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Nesting β1棟目オンライン内覧会

2021年11月27日、VUILDと、共創型戦略デザインファームのBIOTOPEの2社が協業しリリースした、デジタル家づくりプラットフォーム「Nesting(ネスティング)」を使った家の第1号が竣工しました。

場所は、北海道の東に位置する川上郡弟子屈町(てしかがちょう)。東は摩周湖、西は屈斜路湖に挟まれ、豊富な温泉が湧き出る人口約8000人の自然豊かな町です。今回の施主である濱田優貴さんは、そんなこの土地に惹かれ、2年前に土地と別荘を購入。定期的に訪れる他、Airbnbなど民泊施設としても貸し出しを行っています。

今回濱田さんは、別荘のすぐ隣にある広い土地を使ってNestingでの家づくりを行いました。元々VUILDの代表・秋吉浩気と交流があったという濱田さんは、なぜNestingを使って新たな家づくりをすることにしたのでしょうか。また、理想の家づくりに込めたこだわりとは何でしょうか。それらを改めて紐解くべく、記念すべき第1号の施主である濱田さんと秋吉との対談を行いました。

本記事とは別に、内覧会の様子を纏めた動画を作成致しました。文末に記載のフォームよりお申し込みいただいた方に限定してお送りしますので、是非お申し込みください。

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▶︎Nestingについては詳しくはこちら

──Nestingの話の前に、おふたりの関係についてお伺いします。元々交流があったとのことですが、いつどんなきっかけだったのでしょうか?

濱田優貴(以下、濱田):僕は元々建築が好きで、建築の未来ってこれからどうなるんだろうかということを色々と妄想していたんです。それで新しい取り組みや面白い人を検索していたなかで秋吉さんを見つけて、Twitterをフォローして、そこからやり取りが始まったと記憶しています。

秋吉浩気(以下、秋吉):たしか2019年、まれびとの家が雑誌の住宅特集に出ていて、それを見てフォローしてくれたんだと思いました。なんで興味を持ってくれているんだろうと思い、川崎にあるVUILDの事務所に来てもらいお話したのが最初ですね。まずは熱海で家を作るプロジェクトを依頼して頂いて、いまも設計を進めているのですが、Nestingをリリースしたときにも興味を持ってもらって、並行して弟子屈での家づくりも進めようという話になりました。

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左からVUILD代表・秋吉と施主の濱田優貴さん

──濱田さんは、当初からVUILDをどんな存在として認識していましたか?

濱田:デジタルファブリケーションを使って建築物を作っている存在って、単発のプロジェクトではあると思うんですけど、施工や制作まで踏み込んで本格的にされているので、いまのところ日本では唯一無二の存在だなと。だから最初から、デジタルで作られた新しい建築物に興味があったし、自分自身もその建築物のなかに入ってみたいし作ってみたいと思っていました。

もともとこの土地に在来工法で安く建物を作りたいと思っていて、設計までしていたんです。でも在来工法で普通のものを作ってもあまり面白くないかなと思い、そんなときにNestingの話を聞いたので、これを使ってやってみたいなと。まだ前例がなかったので、人柱になってやろうじゃないかと(笑)。

──Nestingでの設計が進んでいくなかで、どんなところが新しく、面白いなと感じましたか?

濱田:まずはデジタル上で自分で描いたものが実際にこんな構造体になっていくんだということに驚きましたし、単純に面白いなと感じました。

秋吉:作り方はもちろんですが、今回は性能面も濱田さんの強いこだわりが詰まっています。熱海やもう一つ他で進んでいる物件でも、光や音、熱など、人間が根源的に持つ心地よさを追求していく濱田さんのこだわりがあって、そういうところに敏感な方なんだなあと。

濱田:こだわり始めたもともとのきっかけは、大気中の成分数値を測定できるガジェットを買ったことなんです。それを家に置き始めたら、意外と部屋の中の空気ってムラがあったり、しっかり換気されていないと特定の数値が上がったりするんだなと。それを観測しているうちに、もっと人がより良く暮らせる環境って作れないかなと思ったんです。

今回の家には「ヴェントサン」という全熱交換器が設置されていて、別の場所に設置しているセンサが二酸化炭素濃度の上昇を感知すると、家の中の空気を自動で入れ替えてくれるものを導入していたりもします。そういう空間ができたときに、ここでの過ごしやすさや体験はどう変わるのかはすごく興味があります。この場所は冬になると外気温はマイナス20℃にまで下がることもあるので、いかに熱を外に逃さず換気をできるかをVUILDさんとキャッチボールしながら考えた設計になっています。

VUILDさんはよりエンジニアリングが進んでいる会社なので、僕が思う問題に対して、定量的かつ科学的なアプローチから解決しようとしてくれるのですごくやりやすかったですね。

