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岡田雅利・金子侑司引退。チームへの献身

※写真提供@u_u_u_u_chi

ライオンズを10年余り支えてきた岡田雅利と金子侑司の引退が決まり、9月14・15日にそれぞれ引退試合が開催される。二人の思い出を振り返ってみたい。

岡田雅利は2014年に入団。同期のドラフト1位は超高校級スラッガーであり、大阪桐蔭高の後輩でもある森友哉だった。当時のライオンズは炭谷銀仁朗が正捕手を務めており、ゆくゆくは森を正捕手としたい狙いが明白だった。(守備面の懸念からコンバートも囁かれていたが)
控え捕手という立場が予想される中での入団だったが、当時の岡田はファンブックでこう語っている。

「ほかのポジションをやりたいと思ったことは一度もありません。自分のサインから試合が始まる、やりがいがある。怒られ役、裏方であるところがかっこいい。それに、打者との駆け引きや配球を考えるのが好きなんです。裏をかく上でデータを重視しつつ、でも自分の観察眼も大事にしたい」

2014年ライオンズファンブック

根っからの捕手気質と言っていいだろう。すぐにチームの信頼を得ると、1年目は22試合に出場。2年目には36試合の出場ながら、怪我の1か月間を除き一軍登録され、チームに欠かせない存在となっていった。
圧倒的な攻撃力でパ・リーグを制した2018年。主戦捕手は炭谷から森へと移っていく。捕手としての経験が浅い森に対して、岡田はライバルでありながらアドバイスを送るようになる。森の人懐っこさあってこそだが、岡田の面倒見の良さ、そしてチーム想いが現れた行動だった。
捕手というポジションは一つしかない。並外れた打撃を持つ森の守備が向上すれば、必然的に岡田の出番は減る。岡田自身が一番分かっていたことだろう。それでも岡田は森を超えたいというコメントを口にしつつ、森のサポートを続けていった。そしてその姿がライオンズファンに愛されたのだ。

「今年は銀さんが抜けるので、任される仕事が多くなるように頑張らないとダメ。やはり森の存在は大きいかもしれないが、そこを抜かしていかないと優勝にも近づかない。バッテリー中心に勝てるチームにしていかないといけない」

西武岡田が語る正捕手への思いと森友哉へのライバル心「森を抜かさないと」
https://full-count.jp/2019/01/07/post276735/

約140人のファンを前に「もし、岡田監督だったらどういうスタメンを組むか」と問われると「積極的にいきたいから1番は森」と宣言。捕手でポジションがかぶる後輩を指名したのはいいものの「おれ出ないのか…」とポツリ

西武・岡田監督だったらスタメンは… 「積極的にいきたいから1番は森」
https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2020/12/27/kiji/20201227s00001173332000c.html

「周りの選手からイジられるのは大丈夫。そういうキャラやし、それでチームの雰囲気がよくなるならそれでいいんです。そういう性格は、そういえば高校時代から変わっていないですね」

西武で大阪桐蔭出身の“4番目”。中村、浅村、森、そして岡田雅利。
https://number.bunshun.jp/articles/-/831571?page=3

チーム想いの気持ちはプレーにも表れる。本人も引退コメントで触れていた2020年9月8日のバファローズ戦。髙橋光成をノーヒットノーラン寸前まで導いたリード面も素晴らしかったが、打席でも岡田らしさを発揮していた。
0-0の5回1死2・3塁で岡田に打順が回る。難敵・山本由伸が相手だが、何としても先制点が欲しい場面。2-2からワンバウンド寸前のスライダーに食らいつき、打球を何とかフェアグラウンドに弾き返すと、ギャンブルスタートを切っていた三塁走者が悠々ホームイン。
この年の岡田はなかなかヒットが出ず、前の試合までで打率.050と苦しんでいた。たとえ見た目は不格好でも、チームのために何とかしたいという想いが現れた岡田らしい打席だった。

辻監督は「久々に岡田の粘り強さ、執念が出た」とたたえ、「岡田がしぶとく転がしてくれれば、スパンジェンバーグの足なら勝負になると踏んでいた」としてやったり 

西武辻監督が打率.048の男にかけた訳 「スパンの足なら勝負になると踏んでいた」
https://full-count.jp/2020/09/09/post891075/


そして岡田と言えば欠かせないのが犠打だ。通算45個の犠打を決めているが、そのうち18個は代打で決めたものだ。

岡田雅利、代打での犠打数
2016年…1犠打
2017年…2犠打
2018年…2犠打
2019年…2犠打
2020年…4犠打
2021年…7犠打

チャンスで「代打岡田」がコールされると、スタンドも相手チームも送りバント狙いであることが容易に想像が付く。その中で「決めて当たり前」の送りバントを決めてベンチに下がっていく。幾度となく見てきた光景だが、こんなにプレッシャーが掛かることはない。ベンチ裏ではいつも青い顔をして備えていたという。

