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運動場 公園となり 皆うれし


薪能の舞台 and まちライブラリー

 鬱蒼たる木々を背景に設営された能舞台に夕闇が迫り、開演を今や遅しと待っている。ここは石神井公園に隣接した練馬区立松の風文化公園の一角、区が年1回催す薪能の会場である。この公園が開設されたのは10年前であり、それまでは日本銀行の運動場であった。

 園内には、テニスコート、陸上競技のトラックとフィールドが整備されている。平日はテニスに興じる健康老人、週末はフィールドでサッカーや野球に夢中な小学生で活気に満ちている。そのいずれにも属さない私のような老人は、今宵、薪能を楽しむ。こうして、ごく限られた人のための運動場が、今や70万区民のための公園になった。

 図書館のテラスで紙コップに入った紅茶を飲みながら、本棚で見つけたエッセイを読んでいる。目の前に広がる芝生の広場では、若い母親が数人、子供を遊ばせながら談笑している。隣では、中年の女性2人がテーブルの上に本を置いて、なんだか楽しそうに話をしている。

 明るく、ゆったりとした時間が流れる図書館、「まちライブラリー」は、西東京市に三菱UFJ銀行が持っている運動場の一部を、2023年に市民に解放して実現した。他に、テニスコートやグラウンドがあり、これらも周辺の人が使えるようになっている。限られた人のための施設が、多くの市民のための施設に変わった点では、練馬区の松の風文化公園と同じである。

 練馬区と西東京市の2つの施設がどうして出来たのだろうか。前者は、20年前に銀行を襲ったバブル崩壊後に経営危機に陥り、土地を手放さざるを得なくなったためだったと記憶している。後者は、近年の企業の社会的責任論の高まりを受けて、三菱UFJ銀行が社会貢献活動の一環としてやったものと推定される。

 そんな理由はさておいて、暇な老人としては、豊かな緑の中で、芸術を鑑賞し、読書を楽しめるようになったことに感謝したい。

(2024.10.05)


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