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病理診断澪標 骨髄病理入門

骨髄の病理はとっつきにくい

固形腫瘍は一般に、
腫瘍部と非腫瘍部の境界が目に見えやすいので、
病変を認識しやすい。

炎症などの非腫瘍性疾患や血液造血器疾患では、
病変と非病変の境界がわかりにくいことが多いので、
病変を目で見て認識する病理診断で特に初学者はとっつきにくい。

さて、
骨髄では一体何を見て、
何を臨床医に報告すればいいのだろう?

結論から言うと、最も重要な3点は、
(1)細胞密度(cellularity)
(2)血液内科医が見るスメアと矛盾ないか
(3)線維化

と個人的には思っています。

血球の形態はスメアの方が詳細に観察できるし、
造血細胞の個数・比率もスメアで決めるのが基本。

スメアの弱点は「骨髄の組織構築」がわからないことなので、
「組織そのもの」を見たものと比較して、
「スメアと大きく矛盾しない」というのことを言えるのが重要な訳です。

その上で、
(4)ある程度定型的な形態を示す疾患を挙げられるか、
さらに言うなら、
(5)難しい病態に対してプラスアルファをどれだけ読み取れるか、
(6)免疫染色も駆使して組織からどこまで病態に迫れるか

ということになってくるわけです。


実際に「矛盾しない」とは何か?

まず、
スメアでみている細胞と組織でみている細胞が同じような集団か?
ということです。

それには
細胞が十分採取されているか?
というのが重要となります。

具体的に一番問題になるのが、
「スメアでは細胞が少ない(低形成)だけど、
組織で見ると線維化を伴う過形成で、しかも異型がある」

つまり、
線維化に伴うドライタップのような状態です。
ときとして、
血液内科医はそれに気づいていない場合があり、
線維化した骨髄では、
もはや「組織のみが頼り」の状態です
(少なくとも形態観察の意味では)。

細胞密度の評価は、
スメアではなく、圧倒的に組織の方が正しいです。
血液内科医が最も組織に求めているのは「細胞密度の評価」です。

もっと言えば、それしか求めてない、まである。


基本的な細胞密度の考え方

骨髄の細胞密度は年齢により変化します。

はっきりとした基準はないものの、
「100ー(年齢)」(%)
というのが一番わかりやすく、使いやすいかと思います。
だいたい、±20くらいの誤差はOKで、
あとは、何となく、感覚的な感じで大丈夫です。

一般的な血液疾患の鑑別方法を把握しておくことも大切です。

たとえば、
貧血なら小球性、正球性、大球性から考え、
特に、
「大球性貧血で最も多い疾患がMDS(骨髄異形成症候群)である」
ということを知っておくこと。
MDSではMCVは100を少し越える程度です。

大球性貧血で有名な巨赤芽球性貧血は、
まず、頻度として稀で、胃切除後などのエピソードがあることも多く、
MCVは120~130くらいの高値になります。

また、
血算(の情報)を把握しておくことも大切です。
というか、それなくして診断するのは最早モグリです。

骨髄で過形成髄を見た場合、
貧血または血球減少があれば、通常はMDSである一方で、
血球増多があれば、通常はMPN(骨髄増殖性腫瘍)です。
これは非常に重要で、
形態ばかりを頼りにしていては間違いかねません。

もちろん低形成性MDSなど例外事項もありまし、
MDS/MPNのような中間的な病態もあるのですが、
こういうのは頻度的に少なく、
まずは、基本的で、頻度の高い疾患を把握した後で勉強しましょう。

そして最後に、
骨髄での組織の強みの2つは、上記(4)、(5)と関連しますが、
(7)巨核球の形態異常を捉えやすい
(8)異常な血球の分布を把握できる(集簇、骨梁周囲の分布など)

ですが、
これらも少しアドバンスな内容なので、
ここでは割愛します。


大事なこと、まとめ

(1)細胞密度(cellularity)が一番知りたい:100ー(年齢)

(2)線維化はないか、検体がちゃんと取れているか

(3)血算と組織像から定型的な疾患を挙げる
    特にはじめ難しく感じる疾患として、
      ① MDSは血球減少(大球性貧血)で、過形成髄
      ② MPNは血球増多で、過形成髄
 


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