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フリーライブなど

 桜って、すぐに散っちゃうところがいいんだよな。花見っていうのは、ほんの少しの風にさえさらわれてしまう桜の花の───ひいては、人間という存在の───儚さや無常を眺めながらアルコールで感情を丸一周ブーストさせてケタケタ笑ってしまおうという催しだと捉えております。「いや、この瞬間も世界は刻一刻と移ろっているんかい!」があのレベルで可視化されてる自然の現象ってあとは朝焼けと夕焼けくらい?大人になると、綺麗なものを見るとどうしても泣きそうになる。たとえば、花、星、海、そして何より、キミのこと……(ここで皆さんのスマホからホイットニーヒューストンのエンダァァァ-イヤァァーの曲かけてください)。そういえば広島で入場無料のワンマンライブをやってきた。元々、再思三考ツアーで現地を訪れたとき、俺の体調があまりよろしくなく、どうも納得いく演奏が出来なかったので、周囲の反対を押し切ってもう俺が自腹でやるから!とイベントを丸ごとやり直したのだ。レーベルの金とかじゃなく自腹でやると言い切った事実はこの際、特に強調しておきたい。顔がIKKOとKABA.ちゃんにキッカリ半分ずつ似ていることから、かつて友人たちの間で“伝説のオネエ”と恐れられていた俺のあまりに漢らしい一面が垣間見えるエピソードかと思う。経費削減もあって最小限の編成で朝からハイエースで出発し、みんなで楽器だのアンプだのを積み下ろして、ライブが終わったらアザーース!!と叫びながらライブハウスを飛び出し夜通し走って帰路につく、という過密スケジュールではあったものの、無料ライブということもあってむやみな責任感もなく───そのせいで逆に肩の力を抜き過ぎたきらいはあるが───久しぶりにバンドやってるなぁ~って感じで、俺はけっこう楽しかった。なんか普段はギスギスしがちなメンバー間の空気も割と良くて、終演後の楽屋でも「お前あの曲でドえらいミスしてたな~w」とか言い合いながら笑ったりして、大学のサークルで出会った頃にちょっとだけ戻れたような気がした。無料でやり直す!ってステージ上で俺が勝手に宣言しちゃった時は、意味ないよ、とか周りに半ば呆れられながら言われたりもしたけど、結果的には、やっぱりやってよかった。別に「それみたことか!」とか言いたいわけじゃない。むしろ制止した方がいいと俺も思う。でも、とりあえず、やってよかった。フリーライブ、いいね。金持ちになったら、もっと、毎月でもやりたい。なんていうか、アホみたいやけど、高い金取って、さぁアーティスト様のご登場にござい、と鳴らす音楽より、居酒屋の壁に立てかけてあった弦の足りないアコギで客のおっさんがいきなり歌いだす調子っぱずれの長渕剛、みたいな形の音楽が俺はどうしても好きだな。教養がないもんで、すんません。でも金取らないと金持ちになれないからフリーライブもできないんだよな。無常。でも、たまにのことだから、やってよかった。普段のイベントも来てね。そんな感じ。

 そうこうして広島を出発したハイエースの車内BGMのセレクト権は助手席の俺にあり、しばらくはニッチなアニソンなんかを流してメンバーとあーでもないこーでもないと各々のアニメ論を戦わせて盛り上がっていたが、会話にも疲れ、シートにもたれかかって眠る者もいる中、神戸を過ぎたあたりで、何となくふと思い付きにゆらゆら帝国の“空洞です”というアルバムを頭からかけた。その日は全国的な大雨で、深夜の高速に降る雨はカーステレオから流れる“おはようまだやろう”に合わせて窓を叩いている。まだやる?いや、できない。あえて抵抗しない。つまるところ人はみんな、ひとりぼっちの人工衛星で、空洞です……なんか、むかしからそんな、ちょっと脱力したような曲たちが好きだった。そんな矢先にベース・亀川さんの訃報。気にしすぎかもしれないが、何かに巡り合わせたような、そうでないような。いずれにせよ、ご冥福をお祈りいたします。

「できない」 「あえて抵抗しない」


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