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転載:笑顔が増えた高校球児

yahoo!ニュース個人(2013/9/1)の記事からの転載です。

今読み返して思うことを3つ

■技能五輪の支援を始めたばかりの頃に書いた記事です。「緊張する場面で何をするとよいのか?」について情報をあつめ、分析する中で書いたものでした。
■「なんでポジティブじゃないといけないの?」「緊張してる場面でポジティブになんかなれるわけ無いじゃん」という疑問に、科学的にどうこたえられるだろう?ということを考えていた気がします。
■臨床心理学の方法では「考え方を変える」ことが大事とされますが、それが難しい人もいます。もっと直接的で簡単にできる方法はないかな?と探している中で、「広角を上げて笑顔を作ると、気持ちも一緒に変わる」ということにたどり着きました。


以下、本文です

前橋育英高校の初優勝で幕を閉じた夏の甲子園大会。「笑顔」のフレーズを聞く機会が多かった大会と感じました(たとえば、帯広大谷の角、3安打2打点 敗戦にも笑顔:朝日新聞電子版8月10日)。かつての高校野球では、笑顔はほとんど見られなかった気がするので、時代の変化が感じられます。しかし、笑顔が多い今の高校球児が、20年前の球児と比べてふざけているわけでも、真摯さが足りないわけではないと思います。そもそも、緊張する状況で笑顔を作るのは、実はけっこう難しいことです。人前でしゃべるとき、顔が引きつった経験をお持ちの方もいるでしょう。だから、彼らの笑顔は緊張してもちゃんとコントロールできるよう、トレーニングを積んだものだと推察できます。では、そこまでして笑顔になるのはなぜか。今回は笑顔の心理学的意味について考えてみたいと思います。

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突然ですが、この3つの単語から、どんなことを連想しますか?多くの人は、チーズが浮かんだのではないでしょうか。これはRATと呼ばれる検査の1項目で、主に創造性を測定するために使われるものです。比較的簡単な組み合わせから、「ダイビング、青、ロケット」のように、少し考えてみないとわからない組み合わせまで(スカイが共通。スカイダイング、スカイブルー、スカイロケット=打ち上げ花火)、さまざまな組み合わせをみて、共通するものを連想します。

楽しい気分の場合、この検査の成績は良くなるようです。ドイツの研究チームが、楽しい気分の人と悲しい気分の人の成績を比べました。すると、楽しい気分の人は、悲しい気分の人と比べて、かなり成績がよかったようです。

楽しいをはじめ、嬉しい、面白いなどのポジティブな気分は、さまざまな効果を持っています。たとえば、心拍数を低下させるといったリラックス効果や、アイディアをたくさん思いつきやすくなる効果、物事をより広い視野で捉えられる効果などです。

そして、ポジティブな気分になるためのスイッチの一つが、笑顔だと考えられます。身体と気分は関連していて、身体の動きによって、気分が変わることもあります。たとえば呼吸法をつかって長めに息を吐くと、リラックスした気分となります。似たような仕組みが笑顔にもあり、笑顔になるとポジティブな気分のスイッチが入るのかもしれません。実際、笑顔になると、目の前の問題を「簡単に乗りこえられそうだ」と考えやすく、実際に問題解決の成績があがるそうです。この考えを認知容易性が高い状態といいますが、認知容易性は鉛筆を口にくわえるなどして頬の筋肉を動かした「意図的な笑顔」でも高まることがわかっています。問題解決という点では、自然な笑顔でなくても、一定の効果はあるといえるかもしれません。

「意図的な笑顔」は、スポーツのメンタルトレーニングで広く実践されている方法のようです。こうした笑顔の意味を考えたうえで笑顔な球児の頭の中身を想像すると、もしかしたら次のようになっているかもしれません。追い込まれて、あるいは逆転されさらにピンチな球児。悲惨な結果が頭に思い浮かぶ場面です。そこで、笑顔。すると認知容易性が高まり、「この状況を乗りこえられる」と感じます。広い視野で考え、悲惨な結果以外も想像できます。ピンチを切り抜けるアイディアがうまれます。身体が固くなりすぎず、適度にリラックスでき、持っている力をよりよく発揮できる準備が整います。良い直感が働き、一番良い方法を選択して、その場を乗りこえます。

笑顔は万能じゃない

もっとも笑顔やポジティブ気分は万能ではありません。たとえば、ポジティブな気分だと十分考えず安易な選択をすることもあります。反対に、緊張や不安といったネガティブな気分の人は、情報や状況をより慎重に、正確に熟慮するといわれています。

また、無理にポジティブを続けることのマイナス影響も指摘されています。「喜んでいない笑顔」といわれる感情を押し殺した笑顔では、感情不協和が起こり、ストレス反応が高まるようです。だとすると、接客などで気持ちに反してずっと笑顔を続ける人は、仕事のストレスがより高まってしまっているかもしれません。感じたままに表現できる場もあるとよいですね。

実際には私たちは、ポジティブだけ、ネガティブだけということはなく、混じり合った気分で生活しています。球児たちは、想像を絶するような負荷のかかった状況で、気分のバランスを調節し、ネガティブになり過ぎないようにするために、意図的に笑顔を作って感情コントロールをしているのかもしれません。一方、プロで試合中笑っている選手はほとんどみかけません。人は成長の過程で、身体をつかってやっていたことが、頭のなかだけでできるようになっていきます。たとえば指を使った計算などがそうです。そんな感じで、高校球児の笑顔は、彼らが精神的に成熟していく過程を垣間見せてくれるものなのかもしれません。

-参考にした書籍-

□感情心理学・入門 大平英樹編 有斐閣

□ファスト&スロー上 ダニエル・カーネマン著 早川書房

□3:1の法則 バーバラ・フレドリクソン著 日本実業出版社

□交渉の心理学 佐々木美加著 ナカニシヤ出版

□基礎から学ぶ!メンタルトレーニング 高妻容一著 ベースボールマガジン社

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