TENETネタバレ感想

観ることができてよかった、と心から思えた映画だった。

まずはジャブ的に技法に関する感想。暴力的なシーンが徹底的に「視覚情報としては控えめだけど何が起きているかわかる」ように撮られているのがすごく好印象だった。痛いシーン、見れなくはないけど、出来ればあんまり観たくない方なので、暴力的なシーンの描写だけは小説的だな〜と感じた。ペンチで歯を抜かれるシーンも、金属で殴られるシーンも、しっかり見えないようなアングルだったり音を遠くして体感を敢えて下げていたりして、そこまで苦痛を感じなかった。スプラッタ映画だったらそういうシーンこそしっかり痛そうに描写したとおもうけど、TENETはそういうシーンを味わうことが目的ではないのだというメッセージなのかもしれない。ありがたかった。

逆行シーンは曲が逆再生になっているのがすごくわかりやすくてそれもありがたかったな。サイエンスフィクションのことはよくわからないなりに色々考えていたけど、パラレルワールドは存在しないのに映画の着地点として過去のセイターが死んでおしまいというのは……なぜ?とは今でも思っている。難しいな。パラレルワールドがないなら主人公の今生きている現時点でのセイターも消えることになるとおもうけど、そうなるとカーチェイスやキャットへの発報も起きなかったことに……ならんか……?ならんのかな……そこだけがよくわからなかった。でもまあ細けえことはいいんだよなのかもしれない。わたしはSFオタクではないので、全然それでもいい。

作中ほとんどの時間、キャットの気持ちとセイターの行動に意識を持っていかれていたけど、いちばん怖かったのはベルト鞭チラつかせるところだったな。普通に喋っていたのに突然声を荒げるのも恐ろしかった。他人を支配してきた人間の行動ここに極まれりという印象だった。はやくしんでくれ……と願うようなキャラクター造形として見事だった。

キャットも、ベルト鞭をちらつかされた時点で黙らずにキャンキャン言うあたりの行動が、もはやひどいことを確実にされるならいっそ言いたいことを言って暴れるしかないよなというのがわかって痛々しかったし恐ろしかった。こわくて仕方がないのに噛み付くのをやめないの、ほんとうに描写がえぐかったな。えぐい。あそこで叩かれなかったのすごくほっとしてしまった。こわすぎる。

さいごのさいごでキャットが安全を確認できる前にころしてしまったの、作戦がすべて台無しになるリスクを考えるととても許されることではないという最悪の行いではあるんだけど、それはそれとしてやっぱり自分の手でこの男に後悔させたいみたいな意思が感じられてよかったな。ほんとうに作戦が台無しになる可能性がありましたけどね!? それでも、そりゃ、やっていいよなもう……いっそ世界がめちゃくちゃになってもやりたかったことだと思うので、そこはもうね、あの作戦を彼女に任せた方に落ち度があると言ってもいいのかもしれない。どんなに理性があっても正論をぶつけても女は感情で復讐をするよ。ほんとうにそうおもうよ。

復讐をやり遂げたあとの冷たい視線があんまりにもサイコーだったので他の何もかもが吹っ飛ぶくらい良かった。イカレた女だとおもいます、キャット。

そしてキャットが精神が乱れるほど憧れた、すべてを投げ捨てて海に飛び込んでしまえる女が自分自身だったという流れ、さすがにシビレ倒した。見事なり。あの車での怒りがこう終着するの、美しすぎる。

セイターも自分が支配して他人を裏切って生きてきたからこそ妻が浮気をしていないということを信じられなかったのだろうな〜とおもうと自業自得とは言え悲しい男だな。あの性格だと画家とのことがなくてもどの道どこかで妻を支配する生き方を選んでいたとおもうが。

そして映画の終盤に明かされる、ニールの……いや途中のやりとりでニールのボスって主人公なんだろうなとは大体の視聴者がうんうんとわかっていたところではあるとは思うけれども、それでも……それでもなお、ヘッドショット……。そんなの……。あんまりだろ……。作戦中、ニールが慌てて車のクラクションを鳴らしたりしているあたり、自分があのように死ぬのだと言うことまでは明確には知らなかった(TENETの常套句としても知らないことが勝ち筋というのがあるわけで)とは思うけど、この作戦が終わったら自分が死ぬことはよくわかっていたんだよな。そんな話をそもそも道中でもしていたもんな……。でも自らの終わり方はきっと知らなかったとおもう。TENETの作戦、知らないことをはじめて知った時に取る行動を鍵としている気がするから、細かい事象は知ることがないようにしているとおもうし。でも……。

起こったことは現実だからしかたない、でブルーチームの作戦に戻れてしまうの、ほんとうに……。この世界からすれば過去で、今の自分からすると未来で、そこに自分の終わりが確かにあるのに向かってしまうの、ほんとうにさ。あんまりだよ。あんまりだよ……。自分自身にはまだ起こっていなくても、過去には確かに起こった出来事で、その行動があったから今がつながっているから、向かうしかない……いやでも義務感ではないとおもうんだよね。それが命令だから、という理由ではなく、ここで終わりに向かうことが自分たちの友情であるとはっきりと言ってくれたの、そこには作戦や義務を超えたニールの感情があるというのがわかって、びりびりとする。さいごのやりとりの、言葉のチョイスがすばらしすぎる。すべての言葉が染みる。本当に……本当にね、だってそれは、それはさ。これを愛と呼ばずになんとするか。真面目で聡明で少しお茶目な青年という印象ばかりだったニールという人間の、大きくてあったかい心がいきなりすべて種明かしされるの、脳みそぐわんぐわんになる。

これから主人公はこの出来事を知らないニールとまた出会って、さまざまな作戦を言い渡していくようになるのか……とおもうと、もうなんか、ぜんぜん……わからん……めちゃくちゃになるだろそんなの。でもニールの友情を裏切るわけにはいかないから、作戦の全てを完遂するのだろうな。

ニールが死なない未来はないのかと遠回しに尋ねた時に、それをやんわりと断るニール、すさまじすぎる。なんなんだ。なんなんだよ……。きっと本当はどこかに、自分が死なずに作戦を終えられる可能性があるかもしれないと、ニールだってわかっているとおもうけど、それを試すにはリスクがあまりにも大きいんだよな。せっかくやっとのことで成功した作戦を投げ捨てる理由がニールにはなくて、そんなニールの意志と友情を尊重するためには、主人公はやはりニールを死地へ送り出す作戦を立てなければならないのだな。あんまりだよ。めちゃくちゃになる。

ニールが主人公の仕事中の好みの飲み物を知っていたのも……今思うと、あああ……ってなってしまうな。未来でしっかり仲良かったのだろうな。ニール……どんな気持ちで。作中はキャットとセイターのことばかり考えていたが、映画が終わった今、ずっとニールのことを考えている。

自分のなかのめちゃくちゃな感情をまとめたかったけど、難しいな。TENET、本当にすばらしい作品を浴びた。おすすめしてくれた人、ありがとう。ありがとう。胸に刻まれました。

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