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ピアノをやめるとき

3月、わたしの教室ではピアノのホームコンサートを開きました。教室をステージ仕様にし、ごくごく身内だけの気軽なコンサートです。

このコンサートを機に、ふたりの生徒がピアノをやめました。

ひとりは小6の女子です。実は、もう1年か2年くらい前から、ピアノに対するモチベーションが落ちているのは感じていました。ミューレのピアノの先生はとっても引き出しが多いので、彼女の好きな曲を弾かせてあげたり、即興で楽しんだりして、なんとか興味を持続させてくれました。

ピアノは、習い始めてから、ある程度弾けるようになるまでが長い習いごとなので、途中でモチベーションが下がることはよくあることで、なんとか興味をつないでいれば、またピアノ熱が上がることもあるんですね。

半年くらい前だったか、お母さんから「やめたいと言っているんだけど、もう一度、楽しいと感じてからやめてほしいから、どうしたらいいか」という相談を受けました。

わたしは、「気持ちはすごく分かるけど、"楽しいかどうか"はあくまでも本人の気持ちだから、大人が手を変え品を変え、楽しませるという年齢はもう超えていると思うよ。もう、けりをつけさせてあげたら?」と言いました。

お母さんも残念そうだったし、ピアノの先生も残念そうでした。

でも、わたしは、この子を幼稚園のころからずっと見ています。

・本人がどう感じるかというセンスを、生まれながらに強く持っている
・周りの大人に気を使って、決断ができない

こういうことを感じていましたので、長く時間をかけ、お母さんを説得していきました。「本人に決めさせる」ということと、「けんかしてもいいから、親に気を使わせない」ということです。また、「"楽しい"至上主義をやめて、苦悶の中に成長を見出すことの重要さ」を説きました。

ピアノは投資が大きな習いごとだし、習得に長らく時間がかかるので、お母さんも自分の思いに決着をつけるのに時間がかかったと思います。でも、最後は、中学に入学する娘のために、娘の自立を最優先に考えてくれるようになりました。

ホームコンサートの2ヶ月くらい前、レッスンの合い間にいっしょにご飯を食べたとき(わたしの教室では、土曜日の夕方、夕飯を食べている子がいっぱいいます)、「ピアノ、どうするの?」と聞きました。

「うん、迷ってる。隔週にしてもらうように先生にお願いしようかなぁ…とか」と答えたので、わたしは、こう言いました。

「"ピアノの先生やお母さんは、わたしがやめたら残念がるだろうなぁ"って思ってるかもしれないけど、そういうことは気にしなくていいんだよ。残念に思うのは、大切に思っているから当たり前なんだけど、それよりも、あなたが幸せに旅立つことを誰もが願ってるから。先生が手助けしてあげるから、自分だけの考えで、どうしたいか、決めてごらん。

ピアノをやめるっていうのは、毎週習うのをやめるってだけのことで、演奏はいつまでも続けられるし、何かやりたい曲の分からないところだけ習うっていう方法もあるし、ただ、今のスタイルをどうするのか、ってことには、なんとなく、自分で答えがあるんじゃないの?

もう、中学生になるんだから、そろそろ、その自分の考えを通すってことも大事だよ。とはいっても、まだ子どもだから、決断が間違ってたら、「間違えちゃった」って、またやり直せばいいんだから」

あとからお母さんに聞いたところによると、その日、車にバン!と乗り込んだ瞬間に、「あたし、ピアノ辞める」って言ったそうです。

どちらかというと、ぽやーっとした子なので、次のピアノのとき、レッスン室に入る前につかまえて、「自分で先生に言いなさい」って言おうと思ってたんだけど、気がついたら部屋に入っちゃってました。そしたら、先生にも自分で伝えた、と後から聞きました。

よくがんばったな、と思いました。小さい頃から知っていたので、「あの子がよくやったな」と。

ホームコンサートには、大好きなディズニーのプリンセスソングを選び、一生懸命、練習してました。コンサートの2週くらい前に、レッスン室から大号泣の声が聞こえてきたので、てっきり練習してなくて叱られたのかと思って、数日後に「なんで泣いてたの?」と聞いたら、「家で完璧になるくらいまで練習していったのに、その通りに弾けなかったから悔しかった」と言っていました。

そんなことは初めてだったから、本当に本当に成長したな、と思いました。悔しさは、自分と向き合って湧いてくる感情ですからね。

ホームコンサートが終わり、「お世話になりました」って母娘で挨拶に来てくれたとき、ふたりともとてもスッキリとした良い顔をしていたことが印象的でした。

もうひとり、ピアノをやめたのは高1の男子でした。

小さい頃からピアノをやっていたのですが、あんまり練習も好きじゃなくて、小6のときに、わたしが勝手に「いくらなんでも中学に入ったら辞めるだろうから、最後にジャズでも弾かせてみようかな」と思って選曲したら、そこからジャズにはまっちゃって、高1まで続けた、という子です。中3の受験期にも休会もせずに続けました。

去年の春ごろだったか…、「学校が忙しくなってきたから、ピアノをそろそろ辞めます」と伝えてきました。「でしょうね、よく今までやったよ」と思い、「何をキリにする?」と聞いたら、3月のホームコンサートということになりました。

2才から見ている子でしたが、ものすご〜〜くおとなしくて、初めて声を聞いたのが出会ってから5年後くらいだったかしら?っていう感じだったので、よく「やめる」という決断をしたな、と思いました。

「やめる」と言ってからホームコンサートまでがだいぶ長かったのですが、ダラダラすることもなく(というか、元のペースのまま)、最後までよく仕上げました。

口数は少ないけど、進路などの大切なことは、いつも自分の意見があって、計画的に進める子だったので、ピアノに関してもそうだったなと感心しました。

・・・そんなこんなの二人のドラマがありまして、ホームコンサート当日を迎えました。わたしの教室では、しっかりとタイミングを見極めて自分で辞めることを決断した子に、こんな修了証を渡しています。

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ホームコンサートの終わりに、この修了証を渡すための修了式を執り行いました。

二人を目の前にして、修了証を読み上げていたら、上に書いたドラマが頭に蘇ってきて、何しろ、2〜3才から見てきた子の決断だったので、もう、涙があふれてあふれて、号泣してしまいました。

「ピアノをやめる」ことに感動して、「よく辞めたね〜〜」って号泣するピアノ教室なんか、めったにないですよね。

ちなみに、この二人、クワイヤとパフォーマンスというクラスにまだ在籍しているので、その後も毎週会ってます(笑)。なのに涙。

さらにさらに後日談があって、高1の子が、「先生、ピアノは今回は辞めるんだけど、就職が決まって落ち着いたらまたやりたい。『情熱大陸』やりたいから」と言いにきました。

うん、いいけど、涙を返せー(笑)!!
幸せなことです。

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