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再解釈こそクリエイティブ。デザインで洗練させすぎない #ヘップサンダル

今回は、時代に淘汰されてしまったモノがもう一度、日の目を浴びる方法には、デザインで洗練させすぎないことがあるよねというお話をしようと思います。

2020年春。奈良発のヘップサンダル専業のブランド「HEP」を立ち上げました。

その構想には約2年を要しました。

たった一人で始めた構想に、最初にジョインしてくれたのはデザイナーさんでした。

家業としてを履物の卸売を営んでいますが、業界内ではなかなか戦略を理解されず、サンプルに付き合って頂ける協力工場を見つけるのにも苦労していました。

そんな中、声を掛けてくれたのはSUNAデザイナーの長砂さん。

早速、プロダクトデザインに掛かると思いきや。

まずは事業構想、そしてブランドの組み立てからみっちり行いました。

そしてブランディング、商品企画へと落とし込んでいきます。

■死語として受け入れることからのスタート

事業構想を進めていく間でも各界、有名無名問わずたくさんの方たちに会いました。

ぼくの自己紹介は決まって「奈良でヘップサンダルという履物をカクカクシカジカやってまして」。

全員(99.9%)、ポカンです。

そうなんです。

当然ですがようやく、ヘップサンダルは死語なんだなと受け入れる事ができました。

奈良の履物業界内ではこすりにこすられた言葉及び、語源のうんちくでした。

(ヘップサンダルのヘップは、女優オードリーヘップバーンさんが映画「ローマの休日」で、サンダルを着用したシーンを観た日本の人が親しみを込めてヘップバーンサンダルと呼んだことからきているよ!)

一方、外では皆さん誰も知らない。

なので、外では存在しないものになっていることにすら、業界内の人たちは気づいてないなと思ったので、これでかなり勝機が見えました。

■ヘップサンダルとは何だったのか

ヘップサンダルとは(以下、語源。)、、、というお話は多出しているのですが、なぜヘップサンダルが時代に淘汰されてしまったのかを語る人はあまりいません。

余談ですがその昔、アパレル業界に身を置いていました。

当時、そのシーズンや月末の振り返りで、「今季は暖冬で…」とか「長雨が続いたので…」と売れ行きの行く末を天気のせい一辺倒にしている人の見解が苦手でした。

本当にその動向は読めなかったのかと。
これじゃあ、この業界は博打みたいじゃないかと。

ずっと思っていました。

まるで外的要因でしか無くて、自分は最善を尽くしてたかのような言い分です。

そしてヘップサンダルです。

ライフスタイルやニーズの変化とか、外的要因だけにするのはまだ早いんじゃない?って話です。

■価格競争へ全員参加

奈良の履物業界は紆余曲折を経て、ものづくりあるあるゾーンへ突入します。

「バブル崩壊、海外生産、デフレ」などなどです。
(割愛ですごめんなさい)

このレースの勝敗は簡単で、参加した時点でお客さんへ一番安く大量にお届けしたグループの勝ちです。

この競争に参加した日本のものづくりは、途端に険しい戦いとなったことでしょう。

■デザインでの差別化とその激化

もちろんデザインでの差別化も、激化していきました。

皆んながみんな、創意工夫を凝らしたデザインのヘップサンダルを生み出していきます。

時同じくしてインターネット黎明期になりました。

ネットの交通整備もままならないまま、デザインの元ネタがもはや誰のものなのか、わからないデザインらしきものも現れる始末です。

メーカーさんは合同展示会終了後の夕方、毎日クロス(布)を新作の商品に掛けました。

ホコリが被らないようにではなく、他社さんに真似されることを防ぐためです。

設営日に並べた新作が、展示会2日目に他社ブースで並ぶという、都市伝説を聞いたことがあります。

■クロックス”みたいなやつ”爆誕

そしてcrocs(2002年創設)がアメリカから日本へやって来ました。

このnoteでは何度か述べていますが、個人的にはクロックスさんは素晴らしい商品だなと思っています。

https://www.crocs.co.jp/

それと、ほぼ同時に現れたのがクロックス”みたいなやつ”です。
*関西弁でいうと”パチモンノクロックス”です。

ご存知かどうかはわからないですが、crocs【公式】は販売価格がだいたい¥4,000〜6,000-くらいです。

ですがどうでしょう?

みなさんの知っているクロックス”みたいなやつ”って、¥1,500-とか。
もしくは¥300−や¥100-ではないでしょうか?

仮設ですが、ぼくはヘップサンダルが時代に淘汰されたのはこのタイミングだと考えています。

「めっちゃ安くて水イケるらしい。しかもなんか皆んな履いてる。」

#関西弁

それらとヘップサンダルが一緒に商品棚に並んだ時、お客さんはヘップサンダルにきっとNOを突きつけた。

※注釈
ただ、間違ってもこれは悪の元凶ではないということ。

技術や企業努力でもって、このような価格で流通が叶っていることは悪いことではありません。
(誰も血と涙を流していなければ…)