秋吉:濱田さんからは学ぶことのほうが多くて、そういう人が持つ理想を叶えるためにはどうすれば良いんだろうというのはこれからも考え続けていきたいなと思います。まれびとの家のときは予算もなかったので、十分な断熱は実現できなかった。冬の外気温がマイナスになる弟子屈の家づくりをやらせていただくことになったとき、今度は断熱性など性能もこだわりたいと思っていました。通常の角材だと決められた大きさの規格があるので断熱材が入らなかったところを、今回は十分な断熱性能を担保できるような懐の深さがあるのが工法的な特徴のひとつです。

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エネルギー消費量の低い家づくりというのは、濱田さんと僕らが目指す家づくりの共通の方向性。外はマイナス20℃の世界だけど、エネルギーロスを減らしてエネルギー出力を最小限にするために、東京理科大の高瀬先生にシュミレーションしてもらいながら、結果として暖房温度を最低にしても十分暖かい空間になりました。この家で外に熱を逃がすのは、出入り口の金属の取っ手くらいじゃないでしょうか。

また、給湯も濱田さんのこだわりで、温水には自然に湧き出る温泉をつかい、水は井戸水。水質にもこだわりがあるので、純水を生成するこができるRO浄水器を導入しています。

濱田:きれいな水をペットボトルで買うよりもゴミは減るし、美味しいし良いんですよね。井戸水も飲めるんですけど、いつ何かあったときのために水道はオフグリットで。ガスもない。電力はエアコンと室内照明だけですね。

秋吉:リビングスペース全体の床下50cmが魔法瓶のような断熱された空洞になっていて、いまエアコンはその下の空洞に向かって風を送っています。するとその熱が床を暖めることができる上、さらにその温風が部屋全体を巡るので結果的にエネルギー出力が最小でも十分暖かい。浴室の床下には1.5mほどの空洞があり、そこに蓄電池が入るのでソーラーパネルも設置すれば電力もオフグリットが実現できます。

濱田:水道も電気も引く気になれば引けるので、ここは幸いインフラは整っている場所。今後インフラが整っていない場所で家を作りたいとなった場合でも、完全オフグリットで作れることがわかりましたね。

秋吉:濱田さんがいまお住まいの家はスイッチがまったく無く、すべてアレクサを通じて管理されているんです。テクノロジーの進化により住まいのあり方も変わっていくなかで、未来の暮らし方を実践されている方なんだなあと。この家もスイッチが無く、コンセントもすべて見えない位置に設置されています。Nestingでも勉強させていただきながら、新しい暮らしを実践できるような住環境を作れるようにサポートしました。

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──通常の建築と異なる点はどんなところでしょうか。

秋吉:Nestingではアプリ上で自分の家を描くことができるんですが、今回の家も濱田さんに描いてもらったもので。建築家としてやってきたことと異なるのは、できる限り濱田さんに主体性を持ってもらい、僕らはそれをサポートするようにしたことでしょうか。上棟のときも来てもらったのですが、完成したものを見るだけでなく、できるまでの試行錯誤しているプロセスも共有しながら進めていきました。

濱田:デジタルで設計してルーターで切り出してそれを組み合わせる、そのプロセスのイメージは湧くんですが、実際には結構広い敷地でモノができていく過程を見ると「意外と大変なんだな」というのが正直なところです(笑)。やってみてわかることって、頭で想像しているよりもたくさんあって学びも多く面白かったです。一方で、切り出した木材を自分たちだけで組み立てるのはまだ難しそうだなと。

秋吉:自分たちで構想することが何よりも大事。実際のところ、ユーザーが自分たちの手で組み立てることはそこまでみんな求めていないんだなということは、この半年でよくわかりました(笑)。「自分で考えて作った」と思ってもらうことが大切ですね。

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──濱田さんの頭の中にあった理想の何%が、今回実現できましたか?

濱田:100%です。できなかったことは挙げればきりがないし、ものづくりってそういうもの。

秋吉:いつもものづくりをやっているからこその寛容なコメントだと思います(笑)。サポート側としてはもっとできた部分もありますけど、通常の家づくりだと約1年くらいかかるところを開発から半年で作るという点では、できることはやりきれたかなと思います。

──オフグリットの話もありましたが、今回の家はどんな使い方を想定して作られたのでしょうか?

