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感想_4年ぶりの供給「はいふり あらいばるっ」を浴びてみました_

其は幕間を紡ぎ、あの景色に到達するまでの軌跡━━━━━

2020年初春に劇場版も公開された大人気アニメ「ハイスクール・フリート」。その劇場版を記念としたスピンオフノベルが発売となりました。

いや……長かった。というのもこの「あらいばるっ」は、以前に刊行された「いんたーばるっ」というシリーズの実質3作目にあたるものなのです。「いんたーばるっ2」が出たのが2016年12月なので、4年も前になるんですね。

………2016年が4年前???????

何年前かと西暦とその年に何が起きたかって乖離しますよね。話が「スナックバス江」第★56★夜の方に脱線しそうなので時を戻そう。


いや……長かった。というのもこの「あらいばるっ」は、以前に刊行された「いんたーばるっ」というシリーズの実質3作目にあたるものなのです。「いんたーばるっ2」が出たのが2016年12月で、4年も前になるので、2016年12月は4年前なんですよ……(はいふり環境大臣並感)
まさかこんなに空くとは思いもしませんでした。2017 年にはOVA、2019年にはアプリゲームが登場し、それを踏まえたあの痒いところに手が届きまくった聖典の続編が当然来るものとばかり思っていたのです。

待てども暮らせども来ないのだ……何かあったに違いない。メディアファクトリーさんに要望を送ったりもしました。もっと2巻を買えば良かったという悔やみ、コンテンツが存続していること自体が得難いことなのだという悟り、日々を楽しむ裏で静かに感情が沈殿してゆきました。

そんなあるとき、TwitterのTLに1枚のスクショが目に飛び込んできました。それはどうやらMF文庫Jの発売予定作品の紹介。

\\著者:姫ノ木あく イラスト:桝石きのと//

なにも言うまい。さあ4年ぶりの“かーにばるっ”の始まりだ!!!!!

※注意!※
これ以降の記事は本作品のネタバレを含んだ内容となっており、未読での閲覧はお勧めいたしません。




1. 鰹とマヨネーズにアレコレ
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劇場版記念だからといってその周辺のみが描かれるわけではありません。あらいばるっ第1話はTVシリーズ最終話の直後から始まります。あの刻に想いを馳せていきます。しんみりする感じかな……

のっけからミケシロ過激派教材を原液で脳にぶち込まれます。理解が追いつかない光景が次々と挿入されてゆきます。咀嚼するな感じろ!!!ましもんもあるぞ!!!

うめうめ。
はいふりの感想を漁っていると、ミケちゃんかシロちゃんに苦手意識を抱いてらっしゃる方もチラホラ見かけたりします。更にその中にはこのノベルシリーズでの彼女たちはそれほど苦手が湧くことはないという方もいらっしゃりました。邪推ではありますが、やはり地の文で内面・心情が窺えるというのは印象に大きな影響を与えるものと思われます。当たり前っちゃ当たり前なんですけどね。わざと明るく振る舞ったり、頭では分かっていても感情的になったり、各々に考えてることがあろうとも他人のことなんてその人自身にしか分からない。それを小説は文章の力で対象に寄り添うわけですから。いんたーばるっシリーズの主人公とも言えるシロちゃんの解像度は、特にクリアに感じられるでしょう。

そんでほんで。肝心の第1話ですけどもね。
(前述ごとく、脳内ビックバンが起きた猫の顔)
瞳孔ガン開き
なんだか観ててぽかぽかしてきたよ。

OVAでの「うちの艦長」距離感も、劇場版で一緒に湯船に浸かったり寝たり普通にしてたのも、理解してしまった。地の文でシロちゃんがずっとグルグル目になっているのが面白いですね(グルグルしたいのはこっちの方なんだよな)(知名艦長を抑えろ!)。

