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時に作品が人を突き動かすという話

前置き:準備運動


 GWが始まり、早くも土日が終わり、三日目の休みの午前中を見事に睡眠に費やし、陽も傾きがちになり始めている。

 これはいかん。私にはもっとやらなければならないことがあったはずだ。以前住んでいた地でお世話になっていた方々に向けた挨拶状は書かなければならないし、部屋の掃除もしなければならないし、そもそも勉強だってしなければいけない。
 書きたい作品だってごまんとある。

 ならば何故今こうしてパソコンに向き合っているのかと言えば、答えに詰まる。でもなんとなく、これが私なりの準備運動のような気がしている。

 今目の前にあるパソコンの電源を落とせば、真っ黒になった画面には自分の顔が映る。けど、それが本当に自分と向き合うと言うことなのかと聞かれれば、「それは違う」と言いたい。
 こうして自分の内なる情と、自分の手、指、それが打ち込んだ文字を介すことで、初めて自分を見つめ直し、この自堕落な日常から抜け出せるような気がするのだ。

 ……まぁつまり何が言いたいかと言うと、コレを書き終えたら私は買い物に行く。
 常日頃から明確な目標を立てなければなかなか行動に移せない身なので、こうでもしなければ部屋から出られない気がしたのだ。

『映画大好きポンポさん』という作品について

 さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回は『映画大好きポンポさん』という作品について紹介したいと思います。

 こちらの作品は元々pixivにて2017年4月に投稿されたweb漫画です。
 pixivコミックで連載されていた、とか、そういったものでもありません(今でこそpixivコミックにも掲載されていますが)。
 あくまでも作者の杉谷庄吾(人間プラモ)氏が、1pixivユーザーとしてポンと世に放り出した、それだけの漫画でした。

 しかしこの作品が世に放たれるや否や、瞬く間に話題となり、書籍化、シリーズ化が決まるどころか、掲載して二日後にはなんと劇場アニメ化まで果たすという、まさに前代未聞の作品となったのです。

 名前だけは知ってる、という方も多いかと思います。何せ今、ツイッターで大量にプロモーションが流れてきますからね。
 基本的にツイッターのプロモーションはうぜえ!と思っている私ですが、ここまで目に入れても痛くない広告は初めてです。もちろん個人差は承知の上ですが。

 『映画大好きポンポさん』の劇場アニメは、6月4日公開となっています。企画が動き始めてから実に4年。いよいよこの時が来たかと思うと、なかなか感慨深いものがあります。

 さて、そんな多くのクリエイターを衝動的に突き動かした『映画大好きポンポさん』という作品。
 果たしてどんなお話なのか……という点に関しては、是非上記のURLからお読みになってみるのが一番早いかと思います。

 ここではそういったストーリーのあらすじを軸にするのではなく、この作品がどうしてこんなにも広がったのか、どうして多くの人に刺さったのか。そんな話を、少し想像なんかも織り交ぜつつ綴っていきたいと思います。

 何を隠そう、私自身もまた、この作品に出会って人生を変えさせられた一人なので。

映画を創る それだけに人生を捧げた者たちの物語

 ツイッターのプロモーションにもよく使われているキャッチコピーですね。この作品を端的に表しているだけでなく、そこはかとなく狂気じみたものすらも感じさせるような、良いキャッチコピーだな~と思いながら眺めています。

 この作品には、映画に対して並々ならぬ思いを抱く人が多く登場します。

 映画に人生を狂わされた人、映画に人生を救われた人、映画で人生を創り上げた人、映画に人生を賭ける人。

 それぞれにそれぞれの人生があり、けれど、その誰もが中心には映画を抱いている。まさに、人生を全て賭して映画を創るべく奮闘する、そんな人々の物語です。

 ……とはいえ、この物語は『映画を創り上げること』を目的に進んでいくのではありません。『映画を創る人々の奮闘』がこの物語の主題か、と言われれば、私は少し首を傾げると思います。

 私はこの作品を『創造という行為に取り憑かれた人々の狂気』を主軸に描いてるんだろうな、と考えて受け取っています。

 狂気、とだけ書くと、途端にこの作品が恐ろしいものだと感じてしまう人もいるかも知れませんが、何も本当に狂ってるとか、気を抜いたら事件が起こりそうとか、所謂サイコパス的な狂気ではありません。

 作品を創るという事に対して、やたらと熱を注ぎ込む、文字通り人生を注ごうとする。そういった一種の異常性の垣間見える描写が、この作品には随所に盛り込まれています。

 きっと、そういった部分部分の描写こそがこの作品の本質であり、それこそがクリエイターの方々を突き動かし、私たちを感動させた一端を担っているのではないか、と思うのです。


 この作品の主人公の一人、ジーン・フィニ。
 彼は学生時代に友達一人すら出来ず、クラスの最下層の住人として生きていた。けれど彼にとって、そんな事は些細なことでしかなかった。

 なぜならその時の彼には、映画があったから。

 この「映画」を、例えば漫画だったりアニメにしてみれば、急に親近感がわいてくるという人も、もしかしたらいるかも知れません。

 漫画にせよアニメにせよ小説にせよ、そして映画にせよ、その向こう側には、決まってここではないどこかが映し出されています。
 中世ヨーロッパ風の都市だったり、近未来的な町だったり、或いは滅亡し、荒廃した世界かも知れません。でも、そのどれもが、この世界ではない。

