みんなの移動を支える裏方、チャリチャリの鍵の修理記録
鍵が開かない
鍵が閉まらない
鍵がアプリに反応しない
弊社シェアサイクリングのサービスを皆さまにご愛用いただく中で、鍵は消耗して故障することもあります。
鍵のトラブルでご迷惑をおかけしているお客さまには、この場を借りて深くお詫び申し上げます。
さて、遅ればせながら自己紹介させていただきますと、私はneuet(ニュート)株式会社において鍵の修理を担当している松井と申します。
お客さまのご意見を拝聴すると、鍵をどうやって直しているのかという質問を受けることが度々あります。
そこで今回は故障した鍵をどのようにして直しているか、その作業風景を皆さまに紹介させていただきたく存じます。
ステップ1.故障鍵の受け取り
故障した鍵が定期的に作業場へと届きます。
この日も、出勤すると段ボール2箱分の故障鍵が自席をふさぐように置かれていました。
故障した鍵を前にして、一刻も早くこれらを修理してお客さまの下にお返ししなくてはという使命感に燃え上がります。
そんな私に同僚が声をかけます。
「あと3箱届きます」
「ウギャア」
そんな喜びの叫びをあげ、更なる鍵の到着を心待ちにしながら、早速作業に取り掛かります。
ステップ2.故障鍵の分解
まずは故障鍵をまとめて分解します。
分解作業はドライバーでフタを外して、鍵の本体を取り出して、開きます。
ネジはさびついて回らず、鍵のカバーは泥とグリースまみれでべたつき、鍵の本体は防水用に接着されているのでなかなか開きません。
フタを外して、開く。
フタを外して、開く。
フタを外して、開く。
フタを外して、開く。
同じ作業を繰り返す中で雑念は消え去り、無心の境地で手を動かし続けます。
ステップ3.修理
故障の原因は様々です。
電源が足りない。
モータが動かない。
アプリと通信できていない。
部品をつなぐ配線が断線している。
etc...
発生している不具合現象から、故障原因を推測します。
例えば、ここに鍵の閉まらない故障鍵があります。
鍵が閉まらない一番の原因は、内部のモータを動かすバッテリーの寿命です。
なので、まずは新しいバッテリーに交換してみます。
そして鍵を閉めた状態にもどしてから、チャリチャリのアプリでQRコードを読み込むと、モータが回転を始めて鍵が閉まりました。
修理成功です。
全ての鍵がこんなふうに直ればいいのですが、モータに何の反応もないこともよくあります。
考えられる原因を発生頻度の高い順に調べていきます。
スイッチの故障。
モータの摩耗。
BLE通信不良。
バッテリー配線の断線。
施錠検知システムの破損。
1つ1つの原因を潰していきます。
故障修理は、仮説の構築と実験による検証を繰り返す推理にも似た作業です。
たいていの鍵はここまでの作業で直るか、修理不可能と分かりますが、中には原因不明の故障鍵も出てきます。
こういう鍵は部品の接触不良があるのかもしれませんし、制御ICがフリーズしているのかもしれません。
こうなると原因の特定は簡単ではありません。こんな時には、どうすればいいでしょうか?
テスターを片っ端に部品へ当てて断線箇所がないか探したり、電流を流したり止めたり、拡大ルーペで部品の剥離がないかを探して、怪しい個所の半田をつけ直したり、手当たり次第にできることをします。
故障修理は、気合と根性とヤマ勘です。
しぶといヤローはここまでやっても直りやがりません。
こうなったら最後の手段を取るしかありません。
その最後の手段とは、さっそうと帰宅して寝ることです。
作業中に動作しなかった鍵が翌日には直っていることがたまにあります。
接触不良の原因の泥などが自然に落ちたか、もしくは小人さんが夜中に直しておいてくれたのでしょう。
故障修理は、神頼みです。
ステップ4.動作確認
昔、ある小説家が言っていました。
小説を1作だけ大ヒットさせるのは難しくないが、安定してヒット作品を作り続けることはきわめて難しい、と。
鍵も1度だけ動くように直すのは簡単ですが、安定して動き続けるようにするのは難しいことです。
修理した鍵が連続した開閉動作に耐えられるか試験しないといけません。
モータが摩耗していたり、部品が劣化しているので、どうしても安定して開かない鍵も出てきます。
そういう鍵はお勤め終了と判断し、バラバラの部品単位に分解して、他の故障鍵の修理用部品に流用します。
ステップ5.組み立て
私が料理をする時、一番めんどくさいと思うのは後片付けです。
料理するのは楽しくても、食後の汚れた皿と調理器具をキレイに洗って元に戻すのは気の重い作業です。
鍵も直した後は、キレイにして元に戻さないといけません。
鍵のカバーを閉めて防水加工を施し、鍵カバーの中に納めてフタをします。
閉じて、フタをつける。
閉じて、フタをつける。
閉じて、フタをつける。
閉じて、フタをつける。
同じ作業を繰り返す中で雑念は消え去り、無心の境地で手を動かし続けます。
ステップ6.そして街に帰る
修理済みの鍵はまとめて充電してから、現場の整備担当者に送ります。
こうして修理された鍵は街へと帰ります。鍵がお客さまに再びご利用いただけることを思うと、とても嬉しくなります。
しかし満足してばかりもいられません。
鍵の修理を通して鍵の抱える欠点も見えてきます。それらを改善した新しい鍵を作ることも考えなくてはいけません。
より使いやすい鍵を目指しつつ、私たちは明日も鍵を修理していくのであります。
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