RATt事件を通して互いを理解し、気持ちを共有してゆく姿にも胸を打たれます。
私はTVシリーズでシャワーを浴びながら気を引き締め直すミケちゃんの場面が大好きなのですが、自らの立場を理由に自分の気持ちを心の奥に押し込む姿というのは強くありつつも、あの年頃には酷ですね。シロちゃんはシロちゃんで、この時点では柔軟になったというよりは、サポートの役割に徹したいという気持ちに囚われ過ぎて感じるのも彼女らしいと思います。

ミケちゃんの危なかっしさが着替えの他にもコンビニや出前で描写されますね。
くすくすと笑える和みの場面。どこか影を感じさせ、それをあまりある輝きで覆っているのが彼女の特徴ではないでしょうか。読者の脳はもう原型をとどめていませんが、さらにかき回されます。

ミケちゃん呼びをぐいぐい推すのに、マヨネーズを思い出すと赤面して苦笑する岬明乃なに???

いんたーばるっシリーズ(MF文庫Jでの表記なのですが、良いですねこの呼称)では、かなりの描写が割かれてきた宗谷家は今作でも健在で嬉しいです。
真冬「明乃ちゃん」←!!?!?
真冬さんのイメージが気持ちマイルドになりました。これはこれでなかなか…。
真霜さんもだらしなくて好き。“猫”、“料理事情”等、ばるっ第1巻やひみつメモの小ネタを挟みながら展開される会話や団欒に気持ち悪い笑みを浮かべた容疑で逮捕されちゃいますね。


知名もえか さんがログインしました。

おいおいタヒんだわ。場面は移って横須賀女子海洋学校。今回はこれまで映らなかった、学校や整備局からの聴取といった部分も描写されました。なかなかヘビーになりそうだなっ印象なのですが、そこはもかちゃんのおかげでスムーズに。出るたびに偉業が更新されるのこわい。



2. ほどよい角度で一攫千金珍道中、ふたたび
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『いつから“リンまゆ”だと思っていた、お前が今読んでいるのは“テアリン”だ』
や、やられた……!
解釈の濃縮還元、これがこのシリーズの真骨頂と言えようぞ。
直面した恐怖から逃げる自分自身に嫌悪した。最終決戦を控えた自らの責任が重くのしかかった。艦の最期が棘となり刺さった。真面目な少女は節目節目でそんな心と同居し葛藤を繰り返してきました。そんな彼女が再び歩みを進められるのも、優しく持論を投げかける友人たちが幸いにもいてくれたことが多いのではないでしょうか。私は、ハイスクール・フリートは成長物語だと思っているのですが、彼女の姿はまさしくその一端を担っているといっても過言ではないでしょう。

さて今回は、第1話がミケシロメインだったのに対して、まゆちゃんの尾行を中心としてその他の人物たちがあの夕暮れののちどう心を変化させていったのかが描かれます。……いや平常運転っぽい子の方が多い気もしますけど、そういうのって表面に出るもんばかりでもないでしょうし。

まゆちゃんと宝くじにまつわるエピソードは、ノベライズ以前にもありました。
コミカライズ第3巻の第22話('17.11月号掲載)ですね。

両方の反応を見比べるに、あらいばるっのエピソードが時系列的に先にあったと
考えると自然かなと思われます。

・共通して登場するのはミケシロリンまゆめぐ
・まゆちゃんが宝くじを購入するのは月に一度
・晴風が眠りについたのが5月5日、解散騒動が6月9日
・現実世界において2016年に天赦日は6回あり、5月12日 がそのうちのひとつ
・メンバーは、あらいばるっで初めてまゆちゃんの趣味について知ったような反
応を見せる

上記の点から推測して各月上旬における購入イベントをそれぞれ描いているのだと、私は受け取りました。いんた一ばるっ時空の重箱をつつくようで申し訳なさがありますが。
(書いてても思ったけど、あの子らずっと始末書書いてんな)

