精神障害者の引っ越し

 先日、両親と住んでいる賃貸マンションの隣人の引っ越しを手伝うこととなった。父はすっかり歳なのに張り切っていたし、母も手際が非常に良かった。しかし、そこに住んでいた増田さんに問題があった。彼女には何かしらの精神疾患があるらしく、満足に部屋の片付けができない状況にあったのである。
 思えば、増田さんは隣に越してから異様な雰囲気を発していた。ヒステリーを起こして大声で叫ぶことが何度もあったし、誰に対しても何かと攻撃的であった。まあ、前にその部屋に住んでいた川崎さんという人間が非常にサイコパスで性格障害がある奴だったので、そんなに大きなことを気にすることはなかったが、個人的には非常に怖かった。発達障害と鬱を持っている私にとっても異様に見えたのだから、他の住人は余計にそのような感覚で増田さんのことを捉えていただろう。
 さて、そんな増田さんの引っ越しであるものの、一回で終わらずに何度も迷惑を買った。重い荷物を何日かに分けて粗大ごみに出し、荷造りも上手く行くことはなかった。それでも、彼女からは全く慌てている様子が伺えず、両親と私が色々とやらざるを得なかったのである。
 このように、精神に異常がある人が生きる為に物事をこなすことは非常に難しい。それは、私自身が最も痛感していることであり、その点では増田さんに寄り添うべきであるだろう。ただ、理解を示してはいても、実際に何もできないでいる彼女を目の当たりにするとイライラしてしまうことも何度かあった。また、発達障害なのかどうかは分からないけれども、増田さんに妙な拘りがあることも気になった。障害持ちの私ですらそうなるのだから、そういった方々の面倒を見ることを仕事にしている面々ならば尚更だろう。それ位、精神異常者は本当に一般人が普通にできることができないのである。
 引っ越しの作業を終えた後、母が私に「増田さんは新しい場所では幸せになって欲しいね」と言ったのが妙に心に残った。同じく精神障害を抱えている私を子に持った彼女らしい言葉であり、そのような社会的弱者への優しい目線を持っていることが誇らしかった。母のような人達がもっと増えてくれれば素晴らしいと感じつつも、自分が増田さんの立場になったらどうなってしまうのかが頭を巡り、少し微妙な気持ちにさせられた。とにかく、総ての人間が人間らしい生活を送れることを願い、その上でこれからを生きて行かなければならないだろうとの考えを強く抱いた。

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