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夢に見た 開聞岳は 笠の中

西大山駅から見た開聞岳

 指宿から車で15分、開聞岳に向かう峠道にあるファミレスの窓辺のボックス席に座り、480円のモーニングを注文する。メニューから目を挙げると、隣のボックス席に座っている老人と目が合う。
「開聞岳を見にきたのだけど、この雨では見えませんね。」
と声を掛ける。
「今日は1日無理だね。」
歳に似合わぬ張りのある声が返ってくいる。
「開聞岳が姿を現すまで、うちの宿に泊まっていかんかね。1泊2人で5,000円でいいよ。」
ファミレスで客引きとは強引な。
「イヤー、明日の飛行機で帰るので。」
「失礼だけど、急いで帰らないといけないような歳には見えんけど。」
ズケズケとものを言う人だ。
「おっしゃる通り。ゆっくりすれば良いのにね。なかなか。」
「そーよ。日本人はせっかちでいかん。外国人は1週間、2週間泊まっていくよ。」

 外国人と聞いて、1時間ほど前に鹿児島港の高速船乗り場であったスイス人女性を思い出す。
「外国人は逞しいよ。天気の良い日に突然、開聞岳に登ってくると言って出かけるよ。924メーターだけど0メートルから登るのだからかなり、かなりきついけどね。あいつら平気だね。」
 外国人全てが逞しいわけではないだろうが、この親父の宿に泊まる客はそうかもしれんな。

「俺は、23年前に仕事を辞めて埼玉から越してきてしてきて宿を始めた。日本には家族連れが安く泊まれる宿がなかったので、自分がやってやろうと始めたのよ。我ながらよく続いているよ。」
と今度は自分の来歴を話し出した。
 こんな親父の宿に泊まれば、面白い話がたくさん聞けるだろうなと思うが、自ら決めたスケジュールにがんじがらめの身としては、そうは行かない。
 モーニングが出てきたので話は中断、パンにバターを塗っていると、
「じゃーね。」
と親父は席を立って行った。

 この天候では開聞岳の全貌を見るのは無理だろうと思いつつ、ビューポイントの1つである西大山駅までくると、雲が一瞬消えて9号目くらいまでが姿を現す。イヤー、来て良かった。

(2023.05.29)

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