 私たちはその向こう側に夢を馳せます。
 もしこんな世界が本当にあったら。
 もしこんな物語の主人公に、自分がなれたとしたら。

 言うまでも無くその全てが夢のままな訳ですが、ともかくそういった想像をしたことがある、と言う人は少なくないのではないかと思います。


 この作品を語る上で個人的に外せないと思っているのが、「幸福は創造の敵」という言葉。
 これは、先述したジーンに向けて、これまた主人公の一人である敏腕映画プロデューサー、ポンポさんが放った言葉です。

 どうやら普通に生活している人って、ふとした時に物語を空想してみたりすることがないそうですね。ソースがツイッターなので信憑性は薄いですが。

満たされた人間っていうのは満たされているが故にモノの考え方が浅くなるの だって深く考えなくても今幸せだから
幸福は創造の敵 彼らにクリエイターとしての資質無し

 その理由はきっと、ポンポさんの放ったこの言葉に全て詰まっているのだと思います。

 自発的に幸せを求めようとする、満たされていない人間。
 そんな人間こそが、クリエイターには適しているのだと。

 ふとした時に頭に思い浮かんだ空想を形にして、世に出してみれば、もしかしたら何かが変わるかも知れない。
 そこまで行き着く人は一握りしかいないでしょうが、だからこそ、そんな人はある種狂気じみている。

 クリエイターっていうのは、そんな狂人の集まりなのかも知れません。
 (もちろん悪い意味では無く)

物作り目指してる人間が普通なんてつまんない言葉使ってんじゃないわよ

 頭の中に思い描いたものを形にする、創作という行為。
 確かに、普通の人間がやろうと思ってやれることでもないような気がします。

 そんな普通でない人間に向けて突きつけた、「クリエイターはかくあるべき」とも取れるような台詞の数々。それは挑戦状にも近かったのかも知れません。

 結果、クリエイターたちの狂気を描いたこの作品は多くの新進気鋭なクリエイターを呼び寄せ、実際に来月、一つの大きな作品として公開されようとしています。

 それはきっと、並大抵な思いでは動かなかったであろう企画。
 半端な情熱だけでは創り上げられなかったであろう作品。

 狂気に感化された狂人たちによる大作が、いよいよ私たちの眼前に叩きつけられようとしているわけです。

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 曲がりなりにも創作家、あえて言うならクリエイターを目指している私ですが、その夢を確固たるものとしたのは、この作品がきっかけでした。

 この作品を初めて読んだ高校時代、当時からぼんやりと何かを創りたいと考えつつ、ひねくれまくっていた私にとって、ここまで刺さる作品はありませんでした。

 物語を作るという行為は普通では無いのだと。
 クリエイターとは異常な人間なんだと。

 当時の私は、この作品から感じたその定義に、感銘を受けたのを覚えています。自惚れに近いような気もしますが。

 「普通では無くて良いんだ」「普通であることだけが幸せではないんだ」
ということをこの作品が本当に伝えたかったのかどうか、それはもちろん作者様だけが知ることであり、私が断言するべきことではありません。

 それでも、私はこの作品からそんなメッセージを受け取りました。

 普通の人にとっては変に見えるかも知れないけど、私にとってはこうして、パソコンと向き合って、文字や映像を生み出しているこの瞬間が幸せなのだと。
 そう自分の幸せに対して胸を張れるようになったきっかけは、間違いなくこの作品にありました。

 私の場合少し境遇が特殊かも知れませんが、きっとこの作品が胸に刺さったという人は、多かれ少なかれ、そんなメッセージを受け取ったからという人もいるのではないかと思います。
 また、そんなことは思いもしなかったという人もいるかと思います。

 けど、多分、それでいいのです。

 この作品全体を俯瞰して見たとき、あるキャラクターの視点に立って見たとき、台詞に注目して見たとき、映画というものに注目して見たとき、それぞれで、この作品から感じるものは異なります。

 そうして多種多様な側面を含んでいる作品だからこそ、多くの人に支持され続け、愛されているのではないかと思います。


 『映画大好きポンポさん』という、一つのweb漫画から始まった物語。
 今もシリーズは続いており、現在第五巻まで発売されています。

 ……と言っても、本編二巻、サイドストーリー二巻、オムニバス一巻といった感じです。
 現在最新刊となっているオムニバスは、つい先日、4月28日に発売されました。
 今回の私のNoteで興味を持ってくださった方がもしいらっしゃれば、是非アマゾンで注文するなり近くの書店に足を運んでみるなりして、是非書籍を手に取ってみてはいかがでしょうか。

 また、今月の下旬には本編第三巻も発売が予定されています。
 二巻は何かと一巻とは異なった構成で進み、当時度肝を抜かれた記憶があるので、今回もどんな話になるのだろうとわくわくしています。

 そして再来月には、劇場アニメ。
 主題歌や挿入歌を今話題の花譜氏を始めとした神椿スタジオの方々が担当しており、本予告で流れている曲も格好良いな~と思いながら聴いています。
 公開と同日にサウンドトラックも発売されるそうなので、そちらも楽しみですね。


 それでは、今回はこの辺で。
 また遠くないうちに。


 さて、買い物に行こう。
 準備運動に2時間も掛けてしまった。

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