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劇団やきそばグランギニョル旗揚げ公演「人生に向いてない」 (未完)

【一幕】 

▼一場 修学旅行一週間と一日前の夜(日曜) 

 明転。 
 和室の居間。 
 ちゃぶ台を囲んで危々子ききこと父母が座っている。 
 危々子はセーラー服、父母は父母らしい格好である。 

危々子 ……修学旅行、行っていい? 
母   いつ? 
危々子 来週。来週の明日から、三泊四日。 
母   どこ? 
危々子 京都。 
母   なるほどねえ。危々子、京都は鬼が出るんだよ。 
危々子 え? 
母   お母さん見たことあるの、京都でね、鬼が人食べてるとこ。昔京都に住んでたから。怖いよ。 
危々子 お母さん、ずっと東京じゃなかった? 
母   怖いよ京都は。行かない方がいいんじゃない? 
危々子 いや……でも昔、行ったじゃん……小さいとき旅行で一緒に……京都…… 
母   行ってないでしょ? 
危々子 いや…… 
母   危ないよ? 
父   (危々子に)おい危々子、修学旅行とは、学ぶ旅行なのだぞ。 
危々子 (父の方を見る)え? 
父   学を修めると書いて修学。おわかりか? 
危々子 はい…… 
父   修められるのだろうか? 危々子は学を。 
危々子 いや…… 
父   学をするほど脳があるのだろうか? 危々子には。 
危々子 はあ…… 
父   そもそも危々子が行くとみんなが迷惑なのでは? 
危々子 はい…… 
父   しかめられるみんなの顔面、煙たがられるお前の存在。どうだ危々子。 
危々子 ……はい。 
父   では父はもう寝ます。(母に)母、寝たら殺す。(去る) 
母   はは、ふふふ。(父が行ったあと、危々子に)寝たら殺すって、聞いた? 寝ないと人間死ぬのに寝ても死ぬんだって母さん。八方ふさがり。(笑う)母さんって可哀想だよねえ? 
危々子 うん…… 
母   ああ、可哀想。母さん可哀想。(去る) 

 間。 

危々子 ……修学旅行いきたい…… 

 暗転。(オープニング映像) 


▼二場 修学旅行一週間前の放課後(月曜) 

 明転。 
 教室。机に突っ伏す危々子と、その横に立つ真桑瓜。 

危々子 まくわちゃん、あたし、修学旅行行けないかもしれない。 
真桑瓜まくわうり え、どうしたの、なんで? 
危々子 父さんも母さんも、あたしを行かせたくないみたい。 
真桑瓜 なにそれ、どういうこと? 
危々子 たぶんお金かなあ。うちお金あんまりないし。 
真桑瓜 マジかあ……私、なんとかしようか? 
危々子 え、なんとかって……? 
真桑瓜 バイト代いくらかあるから、貸したりとか。 
危々子 えバイトやってるのまくわちゃん。中学生でできるバイトってあるの。 
真桑瓜 うん、まあ、色々ね。 
危々子 凄いなあ……働いて、色々知ってて偉い……でも、借りるのは悪いから、お金、私もなんとかしてみるよ頑張って。 
真桑瓜 うんうん。きーちゃん来なかったら私めっちゃテンション下がるよ普通に。 
危々子 ありがとう……まくわちゃん、ほんと良い……唯一にして最大の友達…… 
真桑瓜 へへ、そんなでもないよ別に。……あ、でもなんか、あれらしいね京都。クーデター起きそうらしいじゃん。 
危々子 え、なに? 
真桑瓜 ニュースで見たんだけど、新しい府議会が、なんか「はんなり税」みたいの導入しようとしてんだって。はんなりしてない人は府民税? が七十割増しとかなんとか。 
危々子 なにそれ。 
真桑瓜 なんかまあ、京都だけじゃなくてさ、どこもかしこもお金困ってるじゃん基本、日本、いま。だからそういう都道府県ごとの政策的なものいろいろあるらしいけど、でも酷いよね。 
危々子 そう、だねえ。ニュースとか見てて聡明で凄いなあまくわちゃんは…… 
真桑瓜 それで、クーデターの危険だって。ピリピリしてるみたいだよ京都。 
危々子 やだなあ……そういうのになったら、修学旅行中止とか、なるよねえ…… 
真桑瓜 あと、普通に台風来そうらしいね来週京都らへん。 
危々子 えー台風? シンプルにきつい…………私さあ、昔、行ったのちっちゃいとき、京都。 
真桑瓜 うんうん。 
危々子 あ、ごめんいきなり自分語り。ウザいよね。 
真桑瓜 (笑って)ウザくないよ全然。 
危々子 優しい……昔ね、お母さんがまだ普通で、お父さんが今のお父さんじゃないお父さんだったとき、京都行ったの旅行で。それが、すっごいうっすらしか覚えてないんだけど、すっごい楽しくて、幸せというか……お寺とか見たなあ、お魚とか食べたなあ……みたいな…… 
真桑瓜 (親身に)うん、うん。 
危々子 ごめんなんか、暗いあれで……でも、だから、行きたい…… 
真桑瓜 行こう、きーちゃん。一緒に。 
危々子 ありがとう……本当にありがとう…… 

