「スタンフォード式最高の睡眠」を生活に取り込むためのメモ

睡眠研究の総本山がスタンフォード。なぜなら、ハーバードをはじめ、今、世界で活躍する睡眠研究者のほとんどは、短期でも長期でもスタンフォードに籍を置いた経験があるから。

忙しい日常を送っている現代人にとって、今以上の量の確保は現実的とはいえない。また、睡眠時間が長すぎるとかえって身体に悪い。睡眠にまつわる悩みもストレスも、量の確保ではなく質の向上で解決する。

睡眠の質は、眠りはじめの90分で決まる。
最初の90分をしっかり深く眠ることができれば、最高の睡眠がとれる。

寝不足が続くと、マイクロスリープ(瞬間的居眠り)という、起きながらにして1秒足らずから10秒ていど寝ていたりする。脳を守る防御反応。つまり睡眠負債は脳に悪い。

ショートスリーパーは遺伝子。
生体リズム(人の体に備わったリズム)に関係する時計遺伝子に変異があることが、マウスをつかった実験でわかった。短時間睡眠は遺伝である。睡眠負債が続くとつらいという人はショートスリーパーではない。ほとんどの人は短眠の遺伝子をもっていない。

短時間睡眠の人も、長時間睡眠の人も6年後の死亡率が1.3倍高い。やはり短時間睡眠の人は短命の傾向がある。
短時間睡眠の女性は肥満度が高い。
短時間睡眠は肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病に直結する。
睡眠負債や睡眠の質の低下があると認知症にかかりやすくなる可能性がある。
1日1時間以上の昼寝は認知症のリスクを高める。
1日1時間以上の昼寝は糖尿病のリスクも高める。
逆をいえば、睡眠負債を返せばパフォーマンスは劇的に上がる。10時間ベットに入り続けたバスケット選手たちの成績は良くなり、その実験をやめると、成績はもとに戻った。

毎日40分の睡眠負債を返すには、毎日14時間ベッドにいるのを3週間続けなければいけない。
1日目、2日目の睡眠時間はみな、13時間だが、その後は多く寝るのは無理で、徐々に睡眠時間が短くなり、結局、3週間後に、平均8.2に固定された。彼らの平均睡眠時間は7.5h。
週末の寝溜めごときで、睡眠負債は解決しないし、睡眠の問題を時間でコントロールするのは難しい。

睡眠と覚醒は2つで1つ。
良い睡眠がなければ良い覚醒はなく、良い覚醒によって、良い睡眠も得られる。

眠りにはレム睡眠(脳は起きていて体が眠っている睡眠)とノンレム睡眠(脳も体も眠っている睡眠)の2種類があり、それを繰り返しながら眠っている。
寝付いたあとすぐに訪れるのはノンレム睡眠。とりわけ最初の90分間のノンレム睡眠は、睡眠全体のなかでももっとも深い眠りである。
明け方になるとレム睡眠の出現時間が長くなる。
睡眠メンテナンスで意識したいのが、最初のノンレム睡眠をいかに深くするかということ。
最初の90眠りはグロースホルモン(成長ホンモン)がもっとも多く分泌されている。
グロースホルモンは子供の成長に関与するだけでなく、大人の細胞の増殖や正常な代謝を促進させる働きがある。
長く起きていると、眠りたいという睡眠欲求が高まってくるが、最初のノンレム睡眠でその睡眠圧の多くが解放される。逆にいうと寝る時間がないなら、絶対に90分の質を下げてはならない。

最低でも6時間以上眠るのがベスト。
睡眠のベターによって、人生の質すら変わってくる。良く寝るだけでは、パフォーマンスは上がらない。逆にいうと、眠り方を変えることで睡眠の質が高まり、覚醒時のコンディションが整うばかりか、パワーも増大するということ。

トップアスリートほど、寝具、明るさ、室温など、睡眠時の環境に、ついて、はっきりとした自分の好みをもっていた。
アドバイスを受けただけでは、人は変わらない。キーポイントは正しい情報収集と理解力にある。
超一流の人のまわりにはたくさんの人が集まるから、あらゆる話を聞く。だが、彼らは決して大量の情報に振り回されない。ジャンクだらけの海の中から本当に必要なものを取得選択するという正しい情報収集力がある。だからこそ、超一流の人は成功までの最短ルートを見極め、短いスパンで結果を残す。