秋吉:窓を広く取りリビングをL字型にしたのは、シェフを呼んでみんなで食事をしながらくつろげる空間にしたいという濱田さんからの意見を反映したものです。バルコニーも広めにとっていて、そこでバーベキューができたり、みんなでのんびり過ごせる空間を希望されていたかなと思います。

濱田:あとはサウナ。まだできていないんですが、庭に2階建てのサウナを作る予定で、あと半年後くらいにはできる予定です。将来的には庭に池や川も作りたいなと妄想してます。

秋吉:今回ベッドルームがロフトの上で、あとは食べる空間になっているのが結構面白いなと。熱海のほうは一人でこもって仕事する空間もあるので、こもりたいときは熱海、みんなでわいわいしたいときは弟子屈、なんてふうに機能別で切り分けられるのも良さの1つですね。

濱田:いま民泊として貸し出すようなことを複数箇所で、仕事半分趣味半分でやり始めています。ここはまだ竣工しただけなのでより快適な空間としての作り込みは必要ですが、もちろん自分でも定期的に訪れつつ、ゆくゆくは貸し出せるようにしていきたいです。また、今回は自分にとっても実験のような取り組みなので、未来の住まいを考えるときにこんなことしたら面白いかも、ということを実証実験するような場としても使っていきたいですね。

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──VUILDにとって、Nestingでの家づくりで難しかったところはどこでしょうか?

秋吉:デジタルファブリケーションで構造を作れるとはいえ、構造体ができて以降は結局アナログなコミュニケーション。デジタル化できない部分、工務店さんとの現場のやり取りは通常のプロセスになる一方で作り方が通常とは異なるので、工夫してコミュニケーションしていくことが大切だなと思いました。できる限りアナログの誤差がでないようにデジタル上で担保しなければいけないという点は新しく関心が出たところですね。

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──Nestingを、今後どんな人に使ってほしいですか?

濱田:作り方だけじゃなくて、家としての性能も普通の住宅と比べても高いと思います。いままでにない構造というだけあって、空間もユニークだし自分の好きなことを実現できる。今後高い天井を区切って2階を作ることもできるし、増築も可能。自分の好きなように増改築できる柔軟性があるので、「こんな家を作ってみたい」という意志が少しでもある人にはおすすめですね。

秋吉:平面的なバリエーションのみならず、立体としてもバリエーションが多い。作り手側としてもどんなものができるのかがとても楽しみです。ハウスメーカーはテンプレートが限定的なことが多いし、建築家に依頼する場合は時間がかかる上コストが不透明。Nestingでは、金額や質感をみて、アプリ上でプロトタイピングしていくことができるので、納得感を持って作ることができるのが特徴ですね。

アプリはあくまでも、キャッチボールを促進していくもの。相手が作りたいものをアプリを使いながら引き出していく。一緒に作っていくことが、Nestingの価値です。これからはNestingをつかって家を建てる人だけでなく、その周りで応援する人や手伝うひとがいたり、周辺の建物が増えたりなど、コミュニティを作っていくこともやっていきたいと思っています。

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──これからNestingがやっていきたいのはコミュニティづくり?

秋吉:自分たちは設計者であり、エンジニア集団。ものづくりはできますが、これからはそのモノを通じた体験価値づくりが重要だと考えています。Nestingの本質は、自分たちの「巣」を作っていく楽しさをサポートしていくこと。なので、リアルなコミュニティを作っていくことは今後やりたいことのひとつです。

また、プロダクト開発と並行して、住宅のファイナンスも考えていきたいと思っています。いまは家を持つとき、一括支払いかローン、賃貸くらいしか選択肢がない。現在他のプロジェクトで進めているような、組合制度のように個人が資金を持ち寄ってひとつの住宅を作り上げていく仕組みができると、家を買うときには住宅ローンほど負担が重いものではなく、かつ資産としても残るようになっていく。

住民たちは自らで投資し、増改築などし住まいを育てていくことで資産価値を上げ、かつエネルギーコストがプラスになっていくような機能を作っていく。それがひろがっていくと、家づくりはもっと身近で楽しくなるし、ひいてはまちづくりにまでも広がっていくんじゃないかなと思っています。

濱田:3Dプリンタ含むデジタル技術により、住宅コストが今後10年くらいで変わっていくでしょう。すると、Nestingを通じて家づくりがもっと面白くなっていくはず。アジャイルでモノづくりをしたいひと、新しい家のあり方や家の持ち方を探求したい人たちがもっとカジュアルに建てられて、アップデートできるような存在になっていくといいですね。

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▶︎Nesting βについてご関心をお持ちいただけた方は、こちらからお問い合わせください。お問い合わせいただいた方にはスペシャル特典として、本記事の映像版+オンライン内覧会映像を特別にお送りいたします。

施工・竣工写真共に撮影:Hayato Kurobe
本記事2枚目俯瞰写真撮影:toha
インタビュー写真/アプリを操作する写真共に:toha制作の動画より抜粋


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