 ガラガラッと教室の扉が開く。 
 手に荒縄を持ったまん先生、入ってくる。(首を絞めて殺すつもり満々) 

万先生 無明ヶ丘むみょうがおか! いるか!? 
危々子 は、はいっ! 
万先生 おーいたいた、殺していいか! 
危々子 えー…… 
真桑瓜 万先生、犯罪ですよ殺人は。 
万先生 おー真桑瓜もいたのか。何やってんだお前ら放課後に教室で二人で。部活は? 
真桑瓜 うちの学校部活ないじゃないですか。一個も。 
万先生 ないけどやればいいだろう。勝手に。で、無明ヶ丘、殺していいか? 
危々子 えー、いやー…… 
万先生 先生思ったんだけどな、やっぱりこの学校の生徒でお前が一番殺したいもんなあ。特に理由もなく雰囲気で。 
危々子 うー、まあそうかも知れませんが先生、せめてあのー……修学旅行終わるまでは待って頂けるとありがたいです、なんて…… 
万先生 お、修学旅行行くんだな無明ヶ丘。生意気にも。殺したいなあ。 
危々子 殺さないでください……今はせめて…… 
真桑瓜 ほらもう駄目ですよ万先生、そういうの警察に言いますよ? 
万先生 おー警察かあ、それは先生の殺人衝動の抑止力にはならないぞ、はっはっは。 
真桑瓜 じゃあとりあえず修学旅行終わるまでは我慢してくださいよ。 
万先生 うーんまあ、そうか、待ってみるかあ。我慢したあとの射精の方が気持ちいいし、殺人も似たようなもんだもんなあ。よし、じゃあ先生、犬でも殺してこよう。二人とも、暗くなる前に早く帰れよー。 

 万先生、去る。 

危々子 ううー、殺されるのはやむなしとしても……なんとか……修学旅行までは生きてたいなあ…… 
真桑瓜 大丈夫だよきーちゃん、私が守るから! 
危々子 騎士だ……ナイトだよまくわちゃん…… 
真桑瓜 あ、そうだ、思い出したけど、なんか、戦争起きそうかもらしいね近々。 
危々子 えー……難が多い……いきたい修学旅行…… 

 暗転。 


▼三場 その日の夜(月曜) 

 明転。 
 和室の居間。 
 ちゃぶ台を囲んで危々子と父母が座っている。 

父   おい危々子、学校をやめなさい。 
危々子 え…… 
父   明日にでも。すっぱりと。 
危々子 いや、あのお…… 
父   よくよく考えたら行く意味はないだろう、危々子、お前のような脳みその生き物が学校になど。 
危々子 えっと、ええっと、ええーっと…… 
父   学校をやめて、臓器でも売って、そのお金をお父さんに寄越すのだ。 
危々子 で、でも……義務教育! 義務教育だから、中学校は…… 
父   よいか危々子よ、義務教育の義務というのはだな、子の義務ではない。親の義務なのだ。『教育を受けさせる義務』なのである。 
危々子 は、はい…… 
父   そして父はその義務を放棄する。ただそれだけのことなのだよ。 
危々子 えー…… 
父   (超怒鳴る)えーじゃない! 
危々子 はっ、はい! 
父   放棄するんだ父は! 義務をっていうかお前を! お前の存在を! 
危々子 はっ……は、はい…… 
母   可哀想にね危々子。でも、母さんの方がもっと可哀想なんだよ? 小さいとき、あんたのおじいちゃんからボコスカ殴られてねえ。可哀想でしょう? 
危々子 え、うん…… 
母   それにお母さん謎の不治の病だからねえ……可哀想だよねえ……ごほごほ……(大根演技) 
父   とにもかくにも父は、お前を中学校からやめさせる。明日、手続きをして参るぞ。覚悟せいよ危々子。(立ち上がり、去る) 
母    危々子可哀想……でも母さんももっと可哀想……ごほごほ……(去る) 

 間。危々子、ちゃぶ台に突っ伏す。 

危々子 …………どうしよう……いけなくなっちゃう修学旅行……完全に…… 

 危々子、ガバッと起き上がりスマホを取り出し通話をし始める。 

危々子 あ、ま、まくわちゃん、あっえっとごめん急に通話とかウザいよねラインで済ませろって感じだよねごめん…………ありがとう、まくわちゃん優しさの権化…………あのね、えっと…… 

 暗転。 
 間。 
 明転。 
 真桑瓜と謎の男(ゆるさんガー)が危々子の側にいる。 
 謎の男は床に膝を付いて立ち、不動。 

危々子 ごめん、まくわちゃん、こんな時間に来てくれて…… 
真桑瓜 いいよそんなこと。それより、連れてきたよ。 
危々子 あ、うん、えっと……これって、誰……? 
真桑瓜 ロボだよ。 
危々子 ろぼ……? 
真桑瓜 (ゆるさんガーの背中のボタンを押す) 
ゆるさん(ガタガタ震えだし、ゆっくり立ち上がる)……。 
危々子 え、えっと…… 
ゆるさん (危々子をじっと見て)……お前を、絶対に、許さん!(危々子の首を絞め出す) 
危々子 わ、が、ぐ……
真桑瓜 わー違う違う違う、この人はあなたのご主人さま!(ゆるさんガーを必死で止める) 

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