慢性的に不眠の症状を抱えている人はおよそ20~30%いる。
まず患者に睡眠生理の説明をしてから、認知行動療法に移ると効果が上がる。
○脳と体に休息を与える
○記憶を整理して定着させる
○ホンモンバランスを調整する
○免疫力を上げて病気を遠ざける
○脳の老廃物をとる

夢のはなし
レム睡眠中もノンレム睡眠中も、私たちは夢を見る。
起きたとき覚えている夢は、通常目が覚める直前に見ていた夢である。レム睡眠はストーリーがあって実体験に近い夢、ノンレム睡眠は抽象的で辻褄が合わない夢が多いことがわかっている。
レム睡眠中は、覚醒時のように大脳皮質が活性化していて、見ている夢に関連して大脳の運動野手足を司る神経細胞が活性化している。ノンレム睡眠中は脳も寝ているので、夢を見ても大脳の運動野は活性化しない。
レム睡眠とノンレム睡眠が入れ替わるごとに、夢も切り替わっていることがわかっている。これを踏まえると、夢は見た回数が多いほど、レム睡眠とノンレム睡眠のスリープサイクルをしっかり回せていることになる。
ちなみに、見たい夢を見るのは不可能。

睡眠時無呼吸症候群
肥満の人に起こりやすいが、日本人の場合、痩せていても睡眠時無呼吸症候群になる。アジア人は顔が平たく、下あごが奥まり、気道がもともと狭いから。
睡眠時無呼吸症候になると、1分後とに10秒も20秒も、首をぐっと閉められたのと同じ状態で眠っている。
カナダの調査では「睡眠時無呼吸症候群の人は、診断され治療がなされれば個人の年間医療費総額が半分に減る」というデータがある。
口呼吸も睡眠の質を下げる。
成長期の猿の鼻の穴をふさぎ、口呼吸をさせる実験では、鼻をふさがれ、過剰に気道を確保しようとしたために歯に異変が起きた。これほど鼻呼吸は大切。
鼻で吸って鼻で吐く腹式呼吸が習慣になれば、睡眠中も口呼吸で眠らずにすみ、いびきも解消する。

アルコールによる睡眠導入について
大量のアルコールは睡眠の質を下げるが、度数が強くても量が少なければその心配はない。もちろん体質もあるが、飲んですぐに眠ることで、最初の90分、しっかりと深く眠れているのだろう(ビールだらだらよりウォッカ一口)。

スリープサイクル
健康な人の場合、目を閉じてから10分未満で入眠する。入眠後には比較的短時間で一番深いノンレム睡眠にたどり着く。その質は第1周期の質できまる。
長く起きていると眠りたい欲求「睡眠圧」が蓄積し、眠るとこの圧力が放出されるのだが、睡眠圧の放出が第1周期でもっとも強くなることも実験で確かめられている。
つまり、何時間寝ようが、最初の90分が崩れれば、残りも総崩れになってしまうということ。
最初の90分の質が悪いことで、気分・体調・自律神経機能が整わない。典型的な例がうつ症状。

スリープサイクルにはかなり個人差があるため、実際の1周期はおよそ90~120分と幅がある。なので、90分の倍数の時間眠ることにはとらわれる必要はない。ただ、共通していえることは、第1周期には深いノンレム睡眠が約70~90分出現し、入眠時から90分の睡眠が確保できれば深いノンレム睡眠が十分にとれるということ。これが黄金の90分の根拠。

最初の90分が黄金になる3大メリット
○寝ているだけで自律神経が整う
○グロースホルモン(成長ホンモン)が分泌する
○脳のコンディションがよくなる

どうしても睡眠時間がとれない場合は、いつも通り時刻に入眠し、黄金の90分が終了した最初のレム睡眠のタイミングに起きて、時間を作る。明け方の睡眠は黄金の90分は出現しない。
ナルコレプシー患者、うつ病、統合失調症の患者、睡眠時間無呼吸症候群の患者は、黄金の90分は出現しない。

※重要
こうすれば、すぐにぐっすり眠れる。
○毎日の就寝時間と起床時間を固定する(とりわけ就寝時間)。
このやり方はサーカディアンリズム(24時間前後で1週する固有の体内時計。人間の体内時計は24時間よりも長いわけだが、健常な人であれば地球のリズムである24時間周期に日々修正されており、多くのホルモンもこの日内リズムの影響下にある)に合っており、寝付きをよくして深く眠るのに効果的なアプローチだ。

