工程の量:競技課題の負荷
一言でいうと
競技課題がワーキングメモリに与える認知負荷の内、工程の量の負荷です。
競技課題の全体的な工程数や、各工程内での工程数などの量でで、2つに分かれます。1つは客観的な工程の量です。誰が見ても多い、少ないと感じる量のことです。例えば3工程で完成するものと比べて、5工程のものの方が多いことになります。
もう1つは主観的な工程の量です。人によって多い少ないの感じ方が変わるもののことです。例えば同じ5工程で出来上がるものでも、初心者はそれを「多い」と感じ、熟練者は「少ない」と感じることがあります。
要素の量との関係では、工程は入れ物、要素はその中に入っている部品のようなイメージです。工程は職種や企業によってセクション、フェーズ、モジュールなどと呼ばれることがあります。
何が負荷になるのか?
工程の量が多いと、ワーキングメモリの容量を多く消費します。人が一度に覚えておける量(短期記憶)はおよそ7つと言われています。これが、何か作業しながら覚えておける量(ワーキングメモリ)となると4〜5になると言われています。工程の量が多いほど、技能者が作業中に覚えておきながら作業する時間は増え、ワーキングメモリに大きな負荷がかかります。負荷が限界を超えると、忘れたり、やり間違ったりが、増えてしまいます。
初心者と熟練者の違いは?
初心者
要素の量と同様、初心者はその分野の知識(領域固有知識)や、その知識を入れておく引き出し(スキーマ)がまだ未熟です。そのため、あまり多くの工程を頭に入れておくことができません。比較的少ない工程の量でも、ワーキングメモリが圧迫され、次の工程を忘れてしまったり、工程を飛ばしたりします。
熟練者
熟練者はその分野の知識(領域固有知識)や、その知識を入れておく引き出し(スキーマ)が発達しています。
そのため、いくつもの工程を1つのパターンとして覚えておいたり、既に持っている引き出しから取り出したりすることができます。ドラえもんの四次元ポケットのように、容量制限なく記憶できるようになることもあります(長期ワーキングメモリ)。
例えば客観的には3つある工程が熟練者の主観では1つと認識されたり、特に意識しなくても次の工程を思い出すことができたりします。
その結果、工程の量が多くてもワーキングメモリがあまり圧迫されず、速くて正確な作業に集中することができます。
日常ではどんな場面で起こる?
初めての場所に行く時に、何時の電車に乗って、どこで降りて、どの改札から出て、どちらに向かうかといったことを考えながら行いますが、これが工程の量に相当します。その中での一つ一つの判断にワーキングメモリを使うので、疲れます。
慣れてくると、行き方を特に考えなくても、できるようになります。初めてのときは何工程もあるように感じたことが、「その場所に行く」という1つの工程にまとまります。客観的な工程の量は変わりませんが、主観的な工程の量は減っていることになります。
仕事に置き換えると、プロジェクトやものづくりのプロセスでも、同じようなことが起こります。
チェックの仕方
自分が何かの作業やタスクに取り組んだ時を振り返ります。
そしてこの認知負荷を、
「1.少ない~5.多い」の5段階で回答します。
※私たちの認知負荷は、Swellerらの提唱する認知負荷理論に基づいています。
Sweller, J., van Merriënboer, J. J., & Paas, F. (2019). Cognitive architecture and instructional design: 20 years later. Educational Psychology Review, 1-32.
※認知負荷理論では、認知負荷を課題外在負荷、課題内在負荷、課題関連負荷に分けていますが、私たちはの測定では、これらを区別していません。その理由として、外在負荷と内在負荷の分類が、学習教材やカリキュラム作成等に資する知見を得ることを目的として行われていること、技能五輪の競技課題においては両者の区別が職種依存的で困難なこと等があげられます。
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