嘘に嘘を重ねる男

 前にも書いたが、今野君という昔の知り合いがいた。私は彼に非常に迷惑を買い、その最たるものは、その呼吸をするように嘘を吐くという姿勢である。
 これまで、今野君は私に嘘ばかりを吐いてきた。「俺は彼女がいる」「童貞を捨てた」「親からの援助なしで暮らしている」といった可愛いレベルのものばかりだけでなく、中には私の立場を下げるような嘘もあり、それによって苦労したことは今でも怨んでいる。正直、早々と絶交すべきだった。
 そして、現在、今野君は整体院をオープンさせたのだけれど、相変わらずの嘘の連発に閉口させられる。エキストラを雇って『患者様の声』という動画をアップしたり、グーグルの評価では自作自演のコメントを数多く書いているのだ。これは、ステマの一環として信じてしまった人が訴えたら勝てるレベルで、完全に見栄を張った行為と言えるだろう。
 更に、今野君はとあるセミナーの講師をしているのだが、それが資格を持った方々に独立を促すという悪質なもので、途中で退会しても返金されないシステムとなっている。まあ、自己啓発系の集いはどれも怪しいので何とも言えないものの、今でも嘘を吐いて生活しているということに呆れるばかりだ。
 しかし、それが善いか悪いかの二択で考えることはできない。人間は金を得る為だけに働く存在であって、そうするには多少の嘘や他人を陥れる行為に走る必要があるのだ。そのことを頭に入れると、今野君は普通(?)に自分なりに賃金を得ているとも言えなくもない。ダメダメな私ですら、利益を上げる目的で客に嘘を吐いたことがあるのだから。以上を踏まえると、今野君の嘘はしっかりと自分の武器になっているとも思える。
 ボランティアでもない限り、働く上では多少はアコギでなければいけないことは分かっている。ただ、それをしても平気な人間と自分を責めてしまう人間がいるのだ。そして、今野君は前者であり、私は後者なのだろう。これから先、彼は更に嘘に嘘を重ねて生きて行くだろう。けれども、それを責めることは決してできないということを痛感させられるのが世の中の仕組みなのである。

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