○体温を下げ、皮膚温度をあげる。
質の良い眠りであれば体温が下がる。睡眠中は、温度を下げて臓器や筋肉、脳を休ませ、覚醒時は温度を上げて体の活動を維持する。ただし、これはあくまで、体の内部の温度(深部体温)の変化の話。
深部体温は日中は高くて夜間低いが、手足の温度(以下、皮膚温度)はまったく逆で、昼に低くて夜間高い。
健康な人の場合は、入眠前には手足が温かくなる。皮膚温度が上がって熱を放散し、深部温度を下げている。
このとき、皮膚温度と深部温度の差は2℃以下に縮まっている。
つまり、スムーズな入眠に際しては深部温度と皮膚温度の差が縮まっていることが鍵。
入眠時にはまず手足から熱放散が起こり、続いて細部体温の変化が起こる。この辺かを助けてやれば、入眠しやすくなる。
○脳が興奮していると体温も下がりにくい。
脳のスイッチを知り、適当に切っていくことで、眠りはじめの乱れを防ぐことができる。
暗い部屋の方が眠りやすい。
そんな落ち着いた部屋で眠るため、寝室までの各部屋や廊下の電気を順番に切っていくーー「脳のスイッチオフ」とはそんなイメージだろうか。

眠りに入るまでの所要時間を「入水潜時」と呼ぶ。
エアウィーブの実験で、若くて健康な人10人を集めて入眠潜時を計ったところ、平均7~8分で眠った。これが正常値と考えていい。
比較のために、健康だが「寝つきが悪い」と自覚する55歳以上の人20人を20人を集めて入眠時間を計ったところ、10分程度だった。
寝つきが良い人と悪い人の差は、わずか2分。
なかなか眠れない、と思っていても、実際は寝ているケースは意外なほど多い。
なかには数十分寝付けない人もいるが、治療を要するに睡眠障害は別にして、最近は寝つきが悪いかもくらいの意見であれば、それほど神経質になる必要はない。
要は「昼間眠気が強い」「頭がすっきりしない」「ミスが多い」などの日中の覚醒度の低さが睡眠の質の良し悪しを判断するポイントになる。

人間は恒温動物で哺乳類だから、温度はホメオスタンシス(恒温性)でほぼ一定に保たれているが、同時にサーカディアンリズムの影響を受けており、体内時計によって日内変動(1日の中で変化)する。
平熱は「36℃です」という人でも、1日の中で0.7度くらいの変化がある。日中は活発に動けるように高く、夜はゆっくり休めるように低くなるのが特徴だ。
だからこそ、体温とパフォーマンスには密接な関係がある。タブレットの画面に丸い図形がでるたびにボタンを押す実験では、体温が高いときはパフォーマンスがいいが、体温が低いときはエラーが多いことがわかっている。

雪山で遭難すると眠くなるが、睡眠中は深部温度か下がる性質があるため、雪山で寝てしまうと通常よりさらに熱が奪われて低体温症になり、やがて死にいたる。
冷房で冷えきった会議室に悩む人は、雪山で遭難しそうな人と似た状況下にある。
「春はぽかぽかして居眠りしてしまう」というが(この現象は春特有で、実は特定されていない。ただ「秋から冬にかけては起こらない」ことだけはわかっている)、冷えきった冬や「キンキンに冷えた会議室」も眠気の原因となるので要注意。

だが、よくある睡眠本のように「深部体温を下げれば眠くなる」というだけでは正しい理解とはいえない。
大切なのは皮膚温度と深部体温の差を縮めること(研究データは1999年に『Nature』で発表されている)。そのためには、まず、皮膚温度を上げ、熱放散して深部温度を下げなければならない。
1.覚醒時は体温を上げてパフォーマンスを上げる。
2.皮膚温度を上げて熱放散すると、深部温度は下がり入眠する。
3.黄金の90分中はしっかり体温を下げて眠りの質を上げる。
4.朝が近づくにつれて体温が上昇し、覚醒していく。
このメリハリがあれば、最初の90分はぐっと眠くなり、すっきりと目覚められる。
日中の体温も上がり、眠気もなくパフォーマンスが上がる。

