(Win)を使ってもらっている。QuickTimeはちゃんと動作しないバグがあるので、一度試し録りしてもらうとよい。VoiceRecorderは3時間で勝手に止まる仕様になっているので長時間収録の場合はブレイク必須。マイクのアサインだけは間違えないように3回くらい念を押す。また、収録前の打ち合わせで、収録時にイヤホン・ヘッドホンを用意してもらい、それらでのモニターをお願いする。ゲストの録り音にホストの声が被るとカオスで、後の作業が100倍くらい面倒になる。マイクのゲイン調整は慎重に。ピークがついてはならないが、かといってダイナミックレンジを使わなすぎるのもマズい(32bit floatが普及すると何も考えなくてよくなりそうだが、しばらくは実現しないでしょう)。

インタビュー自体はZoomを利用。

ゲスト側でのトラブルを想定し、ホスト側でサブ機体を用意してZoomの音を直接録音しておくと安心。この際Blackholeなどの仮想デバイスソフトが便利。
確認用音源、バックアップ、タイミング同期、として使用。あとはゲストに「記念に未編集音声です〜」などと言って録音直後にプレゼントする。(聴かなくて大丈夫、と言ってもみんな結構気になってすぐ聴いてしまうらしい。そして聴き慣れない自分の録音された声が気持ち悪くて落ち込むらしい。まあすぐ慣れます。)


ポストプロダクションープリプロセシング

Declick、ノイズリダクション等は処理が重いので、メインの編集作業〜書き出しを快適にするために別のプロジェクトでプリプロセシングをするとだいぶよい。
設定はほぼ変えないので専用のLogicプロジェクトをテンプレ的に作って、毎回duplicateして使用する。

以下各種ステップ

Logicのpreprocessingプロジェクトの例

1. Clarityでノイズを落とす。大きめの音量で聴いた時にギリギリ環境雑音が聴こえるか聴こえないかくらいを狙う。ゲストの録り音がやばい場合何も考えずにMaxに。

2. DeClick2で不快なリップノイズを取る。副作用として"乾いた"感じになって中域が強調されるが、ポッドキャスト的には寧ろトゲのない聴きやすい音になるので結構しっかり強めにかけている。声のディティールを残したい場合はミニマルにかける必要がある。

3. DeEsserで不快なサ行の音を軽減。語尾の「スー」音が弱まるので、ナメた若者感が減るという利点がある。おまじない程度なのでLogic内蔵のものを使用。

4. Vocal Riderで各トラックを-14 LUFSに均しておく。Vocal Riderのかかりは限りなく少ないのがよいので、もし録り音があまりにも目標の音圧からズレている場合先にゲイン調整をしてからVocal Rider入れる。

5. 各トラックをmono wavで書き出す。長さにも寄るが、結構時間がかかるのでovernightで仕掛けるのもあり。Intel Macだと書き出し作業中は裏で他の作業を行うのは不可能だったが、M1にしてからは(Rosetta起動だが)特に問題ない。

ちなみに、この段階ではEQとコンプはかけていない。ゲストの声質との兼ね合いで微調整したくなる可能性があるから、というとそれっぽいが、主に気分の問題。どちらも軽いので編集時にかけっぱなしにしておいても全く問題ないのが大きい。


ポストプロダクションー編集

1. zoom音源を基準にそろえる。クロックがあってないので長い収録ではドリフトしてくるので、いい感じにそろえる

2. パンの調整。一般的に音楽コンテンツのないポッドキャストではモノラル音源が多いが、NRでは音声分離の観点からステレオ音源を採用している。データサイズが倍になってしまうが、利点は十分あるかと。萩原をやや左(-10)、宮脇をやや右(+10)に置いて、ゲスト回ではゲストをセンターにして、ホストのパンニングをやや広げている(±20)。

3. EQとコンプ、完全に好みの問題。いい感じにして下さい。VocalRiderで既に音量の慣らしは済んでいるので、コンプは別になくてもよく、音の"近さ"を調整するくらいの感覚。

4. "command+T", "option+[" をそれぞれ100万回くらい使用(上のyoutube動画を参照)しつつ、切っては左に飛ばし、を繰り返して間を詰める。内容的にカットする部分も同様の方法でざくざく切っていく。

5. 被りの処理。発話が被ってしまってあまりにも聴き取りづらい場合、片方を消す or タイミングをずらす等して調整。

6. total outputのステレオチャンネルにリミッターを挿して-0.5dBくらいで強制的に切る。0dB越えて音声が歪むのは最悪。

7. total outputのステレオチャンネルにラウドネスモニタを挿して、安定して-14 ~ -16 LUFSになるように各chのフェーダを調整。

8. wavで書き出し。(確認用にmp3でも書き出しておくと便利)

9. wavをForecastにつっこんでchapterをつけ、mp3 encoding (192 or 160kbps, Stereo)を行う。

10. 公開!


あとがき

ざっくり以上のような感じです。質問等あればNRのtwitterもしくはgmailに質問投げて下さい。(気づけば)返します。

では、
萩原









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