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10/13~17 ツアー北海道編:Part2

 北海道は新千歳空港に降り立ったはいいが、空港から我々の目的地である札幌駅まではバスだか電車だかで一時間以上かかる上に交通費も一人当たり1,500円以上かかるという。メンバー・スタッフを含めた人数で移動するならレンタカーを借りてもさして値段は変わらない上に今後の行動や機材の運搬にも融通が利こうということで、空港にあったレンタカーの受付を承るカウンターに駆け寄り「この店で、イッチバン““疾い””クルマ貸してください」と高らかに宣言したら偶然ついさっきキャンセルで枠が空いたということで通常と大差ない値段でスポーツカー的なやつを借りれることになり、北海道に着くなり幸先の良さに笑ってしまった。あまりの幸先の良さにテンションが上がって受付のお姉さんが「バンドやってらっしゃるんですね!なんてバンドですか?」と聞いてきた時とっさに「エルレガーデンっていいます」と宣言してしまったがとにかくそれくらい幸先が良かった。そういえば数年前、何かの打ち上げで大阪の焼き肉屋に行ったとき、酷く泥酔して店内でここに書くと怒られそうな類の迷惑行為を働いていたら店員に警察を呼ばれ、怖い顔をしたお巡りさんたちにお前ら何かバンドとかやっているのか、何というバンドだ、と真剣な顔で尋ねられた時も「エルレガーデンって言います……」と名乗ったことがあるが警官たちは持参の手帳みたいなやつに「エルレガーデン」とか何とかメモしたあと「迷惑だから大人しくしなさいよ」的なことを言い残して去っていったので世間の人は案外バンドというものに無知であり、外でかなり無茶な嘘をついても滅多にバレないということがわかる。というか俺は事あるごとに外でエルレガーデンを名乗っているのでエルレガーデンの人たちに申し訳がない。悪気も何もない単なる出来心ではあるもののいざとなれば本人たちから怒られる覚悟はできている。とはいえ、罪を憎んで人を憎まずと言うように、俺にだって心があるので怒るといってもこの件と直接関係ない罵倒や人格否定は勘弁頂きたい。エルレを騙ったことについて怒られるならともかく、怒りのはずみで彼らが留年の事とか未だに親に携帯代払ってもらってる事とかにまで触れ始めたら如何に相手が今まで散々迷惑をかけたエルレガーデン(本人)といえどこちらもブチギレざるを得ないだろう。何しろ、留年とかそういう話は今回の件と一切、全く、何の関係もないのだから。世の中には一度何かにキレたはずみで関係ないことまで全部さかのぼってキレ始めるやつが多すぎる。女などはまったくその典型だ。いくら俺が悪いからといってもあまり調子には乗らないで頂きたいものだ。女ども、俺の怒りを深く胸に刻んでおけ。ふざけるなよ、女。いいか、お前らのような徳の低い存在は死んだら一人残らず地獄へ行くんだからな。それを忘れるんじゃない。ふざけやがって。おい、何だその顔は。わかったか。わかったのかと聞いている。そうか。わかったなら帰ってよし。もう遅いので気をつけて帰るように。またラインする。お疲れ。

 空港から専用、直通、かつ無料のシャトルバスに乗り、数キロほど離れた場所にあるレンタカー屋の店舗へ。有識者たち(免許を持っており、かつ飲酒をしていない連中)が店舗の受付で配車の手続きを進めている間、俺はカイトが街でヤンキーに絡まれた時のために最近編み出したというオリジナルの必殺技コンボを見せてもらっていた。彼の解説によると、街で理不尽に絡まれたらまずは簡単なジャブでヤンキーをひるませ、間髪入れずに“ウォーハンマー”なる、固く握った拳をハンマーの如く相手の脳天に振り下ろす技で相手をかがませ、とどめに“烏龍(ウーロン)”と名付けられた強烈な後ろ回し蹴りを顔面にお見舞いするのだという。彼なりの実演も込みでコンボの流れを丁寧に見せてもらい、「ウーロンはうんこを踏んだ靴を履いてる状態で繰り出すと“うんロン”という上位互換の技になります」などの補足知識まで教えてもらったが、一から十までうるさかったので完全に無視した。店員さんの「それではご準備できましたので……」というカットインに従って店の外に出てみると、ちょっと目を離した隙に空港周辺の雄大な空のすべてが夕焼けに覆い尽くされており、先ほどのカイトによるくだらない必殺技開発話のあとですっかり油断していた俺はそのあまりの唐突な美しさにしばし絶句してしまった。間抜けな顔でポケットから携帯を取り出して空の写真なぞを二、三やってしまった程である。夕焼けも、朝焼けもそうだが、何かが始まったり、終わったりする光景というのはどうしてこうもしたたかに人の胸を打つのだろうか。それは音楽も、旅も同じことだろう。店員さんから車の説明を聞いたりトランクに機材を積み込んだりしている間に夕日は西の空へ沈んでしまった。次は一体、何が始まり、そして終わるのだろう。助手席でシートベルトを締め、今一度さっき撮った写真を見返してみる。車は機械に明るくない俺でもそれと分かるほど屈託のない加速をみせつつ、札幌へ向かう高速道路のインターチェンジを通過したところだった。


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