入浴は深部体温をも動かす協力なスイッチ。
入浴に関する実験データ(スタンフォード)では、40℃のお風呂に15分入ったあとで測定すると、深部体温もおよそ0.5℃上がっていた。
深部温度は上がった分だけ大きく下がろうとする性質がある。なので、入浴で深部温度を意図的に上げれば入眠時に必要な「深部温度の下降」がより大きくなり、熟睡につながる。
0.5℃上がった深部温度が元に戻るまでの所要時間は90分。入浴時にさらにさがっていくのはそれから。
つまり、寝る90分前に入浴をすませておけば、その後さらに深部温度が下がっていき、皮膚温度との差も縮まり、スムーズに入眠できるということ。
入浴後は熱放散のために夏も冬も発汗している。「寒い時期だから」とすぐに着替えて分厚いガウンなど着込んでしまうと、熱放散がうまく行かず、深部体温が下がらなくなる。
40°未満のぬるいお風呂に15分より短い時間入った場合は、深部体温は0.5℃も上がらないし、元に戻るまで90分もかからない。
ゆえに「忙しくて、寝る前90分前に入浴をすませるなんて無理だ!」という人は、深部体温が上がりすぎないように、ぬるい入浴かシャワーですませよう。

シャワーより効果的な即効スイッチは「足湯」
足湯で足の血行を良くして熱放散を促せば、入浴と同等の効果がある。
足湯は主に「熱放散のアプローチ」。体温の上昇は大きくないが、その分深部体温を下げるのに貢献してくれる。
寝る直前でもオーケー。

靴下をはいたまま寝てしまうと、足からの熱放散が妨げられてしまう。
脱がない靴下は、眠りの助けにならない。
電気毛布や湯たんぽを使う方法もあるが、ずっと温めていたら今度は熱がたまる「うつ熱」現象が発生し、熱放散が起きなくなる。

脳の温度は深部体温の動きととても似ており、入眠時にはやはり低くなる。
脳の温度はレム睡眠の時に少し高くなる。
睡眠中には脳を休めなければならず、休めるには体温を下げたほうがいい。
枕は通気性がいい(冷却装置)、そば殻枕も有効。今は技術の発達で、そば殻と構造が同じプラスチックビーズも開発されている。
ちなみに、枕の高さについては、気道を確保することを考えると低いほうがいい。

ラットやマウスを住み慣れたゲージから取り出し、新しいゲージに入れたところ、眠りにくくなる。
環境が変わると脳が反応して、日とは不眠症になる可能性がある。
旅先で眠れなかったという経験が、あると思うが、これは環境の変化が脳に刺激を与えて、入眠が妨げられていることにほかならない。
好奇心旺盛な人でも、眠りにつく前の脳のチャレンジを好まない。
睡眠も外的な状況に非常に影響を受けやすい。
私たちは寒くても暑くても眠れない。うるさくてもだめ、静かすぎてもだめ「明るいとイヤ」な人もいれば「暗いと眠れない」という人もいる。
そこで「眠る環境」が大切になってくるが、どんなによい環境でも、脳が働いていたら眠れない。
よく「スマホやパソコンの画面から放たれるブルーライトは睡眠に悪い」といわれているが、ブルーライトの影響を睡眠に及ぼそうと思えば、かなり画面に顔を近づけてジット見続ける、ぐらいのことをしないといけない。
スマホやパソコンが睡眠に影響を与えるのは、ブルーライトというよりも、操作で脳を刺激してしまうことにあるといえる。
モノトナス(単調な状態)にすることは、眠るための能のスイッチである。
眠る前の娯楽は、頭を使わずにリラックスして楽しめるものがいい。犯人が知りたくて夢中になるミステリーよりも退屈な本。
退屈は普段はあまり歓迎されないが、睡眠にとっては良き友である。退屈さによって脳がスイッチオフになり、深い眠りがやってくるのだから。
睡眠のルーティーンも役に立つ。
いつものとおりのベッドで、いつもどおりの時間に、いつもどおりのパジャマを着て、いつもどおりの証明と室温で寝る。入眠時に音楽を聴くならいつも同じ単調な曲。
電車に乗っているとき眠くなるのは、リズムのある揺れが眠気やリラックスを促すためだといわれているが、単なるリズムのある揺れでは眠りはやってこない。受け身になってリズムに身をまかせてこそ、入睡モードになる。そう考えれば、寝る前の運動は考えものだ。