そして、それに共感して(テンションが上がって)買うのも全然OKだと思ってます。

ライフスタイルは人それぞれなので、食事にお金を沢山掛ける人もいれば、ファッションにお金を掛ける人もいて当然なので。

■あなたにも刷り込まれていたヘップサンダル

ヘップサンダルをたくさんの人達に説明しても言葉は知らない。

ただし、そういう人たちには共通点がありました。

それは写真を見せたら認識するということ。

ぼくたちは(20〜30代)が今でもヘップサンダルを見て、

「(名前は知らないけど)ああ、あのサンダルね!」

という風になるんですね。

日々履いたり、買ったりするわけでは無いのにです。

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旧来のヘップサンダル

■ヘップサンダルとは何だったのか②

たちまちデザインのお話に戻ります。

なぜヘップサンダルが時代に淘汰されたのかを考えたあと、こう考えました。

ヘップサンダルを言葉で知らない(ヘップサンダルノンネイティブ)で、買ったり履いたりもしない世代なのに、姿形は認識している

なので、ぼくたち(ヘップサンダルノンネイティブ)にヘップサンダルたらしめている要素は一体何なのかを考えることにしました。

前途の通り、ヘップサンダルのデザインは創意工夫がなされ、とても凝ったものも多いです。

どれをとっても独特だし個性的です。
デザイナーの長砂さんも目をみはるほど。

そのいちいちを分解して、何がぼくたち若者(ヘップサンダルノンネイティブ)世代にヘップサンダルたらしめている要素があるのかを抽出。

そこで様々な要素を見出すことができました。

そのうちの1つはフォルムです。

例えば、上記のような独特なパターンとシルエット。

これは紛れもないヘップサンダルたらしめる要素の1つでした。

こういった要素の分解がいくつも見い出せました。

そしてこれが、こう。

■ヘップサンダルの再解釈

ようやくプロダクトデザインのお話です。

新ブランド「HEP」のプロダクトデザインは基本的に「0→1」で行っていないです。

再解釈することこそ、クリエイティブでした。

↑※あくまでHEPブランドにおいては

ちなみに、この行いは同業者内では腐す人が多いと思います。

が、もしその業界が衰退の一途をたどっているのなら、最初はガン無視でもいいかと。

(結果が伴うと手のひらを返すので)

ただし、脈々と流れてきた歴史的文脈にきちんと敬意を持つ。

『型』を知らないと、『型破り』はできないというアレです。

■「洗練させない」ということ

そして、表題です。

前途の通り、デザインはいわゆる流行から意識したような要素は汲み取っていません。

無論、戦略的に市場を見た上で汲み取っていない。

世の中に、ファッショナブルなサンダルは溢れかえっています。

そういう役目は他社さんが担ってくれているので、そのパイに参加する必要はありませんでした。

めっちゃお洒落なサンダルは、いくらでも代わりは在るんですね。

■洗練させないで?お願い?

HEPは、神戸のパタンナーさんにアッパーを描いてもらってます。

伝えるのは「美しいラインにしないでください」ということ。

そのリクエストをもってしても、最初はキレイめで美しい線が描かれたアッパーが上がってきました。

そういったサンダルは満ち溢れているし、ヘップサンダルなら、もっとどんくさくて、むしろその方が良い。

洗練させすぎると、ぼくたちの生命線であるヘップサンダルたらしめる要素の1つが失われてしまいます。

当時は、そういうやり取りをパタンナーさんとしていました。

■なぜヘップサンダルなのか

奈良県内には最盛期、150ほどの関連メーカーや関連工場があったとされています。

しかし現在は15件ほどとなり、業界全体は縮小が進むばかりです。

それでもなぜ、業界はヘップサンダル単品のブランドを始めたのか。

理由は3つあります。

1つは誰もやってなかったから。

誰もやってないので(敵が居ない)無敵の状態です。根本的に、流通の軸足もごっそり変えました。

他が居ないので、あとは産地の一番星になるしかなかった。

2つ目は、自分が気楽に履ける履物が欲しかったから。

さっと履けて気楽に出かけられる。それでいてセンスも感じられる。

そんなサンダルがあったら、自分は買いたいし履きたいと思ってました。

それが日本の古き良き時代に愛されたヘップサンダルでした。

あと、振り返ってでてきた言葉ですが、テクノロジードリブンの世界戦にカウンターをしたかったのかもしれないです。

最後、3つ目が昔から続けてる奈良の人たちと作りたかったから。

4年前、父の手伝いを始めてた時、奈良県内の作り手さんに挨拶に回りました。

そのとき、作ってる人の多くが背中を丸くして仕事に向かっている気がしました。

サンダルの作り方は知ってるけど、届け方は知らない。

ここにいる人たちは皆んなそうだと感じました。注文をずっと待ってたんです。

他方、焼き物や木工など、別の産地では再生に成功した事例がぽつぽつと現れていました。

それを受けて、もしかすると”責任を持ってこの小さな業界でも変えられるかも。道はあるのでは?”と思ってしまったんですね。

というか、いたたまれない現状を見てしまった。

それを変えたいというか、作ってる人、それを買う人含めて、自慢できるようなモノであってほしいよねと思ったんです。

だからまずは、今まで歴史を繋いでくださった奈良の人たちと作ることに、意味がありました。


■満ち足りて期は熟した

なぜ、ブランドHEPに勝ち筋を見出したのかは、下記のnoteに書きました。

かい摘んで書き出すと以下。

■古いは「新鮮」
ぼくは平成元年生まれで、昭和の時代を過ごしたことがありません。

知っているのは情報としての昭和だけで、昭和時代の空気を1秒も吸った事がない。

なので日本の古き良き時代のコンテンツは、肌感覚で「ああ、なんだか懐かしいな」と感じられると同時に、かなり「新鮮」だったりします。

それってつまり、大資本がマーケティングによって生みだす新商品たちと同じで、「日本の古き良き時代」はぼくにとっては新しいコンテンツです。

■出演情報

関西のテレビ番組「よんチャンTV」(毎日放送)にて、HEPが特集されます。
近畿広域圏での放送予定です。

◉放送日:2021年9月14日(火)

番組:よんチャンTV | MBS(毎日放送)
コーナー:なんで?生中継
時間:16:00前後
*予告なく変更の可能性あり

ぜひ、ご覧ください。
という番宣でした!

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