思い出深いのは2021年10月10日のイーグルス戦。同点の9回裏無死1塁から岡田は「代打バント」に登場するもファールフライにしてしまう。うつむいてベンチに引き上げる岡田だったが、その姿を目の当たりにしたナインが奮起。最後は岸潤一郎がサヨナラタイムリーを放ち勝利を掴んだ。歓喜に沸くチームの輪の中で、ホッとした表情で岸に抱き付く岡田の姿が印象的だった。
試合後に辻監督は「毎日、一番練習しているのは岡田だからね。それはしょうがない。後の選手がよくカバーしてくれた」とコメント。この日はいい結果が出なかったけれど、首脳陣から岡田への厚い信頼を感じた。

 
2023年10月、岡田が入団時に正捕手を務めていた炭谷がイーグルスを戦力外となる。その直後に岡田はこんな言葉を残していた。

「ギンさん、どうするんですかね。ボク的には帰ってこられたら困りますけど…」
「(復帰すれば)チーム的にはめちゃくちゃプラスになりますよね。いっぱい情報を持っているじゃないですか。しかも、それを使う術を知っている。チームが上位を狙うなら必要な戦力でしょう」

【西武】岡田雅利が〝楽天戦力外〟炭谷銀仁朗の復帰を願う2つの理由
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/280048

炭谷の復帰は自身の出番が減ることを意味している。岡田よりも年上で、経験もある。そんな中でここまで真っ直ぐにライバルの加入を希望できるプロ野球選手が未だかつていただろうか。
様々な選手との別れを経験してきたライオンズファンにとって、岡田がチーム想いの言動を見せてくれてどれだけ心強かったか。
難手術に挑み、完全復活は果たせなかったけれど、岡田がチームに遺したものはこれからもライオンズの力になるはずだ。



金子侑司は2013年に立命館大から入団。この頃ライオンズは転換期を迎えてきた。人気・実力ともにチームを引っ張っていた中島裕之が2013年からアメリカへ移籍。誰がショートを務めるかが大きな課題だった。
金子は大学日本代表でもショートを務めていたことに加え、俊足、更に中島と同じく甘いマスクとあって、ポスト中島の候補の一人とされていた。
当時のファンブックでは足の速さをアピールするとともに、「華のある選手」「ファンの人から愛される選手」を目指すとコメントしているのが金子らしい。
 
オープン戦でも打率.292、5盗塁と活躍を見せたものの、高卒2年目ながら華麗な守備が持ち味の永江恭平もアピール。そこで金子は二塁・三塁に加え外野で出場機会を得るようになる。

 
3月29日のファイターズとの開幕戦、7番ライトで先発出場を果たすと初打席初安打でプロデビューを飾った。世間的には大谷翔平のデビューとして知られる日だが、金子もこの日からスピードスターへの道を走り始めていた。

4年目の2016年、ついに本格開花の時を迎えた。開幕こそ出遅れたものの、4月に一軍に昇格するとスタメンに定着。7月以降に36盗塁と走りに走りまくった。Bクラスが濃厚になった終盤戦では、とにかく金子に盗塁王を獲得してもらおうと、出塁したら何が何でも走りまくっていた印象がある。その甲斐あって53盗塁でバファローズ・糸井嘉男とともに盗塁王に輝くこととなった。


2018年、山賊打線の中にあって金子は打撃で苦しんでいた。打率2割前後の低空飛行が続き、7月に登録抹消。一軍復帰2試合目の8月18日も3打席連続で内野ゴロに倒れていたが、8回に金子にチャンスが回ってくる。2死2・3塁から低めの変化球に食らいつくと、打球は前進守備の左中間を抜ける逆転2点タイムリー3ベースに。金子は三塁に到達すると同時に派手なガッツポーズを見せ、球場の盛り上がりは最高潮に達したのだった。

このシーズンでもう一つ忘れられないのが9月16日のホークス戦だ。優勝に向けて負けられないホークスとの3連戦の初戦に勝利して迎えた2戦目。高卒2年目の今井達也が初回に2塁にランナーを背負い、巧打者・中村晃を迎える。真ん中に入ったボールが右中間に打ち上がり、誰もが先制タイムリーと思ったその時、ライトの定位置から俊足を飛ばした金子がフェンス際でダイビングキャッチ。これに勢い付いたライオンズは初回に4点を先制。悲願のリーグ優勝に向けて大きな勝利を手にした。
余談だがこの日は安室奈美恵の引退日。松井稼頭央と金子の発案で、ライオンズ選手は登場曲に安室奈美恵の楽曲を使用。メヒアだけ倖田來未の「キューティーハニー」だったことも思い出深い。