イスラエルの睡眠研究家ペレッツ・レビ氏の実験の結果、通常就寝する時間の直前から2時間前あたりまでがもっとも眠りにくいことがわかった。
この実験から、脳のスイッチを早く切ろうとすると眠りづらくなることがわかる。
明日1時間朝早く出掛けなければいけない、という状況はよくあるが、1時間早く寝るのはかなり難しい。逆に、いつもどおりの寝て睡眠時間を1時間削るほうが、すんなり眠れて質が確保できる可能性が高い。
ちなみに、寝る時間を前に変更したい場合は、いつもより早くお風呂に入るなどで調整する(1時間で8日かかる)。

朝起きてから眠るまでの行動習慣が最高の睡眠をつくり出し、睡眠と覚醒はセットになっている。最高の睡眠が最高のパフォーマンスを作り出す。覚醒に必要なスイッチは2つあり、それは「光」と「体温」。
私たちの朝と夜は光なしでは訪れないし、体温、自律神経、脳やホルモンの働きも、光がないとリズムが崩れて調子が悪くなってしまう。
奈良県立医科大学の佐伯圭吾氏、大林堅史氏が実施した、平城京に住む高齢者を対象にした1000人規模の調査がある。
白内障患者を「治療のため手術を受けるグループ」と「受けないグループ」に分けて集積したところ、手術を受けたグループで分けてデータ集積したところ、手術を受けたグループで認知機能が良かった。これは、光の刺激が脳の活性化に影響を与えることを示す大切な報告である。
これほど大切な光は、窓を開けるだけで簡単に手に入る。朝は太陽の光を必ず浴びる習慣をつける。
体温はサーカディアンリズムの影響をもっとも受けている。睡眠中は下がり、覚醒中は上がる。このリズムを外的要因で崩さないようにすることが大切。
光と体温、この2つが主にいい覚醒をつくっているといえるが、そのほかにもホルモンや神経伝達物質もその一翼を担っている。

アラームは2つの時間でセットする
1970年代の報告だが、明け方のレム睡眠のときに起きれば爽快感があり、その後のパフォーマンスが上がるという実験結果がでた。
だが、実際にはこのスリープサイクルには個人差があり、それほど規定的ではないため前もって予測できない。
そもそも、レム睡眠がいつ出現するかを調べるのは難しい。
確実にレム睡眠で起きる方法がある。
具体的には、アラームを2つの時間でセットするというもの。
仮に7時には絶対に起きなくてはいけないとしたら、6時40分と7時間の2つの時間にアラームをセットする。6時間40分から7時までの20分を起床のウインドウとするのだ。
実行にあたっては、1回目のアラームは「ごく微音で、短く」セットする。というのも、レム睡眠時は覚醒しやすいので、小さな物音でも目覚めやすい。
1回目のタイミングで起きることができなくてもかまわない。なぜなら、このとき目覚めなければ「ノンレム睡眠で」深い眠りの真っ最中ということだからだ。仮に音が大きいとノンレム睡眠で起きてしまい、目覚めの悪さにつながってしまう。2回目のアラームでは、無理なく起きられるはずだ。
この方法でレム睡眠の時に起きられる確率が、条件によって多少変わるが約1.5倍になる。
スヌーズだと、十分な時間が空けられず、起きにくいノンレム睡眠で何度も警告音が鳴り響き、目覚めもよいはずがないからだ。
5~7時くらいの時間帯であれば、生理的にレム睡眠が増えているので、目覚めが良くなる確率はかなり高い。
ちなみに、朝早くから目覚めるが布団からなかなか出られないのはうつ病の兆候。

目が覚めれば自然に体温は上がっていくが、すぐに行動することでさらに体温のスイッチがしっかりとオンになる。
ベットから出たら、天気にかかわらず朝の光を浴びる。

裸足朝活で覚醒ステージを上げる。
床にじかに触れることで皮膚感覚を刺激して、上行性網様体を活性化させること。
もう1つは、裸足で皮膚温度を下げ、サーカディアンリズムで自然に上がっている深部体温と皮膚温度の差をさらに広げること。