また例に漏れず細かいネタは随所に挟まれております。ひとつ挙げると、めぐちゃんがまゆちゃんの下校に気づけたのは、彼女と席が近いからでしよう。

近いという微妙な言い方をしたのは、晴風艦内教室での席順と中間考査の席順が異なるからです。客員的立ち位置のミーナさんと美波さんが居なくなり、ミケちゃんがリンちゃんの位置に移動したり、諸々変わっております。
本当なんです!!!隊長信じてください!!!!! 書く直前まで 知らなかったそんなの…。気になった方は見比べてご覧ください。
いずれにしてもリンちゃんの死角にまゆちゃんの席が配置され、めぐちゃんの近くになる点に変わりはありません。

めかしこんだまゆみ嬢、それはもう絵に描いたような美少女なわけでして。5巻第33話で航&砲&美波さんと普通にショッピングする際の服装を見ても、普段からお洒落な子なんだろうね。
ファンブックで女性スタッフ陣にも好評なデザインは伊達じゃない。あの座談会、写真が完全に居酒屋で乾杯してるとこなのほんとすき。

機関科4人の台詞回し自然すぎて狼狽えたわね。これだけ台詞が続くと、「ルナちゃんやレオちゃんが話題の起点となる」→→「サクラちゃんやソラちゃんが相槌やツッコミを入れる」ってパターンが多いきがするな〜、みたいな印象を受ける。なんにせよルナちゃんがチョr……可愛がられてるのがよく伝わります。
レオリン描写もあります、勿論だよ。2巻のときはリンまゆの空気に当てられすぎて、レオちゃんのこと一瞬忘れちゃってたのは内緒ね(ほんとごめん)

リンちゃんの麻雀評を聞いてると図上演習もやってみて欲しくなる。あれって艦単体を動かすより規模の大きな盤面だから艦長級しかしないのかな。ローレライにも士官試験を蹴った航海長とか出てくるので、役職に限らずそういうスキルの査定には興味ある。劇場版以降のデータを掲載したファンブック2とか……。
完全にBBF〔ボーダーブリーフィングファイル〕の受け売り。ブルーマーメイドブリーフィングファイルも出して♡

内田まゆみ清純派後輩マネージャー幻覚なに?

ココミーナのくだりは演習から直行してくるやりとり等から艦ピンのエピソードを思い出しました。あくまでも「ともだち」としては認識しきってないというココちゃんのリンちゃんに対する言動がフューチャーされてきただけに、唐突にテア艦長へ繰り出されるジェラシーが笑える。距離感バグってんな。

前後するかたちでミケシロ、メイタマにもスポットライト。書類仕事にあそこまで苦手意識を表すなんて、ミケちゃんなにがあったんだ……?(全く描かれない中学時代に関係が?)
作業消化率5分の1とのことで、先述の時系列仮説もあながち的外れじゃないかなとホクホクしております。
名前のみながら古庄教官に触れてくれたのも嬉しい。OVA当時は演じる豊口さんの事情もあってか大きくフューチャーされるずに終わってしまったので、その頃なにをしていたのかを知れるのは有難いかぎり。ドブ板にも関係施設があるんでしょうか。このエピソードも土地勘があるともっと楽しめるんだろうな。
メイタマの方もこちらはOVAの前日譚ということであの「ネコでも分かる」入門書を物色中。いんたーばるっ2巻ではメイちゃんを圧倒していたタマちゃんが一転、OVAでは終始手のひらの上で踊らせる始末だった点へのセルフアンサーといったかたち。ここらへんは当時も姫ノ木先生が自身なりの解釈として呟いてらっしゃいましたが、さらにそこから「末永くお幸せに、ご馳走様」な補強があり大満足です。

ホットドッグを食べるくだりはやっぱり何と言ってもローレライの乙女ですよね(強めの語気)

そしてあの物語があったからこそ、テア艦長がリンちゃんにかける言葉は温かく、芯を捉えたものだったのでしょう。

あの激動の日々がなければ沈まなかったかもしれない、あったからこそ今がある。どう捉えるかのきっかけを貰えることの大切さを感じた一篇でした。


3. 引き寄せる
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さあここからはMF文庫Jのあらすじに記載されていなかった範囲。時系列はOVAの後、もっといえば艦ピンの後でもあるか(あの作品、若干パラレル入ってるので、似たような出来事があったと補完してる)。章のなかで場面ごとに時間軸が過ぎてゆく印象。