スピードが持ち味の選手であり、決して長打を連発する選手ではないのだが、意外なところで派手な活躍を見せてくれた印象もあるのが金子だ。2019年7月19日のバファローズ戦では3点ビハインドの9回にライトポール際に叩き込む同点3ラン。満面の笑みでベンチに戻った金子は仲良しの源田壮亮とハグ。スタンドから黄色い声援が上がったことは言うまでもない。
更に延長11回には勝ち越しを防ぐバックホームを見せた。9回に平良海馬がプロ初登板を果たし、延長11回に中村剛也の通算400号となるサヨナラ本塁打が飛び出すなどライオンズ史に遺る1日となったが、その立役者は間違いなく金子だった。

 そしてFA取得を前にした2019年オフには4年契約を締結。怪我もありその後の出場機会が減ってしまったのは残念だったが、当時のコメントが忘れられない。

「チームもファンの皆さんも、ライオンズ全部が大好き。よそに行きたいとか、話を聞いてみたい気持ちは芽生えなかった」

西武金子侑、6300万円増の1.2億円! 変動制の4年契約「ずっとライオンズでやれたら最高」
https://full-count.jp/2019/12/04/post624360/

この年も秋山翔吾がアメリカへ移籍。パ・リーグ連覇を果たしながらも色々な別れを経験してきたライオンズファンにとっては涙が出るほど嬉しかった。
 
そして4年契約が満了した2023年オフ。金子は結果を残せなかったことを受け、こう語った。

「自分の立場、年齢を考えれば、お金はもういい。来年はしっかり野球で、応援してくれる人に恩返しできるように頑張りたい」

西武・金子は減額制限超え「お金はもういい」 1.2億円から5600万円減…来季は単年契約
https://full-count.jp/2023/12/01/post1479808/

その言葉通りに今季の金子は素晴らしい集中力を見せてくれた。開幕直後は結果が出ずに一時的に出番を減らしたが、4月24日のバファローズ戦に代打出場。打率1割台だった金子の代打起用に懐疑的な声もあったが、代打起用された打席で四球を選ぶと、9回に回ってきたチャンスの場面で同点タイムリーを放って見せた。
更に27日ホークス戦では自身2年ぶりとなる本塁打。通算1000試合出場の節目となった29日の同カードでは勝ち越し3ランを放った。

その後も5月に掛けて16試合連続出塁を記録して1番に定着。貧打に喘ぐチームの中で貴重な働きを見せてくれた。
しかしチームは歴史的な低迷。次第に若手に切り替わっていく中で出番を減らしていき、6月3日に登録抹消されることとなる。二軍でも結果を残していただけに、こんなシーズンでなければ、せめてCS進出を争っていれば、また違う結末があったのではと思ってしまう。本人としても色々な想いがあったのではと想像する。それでも引退コメントの「ライオンズで過ごした12年間は夢のような楽しい時間でした」という一節と、後輩たちに引退を告げたときの明るく爽やかな様子が本当に金子らしかった。
 
そして金子はアツい男だった。タイムリーを打って全力で喜ぶ姿、守備で打球を捕えきれずに悔しがる姿。ルックスの良さと華麗奔放という彼のキャッチフレーズからクールな姿が想像されるが、ライオンズファンの胸に残っているのは彼のアツい姿ではないか。
入団から12年間、彼のようなアツく、チームに尽くす男を最初から最後まで応援できて良かったと心の底から思う。

 
それぞれの引退が発表されてから10日あまり。色々な思い出を思い返していたけど、とてもじゃないけど全てまとめきれなかった。
岡田がメヒアに愛されていたこと、増田達至と「閉店ガラガラ」パフォーマンスをやっていたこと、熊代聖人と二人でベンチを盛り上げていたこと、bluelegendsと一緒にダンスしていたこと、
金子が帽子を落としていたこと、球団の告知映像で源田と名演技を見せていたこと、ねこげんグッズが発売されたこと・・・。
思い出を挙げているうちに引退試合が始まってしまいそうだ。



球団公式が彼らへのメッセージを募集するお知らせにこんなフレーズがあった。

「引退試合を終えるまで、ふたりのプロ野球人生をしっかりと見届けてくださった全国のライオンズファンの皆さま」

https://www.seibulions.jp/news/detail/202400490383.html

何気ない文章だけど、ライオンズとライオンズファンにとっては重い一言だ。
ライオンズは様々な選手がチームを去っていった歴史がある。ファンが「プロ野球人生をしっかりと見届け」ようにも、そうは行かないケースがとても多かった。
しかし岡田と金子はチームに残る決断をしてくれた。決断の後、なかなか思うような結果は残せなかったかもしれない。それでもライオンズのユニフォームを着て引退試合の日を迎えることが、どれだけ貴重で尊いことか。
二人がチームのことをどれだけ想ってくれたか。自分にはそれだけで十分だ。
9月14日は岡田雅利、15日は金子侑司にありったけの感謝を伝えようと思う。

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