朝、顔を洗うさい、手を冷たい水で洗う。
朝風呂は眠くなるのであまりお薦めできない。こうしたことを考えると、朝はシャワーがお薦め。

朝食には、体温を上げ、1日のリズムを整えて活動を始めるためのエネルギー補給という役割がある。
朝食には「体内時計のリセット効果」と「肥満防止効果」があり、まさに一石二鳥。
汁物は体温を上げる。
SCNラボの姉川絵美子氏、酒井紀彰氏が、マウスを使って「噛むことと体内リズムや睡眠」についての実験をおこなった。
マウスの飼育には、通常、固形のペレットを与える。すると、彼らは好んでペレットをカリカリ砕きながら食べる。そこで、通常のペレットと、ペレットをミキサーで砕いて粉末で与えたマウスの睡眠・行動パターンを詳細に調べた。
比較すると、固形食の「噛んで食べるマウス」には、睡眠や行動パターンに夜昼のメリハリがあることがわかった。逆に、粉のエサを与えた「噛まずに食べるマウス」は、夜昼の、メリハリがなくなった。活動期の睡眠量が通常のマウスより多くなり、覚醒すべき時間に活発に活動しなくなった。
「噛まずに食べるマウス」の海馬では、明らかに神経細胞の再生が減っていた。
噛むことが睡眠・行動パターンに影響する。
噛むことで三叉神経から脳に刺激が伝わる。「よく噛む」ことは1日のメリハリをつけるのに役立つ。

朝、疲労するまで運動するのは良くない。
何より問題なのは体温が上がりすぎること。体温が上がりすぎると発汗による熱砲散が起きて元の体温より下がる。これは眠気がやってくるサイン。
何事もほどほどが良い。体のことを考えれば、早足のウォーキングのなどがおすすめ。

コーヒーを体に取り込むのも良い。
2015年の「欧州食品安全機関(EFSA)」では、成人1日約400ミリグラムまでなら安全とされているので「5杯」は許容範囲。
健康な成人の2型糖尿病、肝臓がん、子宮内膜がんのリスクを減らすというエビデンスも報告されている。
ただし、血中カフェイン濃度は半分になるまで約4時間かかる。
そのため、就寝1時間前と3時間前にコーヒーを一杯ずつ飲むと、10分程寝つくまでの時間が長くなり、30分程度睡眠時間が短くなるという報告がある。
コーヒーをテイクアウトして「会話」という感覚刺激を加えるという方法がある。
ほかの刺激と同時におこなえば、相乗効果が期待できる。
カフェインは眠気や疲れ、覚醒時間に応じて蓄積する睡眠圧にも対抗するので、昼食後や午後にも効果を発揮してくれる。

頭を使う仕事、重要な仕事はできるだけ午前中にしたほうが賢明だ。
夕方からは睡眠のために頭を使わない(会計はクレジットカードにするなど)。

覚醒物質「オレキシン」は、脳の視床下部と呼ばれるところの細胞から放出される。絶食するとオレキシンの分泌が促進されるが、食事をすればオレキシンの活動は低下し、覚醒度も落ち着くことがわかっている。
夕食をたべないとオレキシンの分泌が促進され、食欲が増大する上に、覚醒して眠れなくなる可能性が高い。
さらにオレキシンは、交感神経の活発化や体温上昇も引き起こす。
夕食抜きは、眠りと健康にとってまさに「百害あって一利なし」。

風呂で体を一度温めたあと「冷やしトマト」を食べるのも一案。トマトは体を冷やす性質があり、深部温度を下げる。
また、南国では体温を下げるために「きゅうりジュース」なるものを飲んでいるそう。
他にも東洋には漢方薬があるし、ヨーロッパにはカノコソウやカモミールに代表されるようなハーブがある。

お酒は、睡眠薬と同じくらい強く、使いようによっては危険性があるが、少量であれば寝つきも良くなるし、睡眠の質を下げない。
目安は体重にもよるが、日本酒換算で1~1.5合である。

時差に体が順応するのは1日1時間。つまり、時差が7時間なら再び同調するまで7日かかる。また、時差の関係で就寝時間に体温が高いと入眠が困難になる。
現在、時差ぼけを防ぐには、飛行機に乗っている間はもちろん、出発前から現地の時間に合わせて行動すること。とくに、出発直前の食事を、現地時間に照らし合わせて「とるかとらないか」を決めるのは効果があるように感じる。
仕事が控えている海外出張であれば、時差ぼけ防止のためにも出発当日はできるだけ現地の時間に合わせて行動し、機内食は食べないと決めてしまうのもおすすめ。

