Mokri syndrome-大動脈術後のPSP様症状-

2004年にMokriらは大動脈手術後に進行性核上性麻痺に類似した症候群を発症した7名の患者を報告した。
核上性眼球運動麻痺(supranuclear gaze palsy:SNGP)は麻酔からの回復後に明らかとなり、歩行障害、構音障害、嚥下障害も見られた。SNGPは持続したが他の症状は1〜4ヶ月程度で安定した。脳のMRIでは異常は認められなかった。
その後にもこのPSP様症候群や関連する可能性の高い症例が報告されているが、その病態生理は不明である。
最初にこの症候群を認識した故Bahram Mokri氏にちなみMokri syndromeと名付ける。

メイヨークリニックにおける患者背景

年ごとの症例数

初期症状と遅れてでた症状

臨床症状
Mokri syndromeの典型的な３徴はSNGP、構音障害、歩行障害であった。
square-wave jerksがみられないこと、水平性サッケードが障害されている点でPSPで見られるSNGPとは異なると考えられた。
Mokri syndromeでの構音障害はataxicの要素を含んでおり、hypokinetic or spasticな構音障害を呈するPSPとはその点でも異なった。
歩行障害は80％で見られ、narrow basedでストライドは様々でパーキンソン様ではなかった。
臨床経過は麻酔から回復後、1〜数カ月後に遅延期の症状が現れるという点で特徴的。

想定されうるメカニズム
本論文での患者はAV-1451 tau PETは陰性であった。ただしAV-1451 tau PETは4 R tauに感度が高いわけではない。
FDG-PETではPSPに見られるpimple signがみられたが、DATscanはPSPとは一致しなかった。以上からタウ沈着がMokri syndromeを説明できる可能性は低そうだが、中脳と大脳基底核が関与していることを示唆している。
小児領域では心臓手術後にSNGPやchoreaを呈する報告があり、周術期の低体温がMokri syndromeを呈する可能性がある。


臨床神経学にもPSP類似症候群として報告
Sakiyama Y, Michizono K, Tomari S, Watanabe O, Nakahara K, Takashima H. [A case of a syndrome resembling PSP after aortic arch replacement under deep hypothermic circulatory arrest]. Rinsho Shinkeigaku. 2011 Jan;51(1):38-42. Japanese. doi: 10.5692/clinicalneurol.51.38. PMID: 21387699.

Reference
Tisel, S. M., Ahlskog, J. E., Duffy, J. R., Matsumoto, J. Y., & Josephs, K. A. (2019). PSP-like syndrome after aortic surgery in adults (Mokri syndrome). Neurology: Clinical Practice, 10.1212/CPJ.0000000000000708. doi:10.1212/cpj.0000000000000708