シロちゃんのこの献身的とも、「また小難しく考えてるなあ」ともとれる様子がなんとも小気味良い。思考を巡らせまくって、劇場版で見せた阿吽の呼吸の片鱗が既に伺えます(鬼を斬ったりはしない)(風の呼吸まがいのことするグンマーと達人令嬢は居たけど)(遊郭編おめでとう)

本章サプライズ第一陣、晴風がいちばん変わり者ってほんとぉ?な天津風時津風クラス。もう台詞からしてこれこれって感じ。学校側は配属人事も成績のほかに適正も見て判断している設定なので、実習の組み合わせもこの3組の相性が良いと目されているのかもしれない。実習評価に悪態ついて穏やかに正論かまされるちーちゃん草。

現職ブルーマーメイドが協力してくれる授業もあると想像すると楽しいですね。しかも今回みたく事前に知らせずにとなると。何度も使える形式ではなさそう。サングラスのブルーマーメイド姿見たい。シロちゃんの既視感描写はフリか何かかな……?実習でいえばローレライでもこんな指示以外にも臨機応変に対応せよみたいなのがつづいて戸惑いました。

うちの艦長にルビ「岬さん」が振ってあるとジワる。全くもって正しいが。
1巻の頃からのメイちゃんがミケシロ識者っぽく振る舞う感じも健在。好き勝手やってそうで気遣いに長けた子という部分がでてる。
ココちゃんもあいかわらず友達観が……そういうとこだよ、納沙。
 そしてブルースは犠牲となったのだ。

本章サプライズ第二陣、ゆいさんご
外部に主人公チームに惚れ込んでるキャラクターがいると色々ありがたかったり。とはいえ地の文が優衣ちゃんで良かった。
コミカライズ、OVAからの暗躍担当ということで此処に比叡クラスの内情推理を絡めてくるのはお見事だなと感嘆しきりです。
他の方が呟いてらして気づきましたが、比叡は劇場版の障害物航走にて一年生ながら健闘しており、療養に入る艦長に花を持たせようとしていたのでしょうか。

本章サプライズ第三陣、“まだ見ぬ強敵たち”
ここに来ての大盤振る舞いな構成にあっぷあっぷ加減してくれな嬉しい悲鳴。
劇場版の入場者特典として配布されたコミカライズEXがばるっ1巻の内容を引用していて、そこを踏まえて再び小説の方で横須賀の動向を探る姿が描かれています。阿部先生も姫ノ木先生もシリーズを深く汲み取って、作品を紡いでくださるので感謝しきりですね。
ちょうどここ数ヶ月は大和型首脳陣の過去を描いたエピソードもコミカライズで連載されていたので、合わせて読みながら各々の関係性に想いを馳せるのも乙ですね。
あとこの場面のやりとりを読んでいてもRATt事件絡みでかなりの報道管制しいたり、海上保安法あたりの描写だったり、与えられた権限がなかなかにデカイ。

「以前の晴風で過ごした時間を、追い越してしまった」、「可能じゃなかった者も……」の文章やテンポがたいへん好み。
直前に強運の持ち主として注目されたミケちゃんが筆記試験で赤点をとってしまっているというのがなんとも面白いです。ただこの追試勉強を一緒に取り組むなかでシロちゃんは自分なりの“答え”を積み上げるに至ったわけで。彼女の特性が必ず成功を選べることではなく、全体にとって善となる方向へ最終的に帰結するといったもの、と。
また、この微笑ましい友人関係の描写がシロちゃんだけでなく「職務上の繋がりのみで終わらせたくない」という岬明乃自身の願いも叶えているという点も併せて素敵だと思いますね。







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