眠気
眠気というのは、厳密には「まとまった長い覚醒を維持できない状態」のことを指している。
スタンフォードの研究で、健康な人でも1日のうち14時ごろが眠ってしまいやすい時間だとわかった。うとうとしてしまう午後の眠気、これは「アフタヌーンディップ」と呼ばれる現象だ。

眠気
睡眠負債からくる眠気においては、短い昼寝で眠気を解消するのは難しい。
か「起きがけの眠気」が何日も続くのに、睡眠不足の自覚がないなら、睡眠時無呼吸症候群を疑ってほしい。
生活のリズムの乱れは、そっくりそのまま睡眠リズムの乱れにつながる。

スタンフォードの研究で、生物的に、ランチは午後に眠くなる要因ではないことがわかっている。
「遅寝遅起」は、午後の眠気を軽くするが、それは、慢性的に寝不足であることを示す証拠にほかならず、その場しのぎの対策で、根本解決にはならない。

あまり重い食事をとると血糖値にも影響が出て、極端な場合はオレキシンなどの覚醒物質の活動を抑えてしまう可能性もある。中色をとらないのも手である。

会議のときに眠くなる
会話は覚醒の強いスイッチなので、積極的に発言すれば眠気は感じずにむ。

覚醒ニューロンをとことん利用する
覚醒のときに活発になるニューロンとしては、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンがある。オレキシンも覚醒と関係している。なかでもオレキシンは親玉的存在で、ほかの覚醒系物質を支配している。
なぜ、覚醒のニューロンが複数あるかといえば、覚醒時にはそれに伴ってさまざまな生理現象が生じるからで、よくある「緊張」「集中」「注意」なども覚醒の重要な行動状態。
つまり、覚醒を呼び戻すには、ノンレム睡眠時に比べるとはるかにたくさんあり、役割が分担されているそれぞれの覚醒スイッチをオンにしない手はない。

 「ガム」「コーヒー」を利用する
ホットコーヒーや味噌汁など温かいものを飲めば、多少は体温が上がり覚醒度が上がる。

「昼寝する」
種としてのヒトは、進化の過程で昼寝をとっていた可能性もある。
ヒトの場合、前途のように14時ころ眠くなるという実験結果が出ているが、このアフタヌーンディップは、霊長類には避けられない睡眠パターンなのかもしれない。
眠たいときは体温や脳の眠りの条件が整った数少ない瞬間だから寝てしまうのもひとつの手。

Googleやナイキなどは勤務時間中に昼寝を推奨している。
連続して起きている12時間おきに2時間、仮眠をとると(1日4時間)、ミスが減ることが実験でわかっている。
「20分」程度の仮眠でも、ある程度リアクションタイムが回復することがわかっている。

2000年、日本の国立精神・神経医療センターの朝田隆氏、高橋清久氏らが高齢者337人のアルツハイマー患者とその配偶者260人の「昼寝の習慣と認知症発生リスク」についての解析をおこなった。
「30分未満の昼寝」をする人は「昼寝習慣のない」人に比べて、認知症発生率が役7分の1だった。また「30分から1時間程度昼寝をする」人も、「昼寝の習慣がない」人に比べて発症率が約半分になることがわかった。しかし、なんと「1時間以上昼寝する」人は「昼寝の習慣がない」人に比べて発症率が2倍も高かったのである。
「仮眠をとるなら20分程度」とするのが良さそうだ。

電車内で仮眠はたいていノンレム睡眠。
連続して眠った6時間と、細切れで眠ったトータル6時間は質が全く違う。

「ブルーマンデー」も、睡眠によってコントロールできる。
リズムが崩れて睡眠の質が下がることも原因。
土日の朝、いつもより1~2時間多めに眠る(起床時間を後ろにずらす)くらいならとくに問題はない。就寝時間はウィークデーと同じにするのがおすすめ。

チーム運営に悩むリーダーなら月曜日に会議を持ってくる。
個人レベルであれば、月曜日の午前中に重要なタスクを持ってくるなどして、ある程度強制力を働かせるのも手だ。
また、管理職の人は部下の健康管理(とくにうつ病やアルコール依存症、不安神経症などの予防)のためにも「睡眠衛生の重要性」を常に頭においてほしい。
うつ病などによる自殺(月曜日に多いといわれる)が深刻化しているが、適度な睡眠マネジメントでかなりの改善を望むことができるのだから。

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